電気系大学院生の研究生活をふりかえる【2021年】

本来,「大学院生のブログ」というのは,研究や学生生活のことを中心軸に据えて記事が展開されていくものなのだろう。外部の人が読めば,なんらかの新しい知識が手に入るような,そういう良質な記事が数多く揃っている,そんなものであるはずだ。

しかし,当ブログはといえば…研究あるいはそれに類する有益な記事がほとんどない。書いてあるものといえば,気晴らしのお出かけ記録だの,マニア向けの趣味ネタだの,研究が疲れただの,そんな記事ばかり。ネタとなるはずの研究に忙殺されたからだ。否,「忙殺」ではなく,面白くてのめりこんでいた,というのが本当のところだ。

年の瀬が近づき,学会へ投稿する原稿も完成したところで,ようやくブログを書くためのまとまった時間ができた。この時間を使って,1年間の研究生活をまとめておく。

コロナ禍における電気系大学院生の研究生活

はじめに,自分の所属・学年や研究テーマについて短く書いておく。

うちの大学の電気系3学科では,学部4年生(以下,B4)になると研究室に配属され,指導教員の下,卒業研究を行う。多くの学部生(9割以上)は,そのまま内部進学する。博士前期課程1年(修士課程ともいう,以下M1)となった大学院生の多くは,B4時代と同じ研究室において研究を行う。

私も上記ルートを通って来た多数派で,B4→M1と同じ研究室に所属している。今年はちょうど,B4 から M1 に進学・進級した年にあたる。

研究室は,主として大電流による現象(それに起因する電気的・熱的現象を制御し,電力機器を保護する技術)を扱う研究室に所属している。電気系を強電と弱電に分けると,強電の方に該当する研究室だ。各学年3名ずつと,社会人Dr.が2名を,教授・助教が指導している。

私の研究テーマは,直流(DC)の「アーク放電」を対象としている。ここでは詳しく書かないが,また何かの機会に別の記事に書こうと思っている。

(今のところ,このブログにて大学名や名前を明示していない。そういうスタイルにしているので,なんとなく大学とか研究室がわかって読んでおられる方がいても,そっとしておいて頂けると嬉しい)

参考: 卒研をする研究室が決まった話

以下では,各月毎の研究状況を,時系列順に紹介する。就活のこと,ふだんのことはまた別の記事に書くので,こちらには研究のことのみを書く。

重要ではないことはすぐ忘れてしまう性格なので,半年以上前の記憶はうっすらとしか残っていないが,なんとかToDoリストやカレンダの記録を見返して書いていく。

1月:卒論を書き始める

1月の第3週に卒論のタイトルを決めた。タイトルは,自分の研究を過不足なく包含するように作るのが難しかった。

それから,章立てを作った。はじめに,報告会で出してきた資料をエクセルでまとめた。うまくいったものといかないものが玉石混交で,必ずしも順番通りには並んでいない。これらをテーマごとに整理し,うまくいかなかったものは思い切って本論に含めないようにした。こうして作成した章立ては,何度か修正を経てから完成させた。

タイトル・章立て作成時のようすは,以下の日記に詳述した。

【日記#5】K先輩「そろそろ卒論の章立て作った方がいいんじゃない?」

この章立てをベースとして1月の下旬くらいから,卒論を書き始めた。1月下旬には,第1章:緒論と,第4章を書いていた。第2章,3章から書かなかったのは,実験データが不足していたからだ。第4章は,数値計算の結果をまとめればよかったので,書きやすかったのだとも記憶している。

【日記#6】1/24(日)~1/27(水) 超弩級のロマンティスト

2月:卒業研究発表会

2月の初週までに,第1章・3章・4章を書き進めた。

【日記#8】2/1(月)~2/4(木) 今あるモノを片付けること

2月に入ったら,卒論執筆と並行して,卒業研究発表会用のスライドを作成した。

【日記#9】2/5(金)~2/8(月) ラーメンとシュークリーム

【日記#10】2/9(火)~2/13(土) 青空に誘われて

【日記#11】2/14(日)~2/17(水) 鮭と鰻の共通点

【日記#12】2/18(木)~2/21(日) 博士後期課程の”学生”

卒研発表会は研究室内メンバのみ参加,オンラインで1人当たり15分発表だった。作成したスライドは,先生や先輩に見てもらい,修正した。

また,日記を見返すと,卒論・スライドと並行しながら研究も進めていたようだ。

1つは,第2章に載せる実験についての深堀り(ここでの検討は結局空振りに終わった)。

もう1つは新しい条件での実験。この実験は,卒論第5章および12月に投稿した学会原稿の内容の発展だった。ここでの実験に加えて,M1の4月か5月にやった実験の成果が,6月の学会や2022年3月開催の国際学会のネタとなった。また,この国際学会に投稿した内容で,論文を書くことになった。今のところ,この成果がM1の間で出せた大きい成果の1つとなっている。

卒業研究発表会の本番は2/24,研究室内メンバのみとはいえ,最初は少し緊張した。が,発表自体は無難にこなせた。

【日記#13】2/22(月)~2/26(金) 嗚呼,愛しの激安生協弁当

卒研発表会が終わったら,今度は3月初旬の国内学会(全国大会)の発表用スライドを作った。

3月:国内学会と卒論提出

【日記#14】2/27(土)~3/3(水) 地図を乗りこなす

全国大会発表用スライドと並行して,卒論の5章・6章を執筆した。3月の初週までに,第1稿を完成させた。この週には,全国大会の発表練習も並行して進めた。

【日記#15】3/4(木)~3/7(日) 置いてけぼりの卒研生はコーヒーがお好き

3月2週目の火曜日が,全国大会の発表本番だった。これがはじめての国内学会発表となった。日記を見返すと,発表後の私は以下のような感想を抱いたらしい。

はじめての学会発表は,無難に終わったけれど,質疑応答への対応には悔いを残した。予備スライドまで把握しきれておらず,また,質問の内容を100%把握しないまま答えてしまったのがよくなかった。

次の学会発表は,自分の思っていること・考えていることが100%伝わるような質疑対応がしたいと思った。

引用元: 【日記#16】3/8(月)~3/11(木) 黒いパズルで自己分析

その後は,ふたたび卒論を進めた。第1稿は先生と先輩に見ていただきつつ,附録を書いた。

【日記#17】3/12(金)~3/17(水) 先生コンパイラ・先輩コンパイラ

3週目までに,第2稿を完成させ,附録もすべて書き終えた。

【日記#18】3/18(木)~3/21(日) 卒論はゴール間近

その後数日で細かな修正を繰り返して,3/19(金)に製本した。締め切りは3/23,製本した卒論はそれに間に合うように先生に提出した。

卒論提出日の翌々日が学位授与式(卒業式)だった。学位記は,研究室で授与された。

大学を卒業して学士(工学)を取得しました

【日記#19】3/22(月)~3/25(木) モノタロウの段ボール

【日記#20】3/26(金)~3/28(日) 学生の断捨離は年度末がよし

以上で学部4年生としての研究室生活は終了。卒業式翌日から新年度開始まで,短い春休みを過ごした。

4月:大学院へ進学・講義開始

4月に,大学院へ入学した

M1となり,研究と並行して講義がはじまった。M1の前期はとにかく講義が多い。また,同じチームにB4の後輩がついたので,彼の実験や報告書作成の指導もしなければならない。

大学院生の授業ってどんな感じなの?【M1前期・電気系】

そういうわけで,4月は研究の進捗が芳しくなかった。ただ,研究室全体として,4月は研究計画の策定と文献調査に充てるような雰囲気だったので,進捗が出ていなくても気にしなかった。

5月:研究会の原稿作成

4月に立てた研究計画と,4月末に行った実験結果をふまえて,先生と簡単な打ち合わせをした。ここで,3月くらいに国際会議に出るようなことが,なんとなく決まった(その後,10月くらいに正式決定され,申込,11月までに原稿を書くことになる,後述)

>> GW明けの先生との雑談~M1の終わりに国際会議?~

5月に入ると,大量にある講義とその課題をこなせるようになってきた。自分のための実験の時間も取れるようになったので,複数条件の実験ができた。

月末には,7月に行われる研究会の原稿をつくった。3月の学会で投稿した原稿はA4で1ページだったが,今回の研究会の原稿はA4で4~6ページだった。

原稿を書くのは相当大変だった。しかし,ここでまとめた成果は,修士課程における主要な成果の1つとなっている。また,この成果をベースとして,今年度中に学術論文を書く予定だ。講義と並行して,頑張って原稿を書いてよかった。

6月:支部大会の原稿作成・研究会発表準備

6月2週目までに,研究会の原稿を完成させて,投稿した。

6ページの原稿が終わったのも束の間,,,今度は9月初旬に行われる支部大会の原稿を書いた。

支部大会へは,B4の最初に取り組んだ実験の一部を投稿することになった。原稿作成にあたって,考察が不足していたので,関連する文献を2,3探して読み込んだ。英語だったし,ちょっと遠い分野だったので,文献読解には苦労したが,果実はあった。

その果実とは,研究室の先行研究では考察されていなかったところに,実験結果を解釈できる物理現象を見つけたというものだ。支部大会の原稿はA4で1枚なので,この考察までは盛り込まず,学会発表のスライドに含めることにした。

支部大会の原稿を先生とやりとりしながら,7月の研究会のスライドも作った。そして,最終週の火曜日あたりに発表練習会を行った。

もちろん講義は休まず行われていた。講義・研究会スライド・支部大会原稿が重なったこのあたりが,M1で最も忙しかったような気がする。

7月:研究会発表・国際学会アブスト投稿

7月2週目に,2件目の学会発表として,研究会にて発表した。この研究会は比較的小規模な研究会で,うちの研究室の教授が委員を務める委員会主催のものだ。発表時間は15分,質疑5分と,3月の学会より長かったが,落ち着いて発表し,質疑に答えられた。

研究会が終わったら,今度は7月末が期限の国際学会申込に向けて,アブストラクトを作り始めた。

7月中旬から下旬にかけて,先生と内容を検討して,Wordでアブストラクトを書いていった。アブストラクトはたった500Wordsだったが,英語でまとまった文章を書くのが久しぶり過ぎて大変だった。先生が過去に投稿したものや,先輩が書き残してくれた学術論文のIntroduction,そして以下の教本を参考にして,なんとか完成させた。

8月:夏休み・支部大会発表準備

8月初旬に,支部大会の発表スライドの骨子のみ作成して,夏休みに入った。夏休み中にコロナワクチン【2回目】を接種した。

新型コロナワクチン接種後の体調変化の記録【2回目】

夏休みは8月3週目まで。以降は支部大会で発表するスライドの準備に取り組んだ。

7月中に読み込んだ文献の内容を改めてまとめ直し,スライドで説明できるように論理を組んだ。

9月:支部大会にて発表・実験準備

支部大会は9月2週目に行われた。

先の研究会とは異なり,支部大会は東海地区の大学のみが参加する。そのため,研究分野の近い先生や学生がおらず,ほとんどウチの研究室の学生のみで1セッションが組まれるような形となった。そのおかげで発表自体は気楽にできた。

質疑応答でも,自分の大学の(講義を受けたこともある)先生から質問をもらった。専門外ではあるが,スライドの微妙なところを的確についてこられて,若干しどろもどろになってしまった。なんとか自分の解釈を答えたが,悔いの残る質疑対応となった。ただ,考察した内容について十分議論できたのでよかった。

これは後日談になるが,この発表に対して学会から優秀発表賞を頂いた。自分の中では,あまりうまく質疑対応できなかった学会だったので,賞を頂けたのは意外だった。「いい発表は,その内容について議論になる」と先輩がおっしゃっていた通りの結果となった。

関連記事: 【初受賞】M1夏の学会にて優秀論文発表賞を受賞しました

9月中旬には,B4の後輩と先生と自分の3人で,後期の研究方針を確認した。やることはたくさんあるので,特に内容には困らなかった。

9月下旬ごろから,新しい実験の準備を始めた。これは,6月に投稿した研究会の原稿や,11月に投稿予定だった国際会議の内容から発展するものだ。実験に関して,少しばかり装置の自作が必要だったので,部材の調達・装置の調査・治具の設計を進めた。

10月:国際会議のProceeding作成

10月には,11月中旬が締め切りとなる国際会議のProceedingを書いた。

この学会のProceedingはA4で6ページ。日本語でさえ6ページ書くのは大変だったのに,英語で書いていくなんて・・・と,逃げ出したい気持ちにもなったが,これもいい経験だと思って書き始めた。

英語論文初心者の自分が,オリジナルの文章で書き進めるのは厳しい。なので,先輩や先生の学術論文・Proceedingから使えそうな文章を引っ張ってきたり,先に紹介した教本の表現を使ったりして,なんとか書き進めていった。

月末までには第1稿を完成させ,10月最終週は先生とやりとりしながら修正する段に入った。

また,Proceeding作成の息抜きとして,実験装置の構築を進めた。こちらも10月下旬にはなんとか形になり,所望の動作を達成できた。

関連記事: 【工学部の学科選び】電気電子系学科へと進学した理由

11月:中間発表準備・実験進める

国際会議のProceedingは,11月2週目までに完成させた。

11月初旬には,完成した実験装置を使って,新しい条件での実験を始めた。

11月3週目アタマにProceedingをSubmitした。

ほんの少しの休みののち,すぐに中間発表会の準備を始めた。

弊専攻の中間発表会は,電気系3専攻合同で,12月初旬に行われる。発表時間は8分と短いが,M1の成果をうまくまとめる必要があるため,スライドづくりには時間をかけた。

後期の講義は少ない(週2つのみ)ので,スライドづくりと並行して実験も進めた。ここでの成果は,今後M2における研究の足掛かりとなるものと予想している。

中間発表のスライドは,構想含め2週間弱で完成させ,練習を積んだ。

12月:中間発表・全国大会原稿作成

中間発表本番は12/1だった。オンラインだったし,相当練習したので,気楽に発表できた。質疑も無難なものしか来なかったので,ちゃんと答えられた。

発表会後は,やりたかった実験を進めつつ,来年3月に行われる学会(全国大会)の原稿を書いた。当初は,新しくやっている実験について書く予定だったが,6割ぐらい書いたところでこの内容を後輩に譲った。自分は,数値計算の結果について,去年先輩が全国大会で発表した内容を基にして書いた。

また,中旬くらいから国際会議に投稿したProceedingの論文化を始めた。まずは,テンプレートをダウンロードして,構成を練った。

現在は,この論文のIntroductionをほとんど書き終えた段階にある。年末から年始にかけて一気に書き上げたいところだ。

まとめ

学生なので,こういった「まとめ記事」は,年度末に書く方がぴったりくるのだろう。

ただ,年度末の3月には,国際学会・国内学会が控えていて,それどころではなさそうなので…ほかの「まとめ記事」と一緒に書いておいた。

今年はB4からM1に進級し,バリバリ研究した1年だった。自分の研究テーマでは,実験を行うとは言え,比較的短時間の現象を扱っている。しかも教授は,学会や研究会への参加を奨励している。さらに,昨年度から本年度にかけて,実験で見通しのいい有益なデータが得られた。このようなことから,複数の学会や研究会に参加するチャンスを得,そこで成果を発表できた。また,研究会で発表し,国際会議に投稿中の内容は,論文化する方向で進めている。この論文は年末から年始にかけて作成し,年度内の投稿を目論んでいる。

これだけの数の学会をいきなり経験した年だったので,論文作成や原稿・スライド作成は骨の折れる作業だということを痛感した。しかも,論文や原稿・スライドを作っている間は,研究が止まってしまう。研究の面白さがわかってきた私にとって,この時間は苦痛でしかなかった。早く作り終えて研究やりたい,実験して新しいことを見出したい,そういう思いに急かされながら,たくさんたくさん原稿を修正し,スライド発表を練習してきた。研究室のデスクで,原稿作成で頭を抱えているとき,森博嗣先生の著作『喜嶋先生の静かな世界 The Silent World of Dr.Kishima』に書いてあったことは,こういうことだったのか…と,目の覚めるような思いをしたのを覚えている。

研究はよく頑張ったが,ちょっと頑張りすぎたような気もする。7月末には体調を崩したし,9-11月にかけて,3度も胃(というか食道)を痛めた(消化器内科に行ったら逆流性食道炎と診断…)。研究も頑張ったけれど,同時に「健康第一」を痛感した年でもあった。

研究も大事だけれど,体力を維持して免疫力を高く保てるよう,来年はちゃんと運動したい(自転車乗りたい)。

今までの「1年振り返り」記事

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