研究をして,成果を学会で発表し,修士学位論文を書く。これが,大学院生(修士課程)のやるべきことです。学部生がやる「勉強」ではなくて,社会に資する最先端の成果を生み出す「研究」をするのが大学院生です。
じゃあ,その大学院生は,研究室でどういう生活を送っているのか?ということは,案外知られていないのではないか?と考えます。なぜなら,大学院生の割合が,22歳人口の5%程度:約6万人に過ぎず,その母数自体が小さいからです[1]。
逆に,6万人くらいは「大学院に行きたい!」と仮定できるので,そのなかでも数%くらい(約数千人?)は,「院生の1日について知りたい」との気持ちをもって,ネット上の情報を漁ると推測できます。もし自分がその立場だったら,できるだけ多くのパターンに触れた方が,安心できるでしょう。そのような思考から,たとえ何番煎じであろうと,「ブログ」という媒体に個人の体験談(日常)を書くことには少なからず意義があると考えます。
また,体験談的な情報は,足りないことはあっても余ることはないと思っています。ネット上の体験談は,近似解でしかありませんが,多く集めて比較していけば,最適解を導ける可能性があります。
そういう信念のもと,自分自身の備忘録も兼ねて,理系大学院生の1日について書いてみることにしました。
理系大学院生の1日
私の所属・専攻・研究内容など
某大学大学院工学研究科電気工学専攻にいる博士前期課程(修士課程)の2年生(M2)です。
出身は愛媛県で,現在は大学へ通うために下宿しています。
M2ですが,就職活動は止めました。研究職へ就くために博士号の取得をめざして,博士課程へ進学する予定です。
研究内容としては,電力用遮断器において発生するアーク放電現象の解明とその高性能化に関する研究をやっています。
最近はコンピュータをつかったシミュレーション(数値計算)を主とした研究も多いですが,私の研究は実験をベースとした研究です(もちろん,実験データの解析や考察のための理論的な計算において,数値計算を用いることもあります)。
以下に,関連記事を示します。
大まかなスケジュール
まず,2週間のおおまかなスケジュールを示します。以下の表は,M2の前期の場合を示しています。
なぜ,「2」週間なのかというと,弊研究室では,研究の進捗について,2週間を1スパンとして設計されているからです。スパンの区切りは,コロキュウムと呼ばれる研究報告会です。
まず最初の1週間の予定は以下の表の通りです。空白の時間は,研究にかかわることをやったり(やらなかったり)します。また,木・金曜日には,コロキュウム(colloquim,日本語では輪講の意)とよばれる研究報告会が設けられています。「コロキュウム」では,先生および学生のまえで研究内容を報告し,フィードバックをもらいます。これは,金曜日の方で行われます。
なお,研究チームは2つに分かれていて,報告は2週間に1回となります。木曜日の報告会では,金曜に報告しない方のチームが,「簡易報告」を行います。これにより,研究の進捗が確認されます(場合によっては先生によって軌道修正が行われます)。
次の1週間の予定は以下の通りです。予定がある曜日・時間帯自体は,まったく前週と変わりません。この週の金曜日の報告会で,2週間の研究成果を報告します。先生や学生から,研究に関してさまざまなコメントを頂きます。これをもとに,次週以降の研究を進めていきます。
これにより,2週間の間に:研究→成果をまとめる→報告→フィードバックをもらう,という一連のサイクルができます。
とある1日のタイムスケジュール
曜日によって,やることは結構変わってくるのですが,研究室もしくは大学で過ごすというのは同じなので,平日の時間の使い方をある程度一般化して示します。
8時ー9時:起床・支度
弊研究室にはコアタイムはありません。そのため,来る時間や帰る時間をはじめとした,時間の使い方は学生個人の裁量に任せられています(ちなみに弊専攻では,コアタイムのある研究室は,十数個のなかで1つだけしかありません)。
したがって,起きる時間は適当です。まあ,だいたい8時から9時のあいだに起床します(8時間は寝ないと,調子悪いタイプの人間です)。社会人ならもう遅刻するレベルの時間なのに,目覚めてから20分くらいモゴモゴして,それから起き出す。社会人になったときのことが思いやられます。できるならフレックスかスーパーフレックスの会社の職場で働きたいですね。時間の自由ほど,心身の健康に重要な要素はないと思います。
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支度をしてから朝食を食べます。空腹だと作業効率が上がるみたいな話を最近よく耳にしますが,自分の場合は,朝食抜きだとふつうにお腹がすいてイライラするので,ちゃんと食べます。だいたいパンを焼くか,ヨーグルトにフルグラをかけて食べます。どっちかのときもあればどっちも食べるときもあります。気分です。
飲み物は,前まではブラックコーヒーを一緒に飲んでいましたが・・・朝からカフェインを入れると過剰に目が冴えてしまうのと,11時くらいにおなかが空いてよろしくないので,最近はミルクティーに変えました。このへん,昨年一年間で,体の不調をいくつか経験して,自分の身体の声を聴けるようになった気がします。いいことです。
9時ー10時:大学(研究室)へ
1時間弱で支度を済ませたら,大学へ行きます。基本的に暦にしたがって,平日の9-17時登校で研究をしてます。社会人と同じですね。ただ,コアタイムはないので,時間は厳密ではないです。これより早い時間に登校することもあれば,昼前くらいにゆっくり行くこともあります。
下宿は研究室から歩いて10分くらいのところにあります。10分といっても,大学の入口までは1分くらいで,大学の中に入ってから10分弱?歩きます。要するにドアからドアまでが,10分くらいという意味です。大学は広いですね。
自転車で行けばすぐに着けますが,歩くのが好きなのと,太陽を浴びて目を覚ましたいのとで,学部時代からずっと歩いて通学しています。大学の裏手には大きな池があって,季節ごとに違う自然の風景を楽しめます。時間と心に余裕があるときは,大学構内をちょっとだけ遠回りして,木々のざわめきや小鳥のさえずりを楽しんでから,研究室に行きます。散歩楽しい。
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(9)10ー17(19)時:研究室での生活
大学へ着いたら,下宿へ帰るまで研究室の居室をベースとして生活します。
研究室のデスク
居室は南北に縦長の形状になっていて,私のデスクは南側の一番窓側です(ちなみに去年は北側の一番窓側でした)。北側では工事をやっていて埃っぽかったのですが,南側はそんなこともなく,日中は日が降り注いで,緑地帯からやってくる小鳥のさえずりが聞こえてくるような,静かでいい環境です。
ちなみに私のデスクはこんな感じ。趣味のものはあんまり置けていない,殺風景なデスクです。カービィとかピカチュウとかは,先輩や同期からもらったもの。特に好みではないのですが,あんまり殺風景なので,置いてあります。
作業環境としては,デスクトップPCに加えて,ディスプレイを2枚置いてあります。キーボード・マウスもそれなりにいいものが与えられています(研究室のBOSSは,仕事道具には妥協せずいいモノを使う派です。私は結構ケチってしまって,不快な思いをするので…見習いたいところですね)。また,昨今のコロナ禍によって増加したオンライン会議に参加できるよう,Webカメラとヘッドセットも1人1つずつ与えられています。
左側には所棚を置いてます。写っていませんが,下の段には教科書や参考書,TAの資料や研究ノートを置いています。上の段には,消毒液,電子辞書,ティッシュとインスタントコーヒー(生協の購買で買った一番安いやつ)が置いてあります。
前までは,ネスカフェのゴールドブレンドが置いてありましたが,圧倒的に安かったのと,生協で買えるのと,そもそもそんなに味が変わらない気がした(バカ舌)ので,UCCの114に乗り移りました。
コーヒーは,デスクの上にあるタンブラーで飲みます。このタンブラーは,無印良品で買った,「ステンレスタンブラー (300mL)」で,保冷・保温どちらもいける優れモノです。
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研究室でやること
そんなデスクでやることをリストアップすると,だいたい以下の通りです。
- データ解析・研究報告資料作り
- 学会の原稿や論文を書く・スライドを作る
- 後輩の指導
- 輪講やミーティングに参加
- そのほか資料作り
- 自由時間・休憩
学会など突発的なイベントがなければ,2週に1回のミーティングに向けて研究成果をまとめていくのが主なやることになります。実験系の研究ですが,1テーマの実験をしてデータをとる時間はそんなに長くありません。むしろ,実験データを解析して,意味のある考察を抜き出し,それを資料にまとめることに多くの時間を費やします。実験:データ処理・解析・報告資料作成=1:9くらいのイメージです。なお,実験室は研究室とは別のところにあるので,研究室では実験しません。
学会が近づいている場合は,事前に投稿する原稿(予稿)やスライドを作成します(昨年度は4回の学会発表を経験しました)。最近はコロナの影響で,学会がオンライン化されているので,学会本番もこのデスクから参加しています。早く現地へ行けるようになってほしい…
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M2にもなると,自身の所属する研究チームに後輩ができます。自分はM1のときから後輩が1人ついていましたが,今年は2人になりました。その後輩を指導をするのも,修士学生の仕事となります(修士学生が「忙しい」のは,先生から割り当てられたタスクのほかに後輩の指導もやらなければならないからです。下っ端の「中間管理職(上司は助教)」です)。
最近は輪講やミーティングもオンラインなので,下宿のPCだけでなく研究室のPCから参加したりもします。
ほかには,研究以外で必要な資料を作ったりもします。今だと,JST次世代の第1回学内選考に落ちてしまった…ので,博士後期課程進学後の経済支援を得るための資料(学振)を作っています。TAの報告書作成なんかもここに入ります。
*
以上のようなことは,いわゆる「オン」の時間の使い方です。ただ,ずっと「オン」では疲れてしまうので,研究室内では「オフ」の時間ももちろんとります。さっきも書いたように,弊研究室にはコアタイムがありません。研究のみならず,自由時間の裁量も学生に与えられています。休み時間は,疲れたらとるようにしています。あんまり厳格には決めていません。
休みの時間は,同期や後輩と駄々喋ったり,本を読んだり,おやつを食べたりコーヒーを飲んだりしています。後述のように,研究室外へ出ることももちろんあります。
研究室外でやること
以上は研究室内でやることでした。もちろん,研究室外での活動もありますので,これも簡単にリストアップしておきます。
- 実験室で実験
- 実験TA
- 散歩
- 購買やコンビニへ買い出し
頻度は不規則(研究の進捗や計画によって変動)ですが,だいたい月に1-2回は,実験室で実験します。ただ,これは自分の研究に関する実験だけで,後輩の実験指導も含めると,もう少し頻度は増えます。実験は基本的に,2人以上で行います(何かあったときに対応ができるようにするのと,むなしくならないようにすることが目的です)。だいたい午後イチから夕方までやることが多いです。
研究とは関係ありませんが,修士学生にはTA(※)業務も割り当てられます。弊研究室はこれまで,どちらかというと少人数だったので,先生方の担当される講義・演習に対して,ほとんどの修士学生がTAに駆り出されていました。この前期は,私は学部3年生の実験のTA担当となっていて,前期のうちの2カ月間は,週2回・午後・実験室へ行って先生の補助をします。
※ TA:Teaching Assistant (ティーチング・アシスタント)の略。主に,大学の先生が実施する講義や演習・実験の補助をする学生のことを指す。
以上はまじめな生活ですが,さっき書いた「オフ」の時間を研究室外で過ごすことももちろんあります。私の場合は,だいたい昼下がりに大学構内をぶらぶら散歩したり,同期や後輩を連れてコンビニや購買へ行ったりが多いですね。
17ー19時:下宿へ帰宅
このようにして,だいたい17-19時くらいまで,大学で過ごします。
帰宅する時間は,その日の進捗具合でまちまちですが,あんまり遅くまでいると翌日の生産性がガタ落ちになるのと,体調も崩してしまうので,遅くとも19時には帰るようにしています。いままで一番遅かったのは,学会が迫っていた時期に,21時くらいまでいたことはありますが・・・徹夜や籠城は一度もありません。
生物系や化学系の研究室だと,平日は21時や22時までいるのがあたりまえ,みたいなことをインターネット上で見かけたことがありますが,われわれ電気系では,そのようなことはほとんどないでしょう。これは研究対象や文化の違いによるものだと考えられます。電気系の場合,研究対象とする現象が比較的短時間であることが多く,また,数値計算による解析も多いです。それゆえ,実験・研究データの取得にそこまで時間がかからないのです。
その日のタスクを消化したら,歩いて下宿に帰ります。今の時期は,「風薫る」時期で日も長いので,疲れた頭にあたる風を心地よく感じながら,いい気持ちで(散歩気分で)帰ります。
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帰宅後:自由時間
お腹を空かせて帰ることがほとんどなので,支度・片づけを終えたら,まず夕飯を作ります。
学部時代からずっと,夕食は自炊するようにしています。自炊にあたっては,以下の記事に書いたルールに従って,なるべく簡単に,手早く作れるものしか作りません。
関連記事:自炊が節約するものと継続のためのルール
ただ,ずっと自炊にこだわると疲れてしまうので,たまには,外食にも行きます。うちの近所はいわゆる「文教地区」なのですが,高級住宅街でもあり,大学生らしい食事処が少ないです。なので,だいたい行く店は決まっています。
夕食を食べ終えたら,そのあとはお風呂に入るまで自由時間です。前まではYouTubeを観たり,ブログを書いたりと,ディジタル機器を観ることが多かったのですが,日中ずっとPCを触っているうえに,帰ってからもディジタルに触れていると疲れてしまうので,最近はアナログな過ごし方を模索中です。とりあえずは読書をしたり,ラジオを聴いたりしています。あと,なにか手を動かしてつくることにも興味が湧いています。
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お風呂は22時台に入ることが多いです。学部時代は,電気代節約(オール電化)と時短のためにシャワーで済ませることも多かったのですが…研究室に配属されてからは,疲れをとるのとリラックスする時間を確保するために,毎日湯船に浸かるようにしています。Ankerの防水Bluetoothスピーカーを持ち込んで,音楽を聴くのが楽しいです。
23時ー24時:就寝
風呂上りは,ストレッチを欠かさずやっています。研究室で長時間座って作業しても腰痛に悩まされないのは,この時間のおかげだと思っています。
ここまで終えるとだいたい23時になっています。
そのあとは布団に入って,ぼんやり考え事をしたり,本を読んだりして眠くなるのを待ちます。速やかな入眠を手助けするのに,読書は最適です。学部時代から意識してやるようにして,すっかり習慣化しました。寝る前に読む本のジャンルは問いません。小説や新書,文庫から教養書,はたまた教科書まで,なんでもいいです(ちなみに昨日は,昂る工作意欲に駆られるようにして,「8ピンPICマイコンの使い方がよくわかる本 (基礎入門) 」という本を読んでいました)。
あと,最近は,昂る自律神経を休められるよう,無印良品でアロマディフューザを買って使ってみています。手始めに「おやすみブレンド」を数滴入れて使っていますが,ほんのり香ってくる柑橘系の香りが心地よくて,なかなかいいです。
そんなふうに寝る前を過ごして,24時前くらいには眠くなってきて,寝ます。
*
以上がざっくりとした平日の時間の使い方です。
研究室生活においてリストアップした事項の詳細については,また時間を作って書こうと思っています。
長々と書いてきましたが,大学院へ入る前の学部生の参考になっていれば幸いです。
(おわり)
参考文献
[1] 「大学院教育の現状を示す基本的なデータ」,中央教育審議会大学分科会大学院部会(第81回)資料5,URL:https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2017/07/24/1386653_05.pdf (2017) [Access: 2022/5/1]