「スーパーおき」は,鳥取・米子と新山口の間を結ぶ気動車特急だ。スーパーおきは,山陰本線を益田まで縦断したのち,山口線を新山口まで走る。すなわち,この列車は,山陰を縦断したあとに中国地方を横断するルートを走る。
振り子搭載のキハ187系が充当されているが,途中駅が多いせいか,鳥取~新山口間の所要時間は5時間を超える。全国各地に特急列車が走っているが,日中に5時間以上走るのは,当列車含めて4種類のみ。
そんな長時間運行の特急列車を乗りとおして,山陰本線と山口線を旅してきた。2両編成のキハ187系は,5時間の連続走行をものともせず,機敏な走りを見せてくれた。
スーパーおき5号指定席乗車記|鳥取→新山口
今回乗車するのは,「スーパーおき5号」新山口ゆきだ。この列車は,鳥取をお昼過ぎに出発して5時間30分ほどかけて新山口まで向かう。新山口到着は18時35分だ。所要時間は5時間35分。とにかく長い。現在JRで走っている昼行特急では,5本の指に入る”長時間特急”だ。運行距離も相当長い。
このほか,山陰本線には「スーパーまつかぜ」という列車も走っている。こちらは,鳥取・米子~益田間を結ぶ,山陰本線完結の列車となる。まつかぜは1日7往復であるのに対して,おきは1日3往復のみ。同じキハ187系を充当する列車だが,需要および走行距離に応じて本数には違いがある。
鳥取駅から乗車|1号車指定席
鳥取駅前の喫茶店でビーフカレーを食べて,鳥取駅に戻って来た。改札で乗車券とおき号の特急券を見せて,ホームへ上がる。すでに,スーパーおき号のキハ187系が入線している。
左側には,山陰本線を走るキハ40がいる。非電化の鳥取駅では,気動車しかいない。
さて,キハ187系で運行される「スーパーおき号」の編成表は以下の通り。2両編成は,JRの特急列車では最短編成となる。今回は指定席なので,1号車に座る。
スーパーおき5号 新山口ゆき
鳥取13:06 → 新山口18:35
この時期,JR西日本は,コロナ禍明けの需要喚起策である「どこでもきっぷ」を発売中だった。そのためか,車内にはやたらと鉄道ファンと思しき人が乗車している。今回は1号車14Aに座ったが,15A,15D,そして14Dはいずれも鉄道ファンだと思われた。
そして鉄道ファンのみなさんは,例外なく青色の駅弁を提げていた。有名な弁当なのだろうか。
さて,キハ187系の指定席,車端部なのでエンジン直上の座席だ。出発前のエンジン音を聴きながら前方を見ていると,運転士は女性のようだった。隣には,指導員と思しきベテランの男性運転士が添乗している。
1号車指定席の乗車率は30%ほど。これから山陰本線を縦断していくわけなので,おそらく乗降の波は2,3度あるだろう。そこらへんも観察しながら,5時間の旅を楽しもうと決めた。
所要時間が長いので,鳥取駅のセブンイレブンで飲料2本と,お菓子など買い込んでから乗車した。当然,車内販売は無いので,乗車に際しては先に買っておく必要がある。
山陰本線をコツコツ走行
山陰本線: 鳥取→米子→松江→出雲市→浜田→益田
スーパーおきは,定刻通り13:06に鳥取駅を出発。西に向けて歩みを進める。
鳥取→米子|ハイライトは大山(だいせん)
最初の停車駅は鳥取大学前。JRの駅で○○大学前という名前は,ほとんど無いように思われるがどうだろう。大学関係で思いつくのは,羽沢横浜国大駅(JR東,相鉄)とかだろうか。
さて,キハ187系の車内だが,床が薄いのかエンジン振動が身体へと直に伝わってくる。鉄道ファンにはありがたい愉しみだが,一般の利用客には少々不快に感じられるかもしれない。足元は,鳥取まで乗車してきた「スーパーはくと」より広い。振り子気動車にありがちな窓下の配管がないおかげだ。
参照: スーパーはくと3号指定席乗車記
内装としては,JR初期頃の感じ?JR四国2000系や8000系自由席と同じ雰囲気だ。
鳥取大学前駅を出てしばらく走ると,左手に湖が見える。湖面に午後の陽が反射して,キラキラしている。
末恒駅で反対列車(スーパーおき)と行き違い,少々遅れて出発。単線だから,交換でどうしても足止めを食らう。このあたりは,所要時間が延びている要因の1つだろう。
倉吉駅にて,上りのスーパーはくと号と入れ違い。ビーフカレーでほどよく膨れたお腹で,ここまででひと眠りしていた。
山陰本線は海沿いを走っているはずだが,右側車窓に海はあまり見られない。さっきまで青色だった空は,徐々に曇り始めている。今日は下り列車(南西へ進む)の左側に座っていて,日差しがキツイ。雲が出てくれた方が,まぶしくなくていい(景色が見たいからカーテンを閉めたくない)。
山陰本線は全線を通して直線が多いが,開通が古い分,定尺レールが多いと思われる。ジョイント音は小気味いいが,揺れもその分大きい。
米子駅手前で,鳥取の名峰・大山が見えるとの案内があった。ぱっと目を向けると,ちょうど,美しく裾野を広げた大山が飛び込んできた。大山は,前に一度山陰本線の鈍行に乗って以来の対面だ。このときは2月で,大山は雪化粧をしていた。
参考: 山陰本線鈍行旅|出雲市→鳥取
そのあと列車は米子駅に到着。左側の車庫には,気動車,それもキハ40ばかりが並んでいる。JR西日本山陽山陰地区は,国鉄型が主力で活躍する最後の場所だ。
米子→松江→出雲市|主要区間
米子の次は,安来に停車。安来から松江の間では,右側にまた湖が見えた。さほど大きくないが,美しい。車窓はやや単調で,暇を持て余したので,読書でもして時間を過ごす。梶井基次郎「檸檬」,最近は無味乾燥の研究に関する文書ばっかり読み書きしているから,こういう文学が凄く心に刺さる。
松江に到着すると,1号車は7割近く乗客が入れ替わった。鳥取⇔松江間で1つの需要区間を形成しているようだ。自由席乗車口にも10人以上の列ができている。指定席は降車客の方が多かった。
松江を出ると,次は玉造温泉。ここから宍道駅付近まで,進行方向右手に宍道湖が見える。それにしても大きい。車掌さんによる案内放送によると,宍道湖の周囲は46kmもあるらしい。曇り空のせいか,この湖が塩を含むからなのか,宍道湖はやけに白っぽく見えた。
来待駅で「やくも」381系と交換。「やくも」は伯耆大山まで伯備線を通り,そこからはおき号と同じ線路を走る。
出雲市駅に到着すると,乗客の半分以上が下車した。そののち,ほぼ同数が乗車してきた。松江や米子と同様,自由席の方が多くならんでいるようだ。米子あたりから乗車してきた若い女性2人組は,出雲市駅で降りて行った。多分,出雲市の観光へ出かけるのだろう。同じ座席には,女性に変わって男性1名が乗車。
運転士さんは当駅で交代。車掌さんは引き続き同じ方が乗務しているようだ。
出雲市を出てしばらく,右手に日本海が見えている。水平線が見えて気持ち良い景色だ。
出雲市→益田|意外と多い停車駅
そのあと,大田市,温泉津,江津,波子と停車。いずれの駅でも,先ほどまでの主要駅より乗降がとぼしい。降車客の方が多いため,出雲市から,停車を経るごとに車内は閑散としてきている。景色はそこまで変わり映えがない。進行方向左手には,相変わらず中国山地が見え続けている。このあたりの区間,またちょっとウトウト。
何かの拍子で起きて,セブンイレブンで買った安納芋スティックをほおばる。「プレミアム」を冠するだけあって,上品な味だ。
出雲市駅から久しぶりの主要駅,浜田駅に停車。ここでは2分停車した。当駅では,反対向きのキハ120が出発するのが見えた。当然のように1両編成。特急ですら2両編成なのだから,普通列車が1両編成であることには驚かない。
ここで学生と思しき男女1人ずつが乗車。土曜日で私服,塾帰りだろうか。
浜田駅を出ると,右手に浜田の港町が見える。港には,漁船がいくつも繋がれている。
三保三隅駅手前で,再び日本海が見える。
このあたりから,列車は山間部を走行。三保三隅駅は無人駅だ。周りのまちも小さく,また,駅からも離れた位置にあるように見える。特急を停めるほどの需要があるのだろうか。それとも昔からの慣習で停めているのだろうか。
このように,スーパーおき号は,山陰本線の比較的小さい駅にも停車していく。普通列車の本数が少ないゆえの停車だとも考えられるが,その役割はスーパーまつかぜ号に譲っていいとも思える。もう少し停車駅を絞れば,4時間台くらいで走れそうな気もするが,どうだろうか。
洞道,トンネル,高架橋,このあたりは山陰本線でも比較的良好な設備が揃っている。鎌手駅あたりでは,右手に赤い瓦屋根の家が海に面して建っているのが見えた。
山口線|益田→新山口
スーパーおき号は,順調に山陰本線を走り切り,益田駅に到着。ここで,半分くらいの乗客が降りて行った。また,同じくらいの乗客が乗って来た。この列車は,益田から山口線内を走るが,新山口方面への需要もそれなりにあるようだ。
益田→津和野|山深い車窓
山口線内は,山陰線ほど線形が良くない。高性能のキハ187系も,先ほどまでよりスピードが出ない。
鳥取からずーっと一緒の,隣に座っている鉄道ファンの彼は,2つ目の駅弁を平らげている。そういえばもう17時,11月の短い陽は,沈みかかっている。前に座っている学生と思しき彼は,英語の問題を解いている。模試かな?
車窓も見えづらくなってきたので,音楽を聴く。SONYのノイズキャンセリングイヤホンは,キハ187のエンジン音でもかき消してくれる。さすがに4時間近く乗ってきていると,エンジン音にも疲れてくる頃なのでありがたい。
参照: 名駅をぶらぶら→ワイヤレスイヤホンを衝動買い|大学生の日常(夏休みver.)
15D席,温泉津から乗って来た学生?は,どうやら手持ちの金がないまま飛び乗ってきてようだ(車掌さんとのやりとりに聞き耳を立てているときに判明)。続く問答を聴いていると,彼は乗車券もなく津和野まで行くつもりらしい。しかも指定席をとっていないのに指定席に座っていたようだ。こういう場合,車内清算となるはずだが,彼は「ついてからじゃダメですかね?」と車掌さんに聞いている。キセルなのか・・・?車掌さんも見かねて,とりあえず彼を自由席に移動させた。このあと無線とかで,津和野駅に連絡を取るのだろう。車掌さんも大変だ。
車窓はいつのまにか,両側ともすっかり山深くなった。山口線は,山陰と山陽の南北をつなぐ陰陽連絡線の1つだ。山深い車窓は,中国山地を横断する路線の車窓らしい。
日原駅に到着。薄汚れたタラコ色のキハ40と交換。だいぶ暗くなった。キハ40から漏れる室内灯がずいぶん明るく見える。
日原を出てしばらく走ると,右側下の方に河川が見える。車窓の雰囲気は,高山本線に似ている。
津和野駅に停車。SLやまぐち号の終着駅として有名だ。駅周辺は,山あいにある中規模集落といった雰囲気。
峠越え|田代峠
三谷駅では,反対のスーパーおき号(米子行き)と交換した。
もう日は暮れてしまい,車窓は真っ暗。おまけに,街の灯がほとんどみられない。信号,踏切,たまに寂しい駅舎が見えるだけだ。スーパーおき号は,どこまでも続くようにも思える暗闇の中を,ひたすら走ってゆく。車窓を見る限りは,相当な山の中であるようだ。このあたりで18時を回った。
エンジン音がしないのに速度が落ちないことから,キハ187は惰行で下り坂を走っていると思われる。時折聞こえるエンジン音は,排気ブレーキだろう。ここは山口線内にある峠道だとわかった(田代峠,という峠だそう)。
○峠越え
SL「やまぐち」号の魅力について | SL「やまぐち」号
山口駅-仁保駅間の峠越えは、山口線ならではのだいご味。25/1000の急勾配を力強く登ります。
仁保駅にて,益田ゆきワンマンカー(キハ40 2連)と交換。仁保からもしばらく下る。山口駅あたりまで下ったようだ。ここらあたりまで,結構な峠道だった。キハ187でも喘ぎながら上り下りする峠道,そんな道をSLやまぐち号が登ってゆくのだと思うと,昭和初期製造の機関車になかなか酷なことをするもんだな~と思った。
YouTubeには,ちょうどこの区間を登るSLやまぐち号の動画があったので,貼っておく。SLに関してはまったくの素人だが・・・C57が激しい息遣いで,ようやっとこの峠を登っていくのはわかる。
新山口駅に到着!長かった…
さて,新山口駅には定刻通り到着。昼間に鳥取を出たが,もうすっかり日が暮れている。5時間半の旅路はなかなか長かった。最近乗り鉄不足で,結構堪えた。
新山口駅では,キハ187が山口線を走るキハ40と並んだ姿を見られた。
新山口駅はホームの数が多い。かつて「小郡駅」だったこの駅は,国鉄時代からの主要駅。列車の編成こそ短くなっているが,各方面へ向けて列車が出発する拠点駅であることは今も変わらない。
単機のD51 に遭遇!
キハ187が車庫へ回送するのを見送ったあと,
翌日,SLやまぐち号として走るD51の入換に遭遇した。
もくもくと煙を吐きながら,単機で新山口駅3番線端に後退してきた。しばらくの停車ののち,汽笛一声,その後前進。暗闇の中だったが,それでもデゴイチはかっこよかった。人生で初めて,動いているSLを見た。
SLやまぐちをけん引する機関車は,「貴婦人」として有名な C57 1号機だったはずだが・・・車両トラブルのため,2021年10月24日から11月22日までは,D51が代走しているらしい。
参照: SLやまぐち号、C57「貴婦人」からD51「デゴイチ」へ牽引車変更
SLやまぐち号は,土日に運行されている。すでに今日の運行を終えており,明日も運行があるようだ。下り列車は11時頃に新山口駅を出発していく。上りは17時過ぎに新山口駅へと戻ってくる。
明日の予定はまだ明確に立てていない。せっかく山口まで来たのだから,この動くD51を明るいところで見てから帰ることにしようか。そんなことを考えながら新山口駅を出た。この日は新山口駅前のホテルに宿泊。
まとめ:数少ない5時間走る特急
以上,スーパーおき号の乗車記を綴って来た。今回の乗車により,スーパーおきに乗車する前に,鳥取まで乗車してきたスーパーはくと号と併せて,特急列車で山陰をぐるっと周ることができた。
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日中に5時間以上走行するJR在来線の特急列車は,2021年11月現在,北海道の「宗谷」「オホーツク」,九州の「にちりんシーガイア」,そして「スーパーおき」の4種類のみ。いずれも各地を縦断,あるいは横断するように走る特急列車だ。
列車を乗り回し,ただそれだけで1日を過ごすのを厭わない「乗り鉄」にとって,こういった長距離特急はありがたい存在だ。今度は,九州の「にちりんシーガイア」に乗りに行ってみたい。ついでに,九州島内の在来線もちょっとずつ乗っていきたい。
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翌日は,新山口駅で「SLやまぐち号」を見送ったあと,山陽本線と山陽新幹線を乗り継いで東へ向かう。山陽本線115系と,山陽新幹線「こだま」(700系レールスター)を乗り継ぐ旅は,東日本では味わえない旅情があって,山陰特急乗継旅に負けず劣らずよい旅だった。このようすは次回記事にて紹介する。
次の記事 >>【SLやまぐち号】C57の代役・まだまだ走れるD51(デゴイチ)を見てきた
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