【マニア垂涎の気動車特急】HOT7000系スーパーはくと3号乗車記

HOT7000系は,中国地方を横断する「智頭ちず急行」の特急型気動車だ。この車両は,京阪神と鳥取・倉吉くらよし間を結ぶ「スーパーはくと」として走る。

この車両は,JR四国の2000系から始まった,「振り子搭載気動車」の1つであり,電車特急にも負けない素晴らしい性能を持っている。その性能により,山陽区間では,電車列車をも脅かすような爆走を見せ,山間部の智頭急行線内では,キビキビとした振り子動作でカーブを駆け抜け,京阪神の乗客を山陰まで運ぶ。

京都から鳥取まで乗りとおせば,東海道・山陽本線から海を眺め,智頭急行線内では山を眺め,さらには振り子車両の走りまで楽しめる。しかも,電車ではなく気動車特急,全線を通しての「息づかい」も聞きごたえバツグン。HOT7000系スーパーはくとは,まさに「マニア垂涎すいえん」の気動車特急だといえる。

今回の記事は,そんな特急に乗って,京都から鳥取まで行ってみた記録だ。前々から乗ってみたかった特急だが,その走りは乗車前の想像を上回るものだった。

智頭急行HOT7000系乗車記|京都→鳥取

スーパーはくと号が出発する京都駅へは,東海道新幹線に乗ってやってきた。

前の記事: 岐阜羽島から1日1本だけの「広島ひかり」乗車記

京都駅に着いたのは,朝の8時半ごろ。まだコンコースの人はまばらだ。

コンコースを歩いて在来線のりかえ口へ向かっている途中,お土産屋があったので立ち寄る。のりかえだけとはいえ,せっかく京都に来たのだから,なにか京都らしいものでも買っていくかと思い,小さめの八ッ橋を買った(八ッ橋といえば,やっぱり「おたべ」のニッキがおいしい)。

ここの店員さんの京都弁で,京都に来たことを実感した。

京都駅に入線

在来線のりかえ改札機へ,新幹線の自由席特急券,スーパーはくとの指定席特急券,そして新山口までの乗車券を通す。自由席特急券が回収され,乗車券への印字がなされた。

京都駅の在来線ホームは,とにかく数が多い。そして,多方面へと列車が発着している。それらをまたぐ通路には,ここから各地へ出かけようとする行楽客が多く歩いている。

山陰方面へと向かうスーパーはくとは,6番のりばからの出発だ。のりばへと降りると,大量の乗客が待っている。こんなにスーパーはくとの利用客がいるのか?と思ったが,発車標を確認すると6番のりばの先発は,「SpeialRapid」,すなわち新快速であることがわかった。

新快速は網干あぼしゆき,なるほど,それで大阪や姫路ひめじ方面へと向かう大量の乗客が待っていたわけだ。6番のりばは,白浜しらはま・和歌山方面の「くろしお」と鳥取・倉吉方面の「はくと」が出発するものだと思っていたが,実際は他方面の列車も発着するようだ。

新快速網干ゆき

12両の長い編成を連ねた新快速電車(223系)は,待っていた大量の乗客を載せて出発する。名古屋の新快速は長くても8両編成,12両ともなると迫力がある(関東ではこれでも「短い」のだが)。

参照: 外側線を爆走!18きっぷ旅の優等生223系新快速乗車記

さて,”露払つゆはらい”の新快速が出発したら,すぐに案内放送が流れた。6番のりばは再び乗客で賑わい始め,向こうの方からゆっくりと,青い車両がその姿を大きく見せ始めた。近づいてくると,気動車のエンジン音がよく聴こえるようになる。

スーパーはくと3号(鳥取方面)倉吉ゆき
京都 8:51 = 鳥取 11:57

出発の数分前に停止。すぐにドアが開き,乗客が続々と乗り込んでいく。自由席には多くの乗客が乗り込んでいるが,自分は指定席をとったので焦らなくて大丈夫だ。が,入線時刻が意外と遅く,先頭車の写真を撮ったところで出発放送が流れ始めたので,急いで車内へと入る。

スーパーはくと3号指定席

座席は,3号車指定席2-Dだ。今日は土曜日,朝の下り列車ということで,指定席車内も京都出発時点で,半分近く埋まっている。窓側はもう数席しか空いていないようだ。

この「スーパーはくと」は,もともと京阪神と鳥取間を結ぶ需要の多くを賄う,利用状況のいい列車だ。列車を保有し,上郡かみごおり-鳥取間の運行も担当する鳥取県の第3セクター「智頭急行」は,スーパーはくとのおかげで経営好調だそう。それにCOVID-19の状況がよくなってきたことも合わさって,乗車率がこれだけ高まっているのだろう。

さて,多くの乗客を載せたHOT7000系は,エンジンを唸らせながら出発。「ふるさと」チャイム鳴動めいどうし,案内放送が始まった。

座席は,おそらくリニューアルされていて,座り心地がいい。モケットの色が綺麗だ。この座席は,JR四国8000系指定席と同じような造りとなっている。JR四国と西日本の車両は,相互に乗り入れる特急があることから,似たような車内構造を持っている列車が多いのだろう。

参照: JR四国8000系指定席「Sシート」乗車記

足回りのサイズ感は,振り子型気動車特急の先輩であるJR四国2000系と同じような感じ。足回りをすぼめるような構造なので,振り子でない特急と比べると少々窮屈になっている。

窓は大きくて車窓が楽しめそう。ただ,UVカットのためか,黒っぽい色味になっているのはちょっと残念なところ。

東海道・山陽本線|海沿いを快走

京都で買った「こたべ」,食べ切りサイズでちょうどいい。外箱もきれいで,捨てるのがもったいないので,持って帰った。

まずは京都線の外側線を走り,大阪へ到着。大阪を出発するときには,2号車指定席の窓側座席はほとんど埋まった。

乗客の雰囲気を眺めてみると,旅行というより地元への帰省・実家への挨拶,という方が適切だろうか。それにしても,京阪神=鳥取間の需要は力強い。そして,スーパーはくとはそのほとんどを拾い上げていると思われる。コロナ禍でこれだけ高い乗車率を保っているのだから。

神戸線: 大阪~姫路

大阪の次は,三ノ宮に停まる。大阪から姫路までは「JR神戸線こうべせん」,引き続き複々線区間の外側線を走る。外側線には,天下の”無料特急“(新快速)が走っているので,こちらもチンタラ走るわけにはいかない。HOT7000系は,時折エンジンを唸らせながら,力強く走っている。

走行音は,JR四国2000系のものとよく似ている。HOT7000系は,振り子気動車ということで,JR四国2000系気動車と設計が似ているところが多いようだ(ちなみにJR四国N2000系は,HOT7000系における技術がフィードバックされているらしい,振り子気動車の系譜けいふとしては2000系→HOT7000系→N2000系となるわけだ)。

JR四国2000系気動車

気動車における振り子機構は気動車の機構的な性質から困難と考えられてきたが、先んじてJR四国鉄道総研と共同開発した2000系気動車によって問題解決され、同時に「制御付自然振り子方式」が開発された(詳細は2000系の当該箇所を参照)。当形式はそうした2000系の振り子機構、エンジン、台車、車体構造の多くを踏襲している。

智頭急行HOT7000系気動車 – Wikipedia

エンジンはコマツ製,最高速度は新快速と同じ130km/hで,気動車としては国内最速だ。

名実ともに高速特急の走りを堪能していると,車窓は三ノ宮に近づく。車窓からは高層マンションがいくつも見られた。右手には山があり,中国地方に入って来たことを感じられる。

三ノ宮からは,後ろの席に男性が乗車した。後ろの席(1D)は,一人掛けとなっている。

三ノ宮を出ると,左側に元町の雑踏が見える。相変わらず高さのある建物が続いている。兵庫駅では,左下に和田岬わだみさき線を走る103系が見えた。青色がよく目立つ。

須磨すまの浦」を過ぎると,左手に瀬戸内海が見え始め,まもなく明石海峡あかしかいきょう大橋の曲線美が大きく見える。電光掲示板と車内放送にて,明石海峡大橋について案内がなされた。これも,特急列車ならではだ(新快速では案内されない)。この橋の景色も立派だが,右側に目を向けると住宅街が山際にびっしりと広がっていた。この景色も壮観だった。

JR神戸線のハイライト,左側にみえる明石海峡大橋

ここまでで,外側線が右側2線,内側線が左側2線の配置に変わっている。緩行列車は海側を走っている。ちょうど明石海峡大橋を過ぎたあたりで,321系普通列車が見えた。

おすすめ: 東海道本線・山崎駅撮影記|DD200,サンダーバード,新快速,はるかなど

西明石にしあかし駅で先行していた普通列車を追い抜き,複々線は終了する。特急の車窓は,18きっぷで乗車する新快速からの車窓とは違って見える。

それにしても,東海道本線・山陽本線は,頻繁に貨物列車とすれ違う。この日も,京都から姫路までで,両手で足りないくらいの貨物列車とすれ違った。この路線が,日本の物流を支える大動脈であることを感じられる。

京都で買った八ッ橋を頂く

山陽本線: 姫路~上郡

車内は,京都まで乗って来たひかり号同様,比較的旅慣れた人が多いようだ。そして,明らかに自分と”同業”の男性が多い。

大河川を渡って東姫路駅を過ぎると,高架の姫路駅に入線する。三ノ宮からの後ろの男性は,ここで降りて行かれた。東海道・山陽線内のみの需要も,多くはないがあるようだ。

姫路駅を出発,前の席の通路側,後ろの席に乗客が座った。2号車の乗車率は80%以上に達している。予想外の乗車率の高さだ。このようすだと,自由席はほとんど満席に近いのではないだろうか。

姫路から上郡かみごおりまでの車窓は,西日本の田舎の風景そのものだ。平たい瓦屋根に,丸い山並みは,東日本や東海地方ではあまり見られないように思う。

相生で,左手に赤穂あこう線が分岐していく。あちらは瀬戸内海沿いをゆく海側の路線だが,こちらの山陽本線は,引き続き海側をゆく。18きっぷ旅では,相生あいおい~上郡~岡山間が混雑区間であり,それを回避するために赤穂線を利用したこともある。

参考: 赤穂線乗車記|名古屋から松山への18きっぷ旅

山陽から山陰へ

ゆるやかな車窓のなか,HOT7000系も比較的穏やかに走り,上郡駅に到着。ここから,智頭急行線に入る。

智頭急行線内は振り子全開で走行

上郡駅では,乗務員が交代する。ここまではJR西日本の運転士・車掌が運行してきたが,上郡から先は智頭急行線の乗務員が担当する。

智頭急行線は,上郡(山陽本線)から佐用(姫新線),大原おおはら智頭ちず(因美いんび線)を結ぶ路線だ。いわゆる「高規格路線」で,本線内では「スーパーはくと」および「スーパーいなば」が,”陰陽いんよう連絡”を目的として高速運転を行う。

智頭急行線路線図|引用: 営業概要|智頭急行株式会社

なお,智頭急行内の佐用駅で接続するJR姫新線は,一度だけ乗車したことがある。

参考: 姫新線・津山線の旅

伯備はくび線と同じように,陰陽連絡路線は険しい中国山地を走る路線であるため,カーブが多い。そのためHOT7000系は,智頭急行線内において振り子装置を使用することができる。

上郡駅を出発したHOT7000系は,右へ転線。変わった車掌が,「上郡から第3セクターの智頭急行へ…」と案内している。HOT7000系はすぐに高架線に入り,どんどん加速してゆく。

ひきつづき案内放送を聴いていると,車掌はJR西日本区間の鳥取・倉吉まで乗務するようだ(運転士は,智頭駅にて交代していた)。

放送を聴いていると,いきなりトンネルに入った。高規格路線ゆえに,山を貫くトンネルも多い。山陽本線でも姫路~上郡間は,比較的のんびりとした走りだった。しかし,智頭急行線内では,はくとの走りが豹変する。

ここまで長距離乗ってきたせいか,ちょっとウトウト…HOT7000系は相変わらず張り切って飛ばしている。

カーブに入ると,グイっと車体が傾き,高速で抜ける。先ほど紹介したJR四国2000系などより,振り子動作がキビキビしている。特に,カーブを抜けたときの立ち上がりが速い。グーっと傾けたのち,スッと立ち上がるような感じだ。傾斜角度は,JR北海道の283系と同じくらい。結構傾く。

参考: キハ283系「スーパーおおぞら」乗車記

やはり,振り子動作が入ると,走りに迫力が増す。振り子気動車は,必ずしも万人受けする車両ではないが,鉄道ファンには受けがいいのではないだろうか。東海道線内を走る気動車,というだけでも特徴的なポイントであるが,さらに山間部を振り子全開で駆け抜ける。智頭急行線内の走りも,「マニア垂涎」ポイントの1つだといえる。スーパーはくと号は,1回の乗車で,2度も3度もおいしいところがある列車だ。

因美線・山陰本線

智頭急行線内を快走し,あっという間に智頭駅に到着した。この駅で4,5人が下車していった。

「スーパーはくと」は,智頭駅から,再びJR線(因美いんび線)を走る。

因美線は,いわゆる「ローカル線」の一部,先ほどの智頭急行線とは異なり,揺れがやや大きい。そして,ジョイント音も小気味いいものに変わった。

振り子も切っているのか,カーブ手前で減速して走っている。このあたりはローカル線なので,HOT7000系といえどもゆっくり走るしかない。

郡家こうげ駅に到着。難読駅名を冠するこの駅では,結構な下車があった。2号車からは10人近くが降りた。鳥取に近い駅として,それなりに利用状況はいいのかもしれない。なお,当駅には,国鉄から鳥取県に引き継がれ,上下分離方式で運営される第3セクター「若桜わかさ鉄道」も乗り入れている。のりかえ案内もあった。

鳥取駅にて下車

さて,郡家からしばらく走って鳥取駅に到着。

ここで,スーパーはくとの旅もおしまい。2号車のほとんどの乗客とともに鳥取駅の高架ホームへ降りる。

スーパーはくと3号はここから先,倉吉まで山陰本線内を走って行く。

有人の改札で乗車券に途中下車印をもらい,特急券は記念に持ち帰るために無効印を押してもらう。

鳥取駅の外に出ると,スーパーはくとの広告がすぐに目に入る。京阪神=鳥取間のりかえなし!1日七本割引あり!このインパクトと充実した割引きっぷで,需要のほとんどを拾い上げているのではないだろうか。

さて,もうお昼なので,駅前をぶらつき,写真を撮りながらお昼ごはんを探した。

駅前には素敵な外観のお店がいくつもあった。今回は1時間弱しかないので,カフェにてビーフカレーを頂いた。今度は鳥取駅前にでも宿泊して,これらの素敵なお店で夕食でも食べてみたい。

まとめ: マニア垂涎の気動車特急

2019/12/21 京都線山崎駅にて

以上,智頭急行のHOT7000系「スーパーはくと3号」の乗車記を綴ってきた。臨場感を伝えるために逐一書いてきたら長くなってしまった。が,HOT7000系が,【マニア垂涎】だという理由が,少しは感じていただけたのではないだろうか。

東海道から山陽,山陰へ。海あり山ありのバラエティに富んだ長い旅路を,力強い走りで駆け抜ける。1回の乗車でいくつもの楽しみがあるのが,スーパーはくとの魅力だと,そう今回の乗車で感じられた。

さて,そんなHOT7000系だが,導入から年数が経過しており,運行する鳥取県が公式に「車両の置き換え」を発表している。車両を保有する智頭急行は,その安定した経営状況から,車両置換のための資金を潤沢に保持している。黒字を出し続けるHOT7000系の置き換えは,近いうちに行われることが決定的だと思われる。こちらの記事によると,「30年使用をめどとして,2024年ごろからの置き換え」が考えられるという。

鉄道ファン,特に気動車特急が好きな玄人ファンにはたまらない魅力をもつHOT7000系,乗車しておくなら今のうちだ。

到着した鳥取からは,「スーパーおき」に乗車して,5時間かけて新山口まで向かう。

次の記事>> 【5時間超】山陰特急スーパーおき5号乗車記|鳥取→新山口 (2021.11.21公開予定)

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