夏の東北鉄道旅(7) 釜石線快速「はまゆり」の旅|盛岡→釜石

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夏の東北鉄道旅4日目。

午前中は,盛岡から,東北本線・釜石線を走る快速「はまゆり」に乗ることとした。快速「はまゆり」には,指定席が設定されている。指定席車両には,急行用として設計されたキハ110系-0番台が充当される。今回は,指定席を買って,リクライニングシートに座り,始発の盛岡から終点の釜石まで,乗りとおしてみた。

快速「はまゆり」指定席を「えきねっと」で予約

釜石線 快速「はまゆり」は,普通列車でありながら指定席が設定されている。この日乗車する予定の「はまゆり1号」盛岡発 釜石ゆきは,3両編成で,うち1両が指定席,2両が自由席だった。座席の指定は,ほかの特急列車と同じで,駅の券売機や窓口でもできるし,「えきねっと」でも可能だ。

今回は,乗車当日の朝,「えきねっと」から座席を指定した。乗車券は,「青春18きっぷ」をつかうので,座席指定券のみを予約した。盛岡駅に行って,改札へ入場するまえに,指定席券売機にて,予約した座席指定券を発券した。ほかの特急列車では,「チケットレス」特急券の設定もあったりするが,快速「はまゆり」では,駅の指定席券売機にて,紙のきっぷを発券しなければならない。この点は,「えきねっと」で座席指定をとるときの注意点だ。

最後の急行型 キハ110系0番台

3両すべてがキハ110系0番台

盛岡駅の改札口にて,駅員さんに「青春18きっぷ」2日目の捺印をしてもらい,ホームへ降りた。

出発線では,すでに,3両編成のキハ110系が待機していた。3両のうち自由席2両には,ボックスシート・ロングシートのキハ110系が充当される可能性もある,と事前調査していたが,この日は3両すべてがキハ110系0番台だった。

盛岡駅にて出発をまつ快速「はまゆり1号」。釜石方先頭車(東北本線内では青森方)には,キハ111形のトップナンバー車が連結。

キハ110系0番台の特徴①3本丸鋼排障器

キハ110系0番台は,他のキハ100系・110系とくらべて,外観・内装がずいぶんちがう。

外観上のちがいは,車両前面にある排障器(連結器まわりにあるカバーのようなもの)が,ステンレス製の3本丸鋼(パイプ状)になっていることだ。このような排障器は,現在のJR車両ではなかなか見られないもので,本形式の特徴の1つといえる。

キハ110系0番台は,排障用のバンパーがパイプ形状になっている。キハ100系・0番台以外の110系気動車では見られない,本番台特有の構造だ。

比較として,この旅の2日目に乗車したキハ112形-100番台(112-113,片運転台)の写真を示す。連結器まわりの排障器は,一般的な車両と同じく,板状であることがわかる。

石巻線 キハ111形100番台。排障器は,0番台と異なり,板状になっている。

こちらは3日目に一ノ関駅にてみかけた大船渡線のキハ100形。キハ110形は20m級の車体であるのに対して,この形式は16m級の短尺車体であることも特徴だ。こちらも,排障器は,上記のキハ111形100番台と同じく,板状になっている。

大船渡線 キハ100形0番台。こちらも,排障器は板状である。

キハ110系0番台の特徴②リクライニングシート

キハ110系0番台は,これら他形式のキハ110系と比較して,内装もことなる。いちばんのちがいは,キハ110系0番台の座席にリクライニングシートが使われていることだ。キハ110系は,一般的に,非電化線・ローカル線の普通列車用車両としてのイメージがつよい。そんななかでも,0番台だけは別で,この車はもともと,「急行用」として設計されたそうだ。それゆえ,一般車との区別をするため,ちょっと豪華なリクライニングシートが載せられているのだ。

快速「はまゆり」の前身は,釜石線・山田線の急行「陸中」だそうで,製造後から急行の廃止に至るまで,このキハ110系0番台が充当されたそうだ。つまり,本形式は,もともとの想定通り,急行列車として使われ,その名残として,現在でも快速「はまゆり」の運用についている,ということだ。

なおWikipediaには,現在では,JRグループのなかで,最後の「急行向け」車両である,との記載もある1。JRでは,定期の急行列車は続々と廃止され,「急行向け」の車両をつくる必要が無くなったからだと考えられる。現在,本形式はおもに,釜石線「はまゆり」や陸羽東線「快速ゆけむり号」など,東北地区の指定席つき普通列車(快速)へ充当されるようになっている。

もっとも,リクライニングシートは「急行向け」であるので,特急列車なみの座席・設備ではない。それでも,この車両が快速列車に割り当てられるということは,「青春18きっぷで乗車できるリクライニングシート」ということになる。首都圏の普通列車グリーン車や特急列車の特例区間をのぞけば,数少ない「18きっぷ旅の豪華列車」といえるのではないだろうか。

東北本線を花巻まで逆走

この日は平日ということもあって,盛岡の時点では,指定席と自由席ともに数名ずつしか乗車していなかった。このようすだと,自由席でもよかったかもしれないが,列車によっては,自由席にキハ110系0番台以外,つまり,リクライニングでない車両が割り当てられる可能性もあるので,こればかりは運と旅程次第だ。

それから,快速「はまゆり」のリクライニングシートは,始発の盛岡時点では,進行方向と逆向きにセットされていた。つまり,盛岡駅では,これからすすむ花巻・一ノ関むきではなくて,青森むきにセットされていた。乗車した直後は,「あれ?どっちが前だっけ」と混乱してしまったが,たしかに逆向きなようだ。

座席が逆向きになっているのは,「はまゆり」が,東北本線花巻駅で方向転換するためだ。これから乗って行く釜石線直通の「はまゆり1号」は,盛岡→花巻間で東北本線を走り,花巻駅で前後逆向きに出発して,釜石線へ入る。つまり,盛岡駅からは,およそ30分ほど,東北本線を逆走する形になる。これは,東海地区で,高山線 特急「ひだ」が,東海道本線で座席を逆向きにしたまま走り,岐阜駅でむきを変えて高山線に入るのと同じだ。

東北本線は電化されていて,気動車とくらべて加減速のいい電車や,高速貨物列車が走っている。釜石線へ直通するキハ110系「はまゆり」には,これら電車列車のダイヤを支障することなく走ることが求められる。

EH500「金太郎」牽引の東北本線下り貨物列車。盛岡から先は,IGRいわて銀河鉄道線を下ってゆく。

キハ110系「はまゆり」は2~3割ほどの乗車率のまま,盛岡駅を出発した。まもなく,電車にも負けない加速性能を全開で発揮して,東北本線を猛然と逆走し始めた。外はあいにくの天気で,たちこめる黒い雲はいまにも雨を降らせそうだが,キハ110系の胸のすく走りで,気分は晴れやかだ。

釜石線へ,山村から港町にむかう

「はまゆり」は,およそ30分の本線逆走を経て,花巻駅に到着した。この間,わずか2駅しか停車しなかった。花巻駅は,釜石線への分岐駅だ。「はまゆり」は,ここで方向を変えて,釜石線へと入る。数分の停車の間に,盛岡方運転席へ,運転士が乗り込んできた。

東北本線を快走し,花巻駅までやってきたキハ110系。ここから進行方向を変えて,釜石線へとすすむ。

この車両は,急行型車両らしく,デッキがついている。花巻駅出発後,運転席後方のデッキから前面展望を楽しんだ。気動車の運転操作は,電車のそれとはまたひと味違っていて,見ていて飽きない。ノッチを入れると,それに呼応するよう,エンジンが唸る。キハ110のエンジンは軽快そのもので,レスポンスもすばらしい。

釜石線に入って最初の主要駅は新花巻駅だ。新花巻駅は,新幹線の高架のすぐ下に造られていた。高架橋脚は,釜石線の直線をさえぎる位置にあって,釜石線はそれを避けるよう,少し右へカーブしながら新花巻駅へと至る。

当駅は,東北新幹線とののりかえ駅となっている。新幹線からの乗り換えと思しき10人以上の乗客が,各車両へとのりこんできた。指定席には,2~3組の親子連れが座った。彼らは,デッキと客室とを隔てるガラスから前面を見られる前側の席だった。客室から前面展望を楽しめる席だ。子どもたちの楽しみを邪魔してはいけないと思い,デッキを離れて,もとの座席にもどった。

釜石線は,全線を通じて,おおむね山村の集落をむすんでいる路線だった。また,宮沢賢治ゆかりの地・路線でもあり,ぽつぽつと停車する駅名標は,「銀河鉄道の夜」をモチーフにしたイラストで飾ってあった。「SL銀河」という観光列車も走る路線であったが,機関車の老朽化にともない,運行を終了した。

途中,1か所だけ山深い区間があったが,キハ110がジョイントをたたく音があまりにも心地よく,ついウトウトしてしまった。ぼんやりとした頭が徐々に醒めてくるころ,車窓はひさしぶりの街のなかへと進んでいた。トンネルを抜けると,まもなく速度を落として,ゆっくりとカーブをぬけ,釜石駅へと入線した。2面4線に留置線がいくつか並んだ立派な構内だ。山から海へと至る太平洋側の路線ということを考えると,2日目に乗車した「石巻線」の女川駅もおなじようなものだが,釜石駅のほうがずいぶん立派だ。女川駅が,石巻線の末端であり,かつ終着駅であったのに対して,釜石駅には,釜石線のみならず,三陸鉄道も乗り入れているからだ。

定刻で釜石駅に到着した。駅ホームを吹き抜ける塩っぽい浜風が心地いい。右手奥に見えているのはこれから乗車する三陸鉄道の気動車だ(「リバーサルフィルム」で現像)。

ちょうど,「はまゆり」に接続する,リアス線宮古ゆきが出発を待っていた。ただ,このあとの旅程を鑑みると,もう1本あとの列車でもよかったので,この接続列車は見送った。

いったん,改札を出て,次の列車まで駅周辺を散策した。釜石は,ラグビーと鉄のまちだ。それを象徴するかのように,釜石駅をでてすぐ新日鉄の工場 北日本製鉄所がある。高炉がもうもうと白煙を上げていた。 (高炉は平成元年に休止2,煙を上げていたのは発電設備だそうです,ご指摘いただきありがとうございました。)そして工場の壁面には「ラグビーのまち」とラッピングが施されていた。新日鉄釜石はかつて,社会人リーグで7連覇したこともある名門チームだ。

それから,駅前にある商業施設をぶらぶらした。被災後に模様替えした女川とは異なり,こちらは平成のまま時がとまったような建物で,なかもそんな調子だった。定食屋・喫茶・本屋・土産物屋が,埃っぽいテナント内を気まぐれに埋めていた。駅周辺で勤めている男性客グループ数組が,その喫茶の前にある席で,ランチともブランチともつかぬ食事をとらんとしていた。盆明けの平日ということで,施設内に観光客は皆無だった。まだランチには早かったが,私も空腹だったので,内気な初老の男性がひとりで営む喫茶へ入って,「岩手牛上カルビ丼定食」を頂いた。名前こそ立派だが,カレー皿のような平べったいプレートのうえに,御飯・根菜とカルビを炒めたものがのっかったのと,付け合わせが2つ・スープという,素朴で庶民的な定食だった。

観光案内所でパンフレットを立ち読みしてから,釜石駅にもどった。降りたときはJRの改札を出てきたが,こんどは三陸鉄道リアス線にのるから,三陸鉄道側の改札へとむかった。

(つづく)

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2024.10.19 釜石駅前の製鉄所について記述を修正。

  1. JR東日本キハ100系気動車 – Wikipedia,URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/JR%E6%9D%B1%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%82%AD%E3%83%8F100%E7%B3%BB%E6%B0%97%E5%8B%95%E8%BB%8A#%E3%82%AD%E3%83%8F110%E7%B3%BB_2 (Access: 2024.9.24) ↩︎
  2. 日本製鉄:「歴史・沿革|北日本製鉄所 釜石地区」,URL: https://www.nipponsteel.com/works/north_nippon/kamaishi/about/history.html (Access: 2024.10.19) ↩︎
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