夏の東北鉄道旅(8) 三陸鉄道リアス線|釜石~宮古

夏の東北鉄道旅4日目。午前中に釜石線でJR釜石駅までやってきた。

釜石からは,三陸鉄道リアス線で宮古までおよそ1時間30分の旅。

リアス線:釜石~宮古は,もともと国鉄(JR東日本)山田線だったものが,2019年に三陸鉄道へ経営移管された線区だ。それゆえ,三セクとは思えないような急勾配,長い駅間が多くあり,軽快気動車の走りを楽しめる路線だった。

三陸鉄道「リアス線」の出自

宮古駅にて撮影。

三陸鉄道は,日本ではじめて第3セクター方式の鉄道会社で,1984年(昭和59年)4月1日に,以下の2路線で運行を開始した1

  • 北リアス線(宮古ー久慈)71.0km
  • 南リアス線(盛ー釜石)36.6km

ここには,今回乗車した釜石ー宮古間は含まれていない。現在のリアス線|釜石~宮古間は,もともと三鉄開業当時は国鉄山田線の一部として運行されていた。その後,国鉄分割民営化によって,JR東日本山田線の一部となった。それが,2011年に東日本大震災で被災。その後,復旧工事を経て,2019年(令和元年)3月23日に,JR東日本から三陸鉄道に運営移管された2

三陸鉄道・釜石駅のホーム。2019年まで,盛から釜石までの「南リアス線」の終着駅だった。ここから宮古までの区間は,2019年まで,JR東日本山田線の一部だった。それゆえ,駅構内の配線や設備は,国鉄やJRの雰囲気を醸し出している。

これによって,釜石~宮古間は,三陸鉄道の路線の一部を構成するに至った。また,「北リアス線」と「南リアス線」とが,釜石~宮古間の移管によって,三陸鉄道の鉄路として一つにつながった。その結果,2019年3月24日から,盛〜釜石〜宮古〜久慈間の163kmが,「リアス線」として運行されることとなった1。南の終点・盛駅ではJR大船渡線(BRT)に,途中の釜石・宮古駅ではJR釜石線・山田線に,北の終点・久慈駅ではJR八戸線に,それぞれ接続している。このようにして,三陸鉄道リアス線は,南北に長くのびる岩手県の海岸線に沿って走る路線なのだ。

釜石駅からリアス線 宮古ゆきに乗車

まずは,釜石駅の三陸鉄道待合室できっぷを買う。待合室には2,3人しかいない。TVの音声がながれるほかは,ひっそりと静まっていた。釜石からは,リアス線:釜石1210発2013Dに乗車する。2013Dは,盛から2209Dとして,元・南リアス線を通って,釜石までやってきた列車だ。釜石から2013Dと列番を変えて,宮古まで直通する。釜石からリアス線,終点の宮古までは,大人1人で1540円。後述するように,三陸鉄道は第3セクター線なので,青春18きっぷでは乗車できない。

列車の出発まではまだ20分ちかくあったと思うが,きっぷを買ったタイミングで,早くもその列車が入線してきたようだ。待合室の客は,そそくさとホームへ出ていき,自分しかいなくなった。それから,待合室にある模型や写真などをちょっと眺めて,自分もホームへむかうことにした。誰も歩いていない地下道を歩いて,駅舎と離れた側のホームへと上がった。階段の中盤くらいで,女性の駅員さんが,放送をつかわず肉声で列車を案内していた。この駅員さんは,釜石線でここまで来たときにも,同様にホーム上でのりつぎ案内していた。最近では,自動放送がすっかりあたりまえで,肉声放送だとしても,駅務室から遠隔で,スピーカを介して案内するのがふつうだ。むかしの鉄道では,このような肉声・駅員の直接の音声による案内はあたりまえだったのだろうか。

ホーム上で出発を待つのは,36-100形気動車。コンパクトな軽快気動車だ。前面下部のライトは大きめで,長方形のインパクトある形をしている。車内は昔ながらの風情をのこすボックスシートで構成されている。東北地方を走る車両ということで,天井には扇風機が装備されていた。きっと昔は,今より涼しかっただろうから,夏場はこれで事足りたのだろう。

盛からやってきた2209D。ここから2013Dと列番を変えて,宮古まで直通する。
「昭和58年三陸鉄道」のプレートは,この車両が三陸鉄道開業当時から走っていることを示す。
「brother」のヘッドマークが掲出されている。車内にも同社の中吊り広告があった。

元・国鉄(JR)線の威厳をのこす路線

リアス線は,ほとんど全線にわたって,三陸海岸(リアス式海岸)に面する入り組んだ地形を走る。したがって,沿線の地形は生半可なものではないことが,容易に想像される。その路線の険しさは,実際に列車に乗り込んで,運転席の斜め後ろから前面を見ているとよくわかった。街と街・駅と駅との間の多くは,25‰ちかい急勾配を上り下りするような線形だった。特に,海岸沿いの地区に至ると,集落は低地にあるのに対して,線路は段丘の上を走っているから,駅到着・出発時の勾配が非常にきつくなっていた。ただ,カーブの半径はさほど小さくないので,36-100形は割合軽快にのぼってゆく。エンジンの噴き上げが気持ちいい。下り坂も,エンジンブレーキを効かせてどんどん下ってゆく。線区の険しさとは裏腹な走りが爽快だ。

36-100形気動車の車内。大半が4人掛けのボックスシートで構成される。

ボックスシートに掛けると,使い古されてぶかぶかになっていたが,これがまた旅情を誘った。夏の北海道や,春の九州で乗車したキハ40での旅が思い出された。こうやってシートに掛けて車窓をぼんやり眺めるのもいいが,やっぱり前面展望が面白いから,運転席の後ろに出ていって,運転士のマスコンさばきを見つつ,走りを楽しむ時間も多くあった。

小型気動車らしく,軽快に勾配をこなしてゆく。運転室からは昭和の香りがただよってくる。

海岸近くに出てくると,ほとんどかならず,海がみえないほど高い堤防が連なっていることにも気づいた。そのすぐ下には,津波で破壊され,再築したと思われる新居や,区画整理されただけの空き地が点在していた。初日に,特急「ひたち」で常磐線を仙台まで北上したときも,福島・浜通りあたりで似たような風景をみた。2011年の震災から13年が経ったが,現場ではいまも「復興」が続いている。

陸中山田駅で,釜石からのわずかばかりの地元客が下車していった。この駅で,対向列車と行き違いのため,しばらく停車。そこから,宮古駅までの区間は,数人しか乗っていなかった。平日日中で,JR線でもないから「18きっぱー」もいない。これがローカル線の日常だ。元々国鉄線ということで,駅数は多くなく,代わりに各駅の間は長かった。JR線だが駅数が多く駅間が短い飯田線などとは対照的だ。

宮古駅の2つ手前,八木沢・宮古短大駅で,地元の女子小学生4人組が乗車してきた。にわかに賑やかになったところで,まもなく宮古駅についた。

宮古からはJR山田線が盛岡まで延びている。入線したホームにあった駅名標はJR東日本のデザインだ。
跨線橋より撮影。宮古から釜石・盛へむかう列車が入れ違いで入って来た。
宮古駅から釜石方面盛ゆきの改札中。

宮古駅では,久慈方面への代行バスが接続していた。リアス線は,ここから三陸海岸を北上するように,久慈駅まで路線が伸びている。しかしこのときは,宮古~新田老間で,大雨により列車が走れなくなってしまっていた。復旧には数カ月を要する見込みと,駅掲出のポスタに書いてあった。この区間には地元客・観光客ともそれなりにいるようで,代行バスに乗り込む乗客の列が,バス乗り場から駅待合にかけて伸びていた。

宮古駅周辺を散策

私はここから,山田線にのりつぎ,盛岡まで戻る予定だった。山田線は,つぎの記事で紹介するように,1日数往復しか列車がない。そのため,つぎの列車まで,2時間近く待ち時間があった。

待ち時間の間,まず宮古駅のまわりを散歩した。駅前の商店街には,昔ながらの商店が現役で稼働していた。それらの商店の間には,2011年3月11日に津波が到達したことを示すステッカーが貼ってあった。商店街からは海が見えないが,津波が押し寄せたということだ。

そのあと,宮古駅と跨線橋でつながっている宮古市役所へ行った。市役所は,2018年10月に開設された「イーストピアみやこ」という複合施設4に入っていて,跨線橋で駅と直結している。ここには保健センターや市民交流施設も入っていて,2階のスペースの一角には,小さなカフェ(「ふれあいカフェ」)があった。宮古駅を見下ろせる窓際の席で,ケーキセット(300円)を頂いた。

「イーストピアみやこ」のふれあいカフェから,宮古駅をのぞむ。

「イーストピアみやこ」の前にある駐車場からは,三陸鉄道の留置されている車両を眺めることができた。赤と青のインパクトあるデザインのおかげで,車両の古さをまったく感じさせない。足回りもよく整備されているようにみえた。

(つづく)

夏の東北鉄道旅(9) JR山田線|宮古~盛岡

  1. 三陸鉄道:「三陸鉄道のあゆみ」,URL: https://www.sanrikutetsudou.com/%e4%bc%9a%e7%a4%be%e6%83%85%e5%a0%b1/%e4%b8%89%e9%99%b8%e9%89%84%e9%81%93%e3%81%ae%e3%81%82%e3%82%86%e3%81%bf/ (Access: 2024.10.19) ↩︎
  2. JR東日本:「JR東日本発足からのあゆみ」,URL: https://www.jreast.co.jp/company/outline/history.html (Access: 2024.10.19) ↩︎
  3. 三陸鉄道:「三陸鉄道のあゆみ」,URL: https://www.sanrikutetsudou.com/%e4%bc%9a%e7%a4%be%e6%83%85%e5%a0%b1/%e4%b8%89%e9%99%b8%e9%89%84%e9%81%93%e3%81%ae%e3%81%82%e3%82%86%e3%81%bf/ (Access: 2024.10.19) ↩︎
  4. イーストピアみやこ:「施設概要」,URL: https://eastpia-miyako.jp/outline/index.html (Access: 2024.10.19) ↩︎