夏の東北鉄道旅 (10) 大船渡線に乗ってBRTを見に行く|盛岡→一ノ関⇔気仙沼

大船渡線は,東日本大震災後,海沿いの一部区間がBRT化された。これにより,大船渡線気仙沼駅は,南北のBRTが発着する拠点駅となった。

BRTとは,専用道やバスレーンなどにより,定時性と速達性をたかめたバスの運行形態の1つだ。ただ,日本国内ではまだまだ馴染みがうすい。

そこで今回の旅では,盛岡駅から,東北本線と大船渡線をのりついで,気仙沼駅まで足を運び,実際にBRTとその設備をみてきた。

はじめに:大船渡線の概要

震災後に一部BRT化された路線

大船渡線は,岩手県一関市(東北本線一ノ関駅)と大船渡市(さかり駅)をむすぶ105.7 kmのローカル線だ1。大船渡線は,もともと全線が「鉄道線」(レールのうえをはしる鉄道車両によって運行する形態)だった。

しかし,大船渡線のうち,太平洋沿いの区間(気仙沼駅~盛駅)は,2011年3月11日の東日本大震災によって甚大な被害をうけた。

その後,この区間は,鉄道線ではなく,「BRT」(Bus Rapid Transit: バス高速輸送システム)方式で,運行再開された。

つまり,現行の大船渡線は,一ノ関から気仙沼までが「鉄道線」,気仙沼から盛まではBRT(あるいは「自動車線」ともいう)となっている。

BRT:専用道やバスレーンをつかった速達バスシステム

ここで,BRTとは,国交省によると

 BRT とは、走行空間、車両、運行管理等に様々な工夫を施すことにより、速達性、定時性、輸送力について、従来のバスよりも高度な性能を発揮し、他の交通機関との接続性を高めるなど利用者に高い利便性を提供する次世代のバスシステムです。

と紹介されている2

ここでの「様々な工夫」とは,連接バスや,バス専用道,バスレーン等のことだ。今回記事で紹介する大船渡線BRTは,鉄道線を舗装化することでバス専用道にしたものだ。

いっぽうで,バス専用道以外にもBRT(に近い)ものが国内にも存在している。たとえば,名古屋市の「基幹バス」が,これに近しいものといえる。

ふつう,バスは,道路の歩道側にあるバス停に停まっていく。これに対して,名古屋市バス(基幹バス)の「バスレーン」は,道路の中央に設けられている。これにあわせて,バス停も道路の真ん中に設置されている。このような「中央走行方式」を採用することで,通常のバスより,速達性と定時性をたかめている。これにより,基幹バスは,「BRT並み」の機能を発揮しているといえる3

大船渡線がBRTで復旧された理由

BRTは,このように,定時性や速達性といった観点で,路線バスより優れている。いっぽうで,大船渡線(ならびに気仙沼線)の被災区間がBRT復旧された理由は,それだけではない。もともと敷設されていた鉄道線を,安全に運行できる状態にもどすには相当の時間がかかることが想定されたからだ。

くずれた路盤や線路・信号設備を引き直すのには相当な時間が必要だ。これに対して,一般道路を活用しつつ,鉄軌道だった部分を舗装化すれば,BRTというかたちで早期復旧できる。加えて,鉄道より柔軟にルート設定して,駅や運行頻度をふやしたりできるし,地震後の津波避難も迅速におこなえて安全性も高い。このようにBRTによる復旧は,「街の再構築」という観点からもすぐれているとされた。

JR東日本は以上のことを鑑みて,沿線自治体にBRTによる復旧を提案し,2013年3月2日から運行を開始している4

なお,BRTでの復旧を提案したのは,大船渡線にかぎらない。大船渡線気仙沼駅を起点にして,南側へとのびる気仙沼線(気仙沼~前谷地)も同様だ。

気仙沼線では,路線の大部分にあたる柳津~気仙沼間(55.3 km)のBRT化が提案されて,2012年12月22日に運行開始している。いずれのBRTも運行事業者はJR東日本のままだが,バス運行は,㈱ミヤコーバスと岩手県交通㈱に委託されている5

国内では,上記のようなBRTというシステムは,まだまだ少ない。

しかし最近では,災害の激甚化と鉄道利用者の減少から,「鉄道線を復旧する代わりにBRT化する」事例を通じて,少しずつ国内でも見られるようになってきている。たとえば,JR九州では,日田彦山線の一部がBRT化されている。

関連記事:九州筑豊エリアの地方交通線でローカル気動車に乗る旅:日田彦山線・後藤寺線・原田線

今回は,その代表例であり,鉄道線とBRTとが連絡するという,複数モードによる運行形態となった大船渡線に乗って,そのシステムを見てきた。

東北本線を盛岡から一ノ関へ上る

まずは,盛岡から,東北本線上り一ノ関ゆき(1530M)に乗車して,大船渡線の起点である一ノ関駅にむかった。1530Mは,盛岡駅を7時59分に出発して,気仙沼駅の起点である一ノ関駅にむかう列車だ。

1530Mは,盛岡車両センタの701系で盛岡駅7番線から出発した。盛岡出発時点で車内のロングシートはほとんど満席だったが,東北本線をのぼってゆくほど,ぽつぽつと通勤客が下車していった。車内は通勤客がほとんどのようだ。

盛岡駅で出発をまつ701系 1530M(普通 一ノ関ゆき)

東北本線は電化されているが,途中で,キハ110を複数両つないだ列車とすれちがった。釜石線を経て花巻から直通してきた列車か,間合い運用の区間列車と思われる。本線上ですれちがうキハ110は,かなりの高速運転だった。これだけの高性能気動車なら,電車の間に走らせても,ダイヤを支障しない。

1530Mは,このようにして東北本線を順調に上り,一ノ関駅に定刻通り到着した。

一ノ関駅で大船渡線(鉄道線)にのりかえ

それから一ノ関駅では,およそ50分ののりかえ待ちを経て,10時17分発 大船渡線 325Dに乗りかえた。2両編成であったことから,需要はそこそこあると思われた。実際,出発間際になると,平日にもかかわらず,ボックスシートの向かい側に2人連れがかけるほど盛況となった。

一ノ関駅にて出発を待つ大船渡線325D。キハ100形を2両つなげた編成だ。

325Dは,定刻通り出発。大船渡線の鉄道線は,一ノ関駅を出発したあと,1つとなりの真滝またき駅まで国道と並走した。

次の陸中門崎(かんざき)駅には,ローカル線に似合わぬ広い構内があることに気づいた。ここにはかつて,貨物列車が乗り入れていたそうだ。線路から川を挟んで向こう岸には,採石場のようなはげ山もみえた。

その後,325Dは,Ωの字を描くように走った。Ωの字の頂点あたりに,猊鼻渓(げいびけい)という景勝地があった。そこでまとまった下車があったものの,それ以外の多くの客はまだ乗っていた。

途中の千厩(せんまや)駅は,大船渡線の鉄道線における主要駅の1つだ。ここで一ノ関ゆきの上り列車と交換した。大部分が単線だが,列車本数は1日9本と少ない。したがって,列車交換は,千厩駅のほかは,さきほどの真滝駅で行われただけだった。

325Dは,気仙沼駅に11時45分に到着した。一ノ関からのってきた多くの乗客は,気仙沼まで乗りとおしていた。夏休み中だったので,観光客が多いようだ。大船渡線の鉄道線は,全線を乗りとおしても1時間半ほどだった。

気仙沼駅に到着した大船渡線普通列車。BRT復旧により,鉄道線は当駅までとなっている。

気仙沼駅|南北へ2つのBRTが発着する拠点

BRT特有の線形と沿道設備

気仙沼駅のホームに降り立つと,そこと高さを合わせるように,BRTのりばが設置されていた。鉄道線のホームと高さがそろっていて,階段や段差の昇降なく,のりかえできるようになっていた。

BRTのりばからは,南北にコンクリート舗装の専用道が伸びていた。これがBRTの専用道だ。道路としては狭く,また,曲がり方も不自然だった。このような道路の形は,もともと,鉄軌道だったところの線路を引きはがしたうえで舗装化したことの名残だろう。

気仙沼線BRTの専用線を走るバス。車両そのものは,一般のバスと変わらないが,専用道は単線で,一般道とずいぶんちがう線形になっている。

そのほか,専用道沿いには,駅から見渡せる範囲だけでも,信号や遮断機,特殊な標識が見られた。いずれも,BRTでしか見られないようなものだ。

気仙沼駅から毎時2本以上が出発

気仙沼駅ホームから,盛方をみる。駅前の道路は,上下のバスが交換できるように,複線(2車線)化されている。

ちょうど列車の到着に合わせるようにして,上下のバスがやってきた。時刻表をみると,大船渡線BRT,すなわち気仙沼から北上してさかりへむかうバスは1日14本あった。このうちいくつかのバスは,途中の停留所をいくつか通過する。つまり,「快速」列車のようなバスだ。

同様に,気仙沼線BRT,すなわち気仙沼から南下して柳津・前谷地へむかうバスも,1日10本以上あった。

このように,BRTは,直通バスが毎時1本,区間運行もふくめれば,気仙沼駅から毎時2本運行が確保されていた。

ちょうどお昼時だったこのときは,やってきたバスに地元の客と観光客が数名ずつ乗車していった。気仙沼駅を起点とする,大船渡線・気仙沼線BRTの両線は,いずれも1日平均200人ほどが利用しているようで,2019年度以降は(コロナ禍をのぞいて)おおむね横ばいのようだ6

気仙沼駅の設備は鉄道線時代を維持

気仙沼駅には,駅舎が維持されていて,待合室や小さな売店もあった。おかげで,パンやおにぎりなど,昼食の調達もできた。駅前にはロータリがあって,タクシーやマイクロバス,地元客の車が行き交っていた。

大船渡線は,BRT化されたとはいえ,運行事業者はひきつづきJR東日本だ。駅周辺の設備は,地元客がつかうにじゅうぶんなように保守・管理されていた。

気仙沼駅でのBRT見物を終えた後は,大船渡線の折り返し列車にのって,一ノ関へ戻ることとした7。325Dとして到着したキハ110は,気仙沼駅で約30分弱,小休止したあとで,332Dとなって,大船渡線を一ノ関まで上る。332Dの車内は,一ノ関までの全線を通して,325Dほど混雑していなかった。一ノ関駅には,13時42分にもどってきた。

あとがき

今回は,大船渡線の鉄道線に乗って,気仙沼駅のBRTを見てきた。気仙沼駅では,鉄道線とBRTが乗り継ぎやすいように設備がつくられていた。バスの本数も毎時2本以上確保されていた。利便性は,鉄道線とくらべても遜色がないようにみえた。今後は,日本各地のローカル線で,こうした形式でのバス転換がふえていく可能性もあるだろう。

(つづく)

夏の東北鉄道旅 (12) 東北本線701系|一ノ関→福島

  1. Web東海新報:「「鉄道」の歴史、終幕へ JR東が事業廃止届け出 大船渡線・気仙沼─盛間」,URL:https://tohkaishimpo.com/2019/11/14/271340/ (Access: 2024/11/3) ↩︎
  2. 国土交通省:「道路:BRT」,URL: https://www.mlit.go.jp/road/brt/index.html (Access: 2024/11/3) ↩︎
  3. 国道交通省:「名古屋市(愛知県):基幹バス BRT並みの機能を持たせたバス路線の構築」URL: https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/pdf/057_nagoya.pdf (Access: 2024/11/3) ↩︎
  4. JR東日本:「BRTの仕組み」,URL: https://www.jreast.co.jp/railway/train/brt/system.html (Access: 2024/11/3) ↩︎
  5. JR東日本:「JR東日本BRT事業における2024年度輸送の安全に関する取り組みについて」,URL: https://www.jreast.co.jp/safe/pdf/brt_anzen.pdf (Access: 2024/11/3) ↩︎
  6. JR東日本:「路線別ご利用状況(2019~2023年度)」,URL: https://www.jreast.co.jp/rosen_avr/pdf/rosen02.pdf (Access: 2024/11/3) ↩︎
  7. この日は,福島あたりまで向かうことにしていた。気仙沼駅から,南下するようにのびる気仙沼線BRTに乗りかえれば,石巻線との接続駅である前谷地まで南下できるが,そこまで2時間近くかかるうえ,途中,トイレ休憩がない。加えて,前谷地駅で列車とBRT相互の接続は行っていない。地元客が区間利用するには便利だが,鈍行旅で「乗りとおす」にはやや不便かもしれない。 ↩︎