飯田線で伊那谷北部を旅する|辰野→駒ヶ根|信州鉄道旅(3)

車掌が2人も乗務する飯田線普通列車

辰野駅からは,普通列車 飯田ゆきに乗車した。列車は313系J編成で,転換クロスシート。それゆえ,前の記事にも書いたように,車内の雰囲気は東海道本線とあまり変わらない。

辰野駅にやってきた313系J編成。ここから伊那松島駅まで乗車する。

ただ1つ,この列車に特徴的だったのは,車掌が2人も乗車していたことだ。2人のうち一人の車掌が,車内を忙しく巡回していた。このくらいのローカル線の場合,他社管轄区間なら間違いなくワンマン乗務だが,飯田線はそうではなかった。

そんな忙しそうな車掌に改札してもらったあと,団子とワッフルを食べて空腹を満たした。食べ終わったところでちょうど,目的地の伊那松島駅に着いた。ここで一度途中下車した。

乗車券の券面に,途中下車したことをボールペンで書いてもらわなければなかった。構内踏切が鳴動している横で他の降車客も気にしつつ,面倒なマニアの対応をしてもらって,申し訳なかった。

伊那松島駅にて。ここで乗務員が交代する。
伊那松島駅には,JR東海の伊那松島運輸区がある。
三角屋根が特徴的な伊那松島駅舎。

途中下車の目的は,同駅近くにある箕輪町博物館にあるED19 1の保存車両を見ることだった。伊那松島駅から天竜川の河岸段丘を上るようにして10分くらい歩くと,博物館に行ける。坂の上には,目当てのED19が見えた。この時のようすは写真館の記事にまとめた。

国鉄ED19-1|伊那松島に残る大正時代の舶来電機を見てきた

変化に富む飯田線北部の車窓

1時間程度の散策ののち,伊那松島駅へ戻った。ここから,313系3000番台(R編成),2両編成の普通列車(天竜峡ゆき)に乗車した。1号車はクモハで,2丁パンタが特徴的だ。当駅にて,下り213系と交換した。

213系と行き違い。211系と見た目はほとんど変わらない。

伊那松島から,伊那市~田切~駒ヶ根の飯田線伊那谷北部地区は,変化に富む車窓で面白い。伊那市街地で街中の路地裏を縫うように走ったかと思えば,田切地形や天竜川の段丘の間をジェットコースターのように走り抜けた。

そして,何処を走っていても,両側に山がみえる。これが飯田線北部地区いちばんの醍醐味だと思う。

沢渡(さわんど)~赤木の間には,JR線最急勾配(40‰)もある。沢渡を出発した列車は,フルノッチで勢いよく加速して,この坂を一気に駆け上がった。その後も,33‰上り,27‰下りカーブと,急勾配・急曲線が続いた。

JR線最急勾配に挑む313系。写真右下には,40‰(パーミル)の勾配標識が見える。

車内はお出かけ帰りと思われる地元客がほとんどで,のんびりしていてよかった。こういうローカル線は,青春18きっぷ利用期間を外して旅すると,日常の雰囲気を味わえる。

飯田線北部は,このように,どこか地方鉄道に似通った車窓と車内の雰囲気だった。これは,飯田線が国鉄買収されるまでは私鉄だったことに由来すると思われる。

飯田線の改札事情と今後

この列車は,駒ヶ根駅で下車した。中年に差し掛かっているベテランの車掌に,到着前に途中下車を申し出た。伊那松島駅で,途中下車で少しばかり手間取らせたからだ。

駒ヶ根駅に到着。

申し出を聴いた車掌は,特に何も対応しなかったが,しかし,到着間際になって,思い直したかのように,「やっぱり書いておこうか」といって,赤ペンを取り出して,乗車券面に途中下車のことを記入した。おそらく,私の乗車券に,伊那松島で下車したことが,赤ペンで記入されていることに気づいたからだろう。

駒ヶ根駅では,私が下車したほかにも,十人以上の降車があった。定期客もふくめて,車掌はすべての客のきっぷ・定期券をしっかりチェックしていた。そして,大方の降車が済んだあと,しばらくの間,1人のお客さんに対して,車掌が車外で対応にあたっていた。313系は構内踏切が鳴動するのを聴きながら足踏みしていた。

おかげで,島式ホームの反対側で213系回送電も,渡り線を渡る都合,出発を待たされていた。当該列車の出発時分は余裕をもって設定されているようで,遅れたわけではなさそうだったが,それにしても改札が大変そうだ。

この列車を見送ってからコンコースを通ると,駅舎にはきっぷを売る窓口に人がいた。この人に改札を委託すればいいのでは?と思ったが,どうやらJR東海の制服は着用していない。きっぷ販売のみを委託された係員のようだ。これは,伊那松島駅でも見られた。

駅構内からも山が見える。手前には,駅員が入れる改札所があるが,無人化されている。かつてはここで,切符を改札していたのだろうか。

飯田線ではこのようにして,基本的にきっぷの駅売りこそすれ,改札は委託せずに車内外で済ませてしまう光景が見られる。1名以上の車掌さん,それも若くて体力がある方が乗っていることも頻繁にある。

こうして車両あたりの乗務員数をふやせば,それだけ人件費がふえる。運賃収入の取りこぼしが減るとはいえ,車掌の人件費に比べれば微々たるものにすぎない。ツーマンにすれば,安全面で確実性が増すとも考えられるという点を鑑みれば,採算性よりも安全を重視しているといえなくもない。

ただ,これだけの人員を地方線区にまで避けるのは,やはり新幹線で上がる利益が潤沢であるからに違いない。東海道新幹線の利益に比べれば,同社の在来線,わけても飯田線クラスのローカル線の運賃収支および乗務員にかかる人件費は,ごく小さいと推察される。

いっぽうで,交通系ICカードが普及した昨今では,このような改札はさすがに非効率的であることは否めない。実際,JR東海は,今後,ICカード導入を進めていくとしている。順次効率化されていけば,このような体育会系の乗務員がツーマン乗務する飯田線も,見納めになるかもしれない。

駒ヶ根にて1泊

さて,駒ヶ根駅にて,信州鉄道旅の初日はおしまい。駒ヶ根駅は,伊那谷の他のまちと同様に,谷の両側をアルプスに挟まれたまちで,駅前からのびる商店街の向こうには,木曽駒ケ岳やしらびそ平で有名な木曽山脈が壁のようにそびえていた。アルプスはよく「日本の屋根」と称されるけれども,こうしてみてみると「屋根」というよりは「壁」という方がしっくり来た。

晩冬の夕方でありながらも,駅前にはアルパインザックを背負ったアウトドアウェアのひとがちらほらいた。山から吹き下ろしてくる北西風は,非常に冷たい。盆地だから,足元が冷える。広小路の商店を眺めつつ,凍えそうな手をさすりながら,ホテルまで約1.5 km歩いた。

今日の宿はルートイン。夕食は宿近くの店にて,名物のソースカツ丼と,二八そばのセットにした。ソースカツ丼は,やや甘めの味付けで,そのあとでソースの酸味と塩味が追いかけてくる感じだった。カツの揚げ具合がちょうどよく,キャベツとタレの絡んだ白飯が進んだ。

ホテルに戻って,翌日の流れも簡単に計画した。今日もいい旅だった。

(つづく)

Rin Suigetsu

工学研究者(をめざす博士後期課程の大学院生)。専門は電力工学。鉄道を主とした一人旅の見聞録を書いています。国鉄型と凸型の電機が好き。ときどきロードバイクにも乗ります。

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