大学選びにあたって,電気電子情報系に興味があって,「電気電子・情報工学科って何を学ぶの?」「プログラミングって勉強できるの?」という疑問を持っている人は多いと思う。
そこで,電気系の大学院生が,学部時代をふりかえって,「電気電子・情報工学科に入ってで勉強できること」を,自分の経験をもとにしてまとめてみた。
受講した・していない科目も含めて,電気電子・情報工学科の講義を網羅的にまとめたので,参考にしてほしい。
【追記】電気電子情報工学科でのプログラミングについては,以下の記事へまとめました。
電気・電子・情報通信の3分野
〜追記(2021.9.7) まえがき〜
中の人は現在,電気工学専攻の大学院生(修士学生)です.学部時代は,電気電子情報工学科に所属していました.工学部の中でも電気系を選んだ理由は,こちらの記事に書きました.
学部では,電気(特に電力)系の学問に対して,それなりに強い興味を持って,勉強してきました.一方,情報系については……単位を取るのも大変で,選択科目は取らなかったような人間です.したがって電気系科目はしっかり書いたつもりですが,情報系に関連する科目については,情報量少なめです.
プロフィールとか経歴は,こちらのページにまとめてあります.
〜まえがき終わり〜
電気電子・情報工学科は,専門に応じて3分野に分けられることが多い.
- 電気工学分野
- 電子工学分野
- 情報通信分野
情報通信分野については,大学によって電気電子工学科とは別になっていることもある.たとえば,電気電子工学科と情報工学科とか,そういう感じ.
同じ学科とは言えども,この3分野は扱う学問分野が結構違ってくる.まずは各分野について,いったい何を勉強するのか?社会に出ている応用製品の具体例は何か?を書いていく.
電気工学分野
電気工学分野に入ってくるのは,大きな電圧・電流スケールを扱う分野.
後述の電子工学と比較して,「強電」分野とも呼ばれる.
代表的なフレーズは「電力」「パワエレ」「プラズマ」「宇宙」.
一般の人がイメージする「電気」はこの電気工学分野だと思われる.
ちなみに,筆者の卒業研究テーマはこの電気工学分野だ.学科の中ではいちばん工学部っぽい,と筆者は思っている.周りも男ばっかり~な雰囲気だ.
この分野に関連する専門科目をいくつか紹介する.
なお,これらの専門科目は,いずれも学部3年生になってから勉強する.
体験談: 【3年後期】定期試験を終えて思うこと
電気エネルギー伝送工学
いわゆる「電気をつくって送ること」を勉強する科目.
- 電力は発電所からどういうルートをたどって,我々が住んでいる家までやってくるのか.
- その送電・配電ルートにはどのような機器があるのか.
- 送電方式における三相交流とはなにか
- 交流・直流送電,国内における電力周波数の違い
- 電線はどういう材質のものが使われているのか.
- ブラックアウト(大規模停電)が起こる原因はなにか?起こさないためにどうすればいいか?
- 配電に関する理論計算
などを勉強する.
自分は電力に興味があり,この科目は面白かった.
関連記事: 【工学部の学科選び】電気電子系学科へと進学した理由
現代社会の重要なインフラである「電力網」について,網羅的に学習できたのがよかった.頭の上に張り巡らされている(最近は地中化が進んでいるので,足元にもある)電力設備が,どういう構造になっていて,その電力はどこからきているのかが,わかるようになる.
また,電力はすでに完成された技術かと思っていたが,実際にはまだまだ発展の余地があるということがわかった.
電力機器工学
Zureks – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる
モータ(誘導機,同期機,直流機)や変圧器の動作原理・構造について学ぶ科目.
鉄道や自動車が好きなら,面白い・興味がもてる科目.鉄道や電気自動車を動かすのは,結局のところモータなので,その動作原理がわかるのは結構面白い.
また,変圧器については電力分野で欠かせない応用機器.
ただ,試験やレポートでは理論的な計算が中心になる.結局は数学と電磁気,,,みたいなところがあるのも否めない.
パワーエレクトロニクス
電流・電圧をパワー(動力)に変換する技術を学ぶ.世間一般では「電子工作」と呼ばれている内容に近い.
抵抗,コイル,コンデンサ,そしてトランジスタやマイコンなどの素子を組み合わせるだけで
モータを加速減速させたり,LEDを任意のスピードで点滅させたりすることができる.
そのような電気⇔動力の変換を勉強することで,電気回路の奥深さを感じられる科目.
うちの大学では,座学だけでなく,実際にパワエレ回路をつくって実習形式でも勉強した.はんだ付けをしたり,素子をつかってブレッドボード上に回路を組んだり.
他の科目はほとんど座学だったので,この科目がとても面白かったのを覚えている.
鉄道好きならなじみ深い「インバータ」の技術は,この科目で勉強することができる.インバータは交直の変換を行う機器で,鉄道はもちろん家電製品にも使われている.鉄道搭載のインバータについては,以下の記事で解説を試みた.
最近は自動車も電化,電気自動車が普及し,インバータ技術の応用はさらに増えてくると予想される.航空機も電動航空機なるものも開発されている.
電磁波工学
総務省 電波利用ホームページ|周波数割当て|周波数帯ごとの主な用途と電波の特徴
電磁気学からの応用となる電磁波工学では,
- TVやラジオなどへの情報伝達手段となる電波について
- アンテナにはどのような種類があるか?
- 電磁波の周波数帯による情報通信機器の棲み分け
などについて学ぶことができる.
電波は周波数により帯域が分かれていて,
その分類に応じて情報を受信する機器も変わってくる.
(TV,ラジオ,モバイルネットワーク(4G),Bluetoothなど,いずれも周波数が異なっている)
ちなみにうちの大学でこの講義を担当される先生は,宇宙関連の研究をされている.
電子工学分野
電子工学分野は,電気工学分野と比較すると,小さな電圧・電流スケールを扱う分野.
電気工学と対照的に,「弱電」分野とも呼ばれる.
スケールは小さいけれど,高度に情報化した現代社会に欠かせない分野だ.
たとえば,スマホやPCに入っている情報を記憶する場所や,データを高速でやりとりするための光ファイバなどなど.挙げればキリがないが,現在の情報化社会を前に推し進めているのはこの分野.
代表的なフレーズは「半導体」「量子」「電子デバイス」.
うちの大学では,電気工学分野よりも規模が大きく,「花形」なイメージ.賢い人も多い(これは個人的な印象).
この分野に関連する専門科目をいくつか紹介する.
半導体/電子デバイス工学
Eric Gaba, Wikimedia Commons user Sting, CC 表示-継承 4.0, リンクによる
現代では,おそらく全人類がこのデバイスのお世話になっているであろう,電子デバイスおよび半導体工学.
パソコンの頭脳であるCPU,HDDやSSDなどの記憶媒体,LED,インバータ…あらゆる場所において活躍する電子デバイス,およびその材料となる半導体について勉強する.
半導体工学では,まず半導体そのものがどのように動作しているのかを勉強した.エネルギーバンド図,PN接合など,電子がどのように動くかを,量子力学の知識も動員しつつ理解していく.出てくる数式がやや複雑なので,理解するのには時間がかかるが,その分達成感もあった科目.
電子デバイス工学では,その動作原理に重ねて,具体的にどのようなデバイスがあるのかも勉強した.電子デバイスは,成長速度がほかの分野と比べて段違いに速いということを学べた.コンピュータが1秒間に何億回,何兆回もの計算ができるのは,電子デバイスのおかげ.
プラズマ工学
I, Luc Viatour, CC 表示-継承 3.0, リンクによる
固体・液体・気体の物質三態とは,まったく別の物性をもった「第四の物質」とも呼ばれるプラズマ.
プラズマは数万度の高温にもなり,原子・分子が解離して,プラスとマイナスの電荷が等量に保たれた状態.
核融合や電子デバイスの加工,最近では医療にまで使われるプラズマ.その基礎物性について勉強する.
複雑な数式や概念も多く,とっつきにくい科目だったけれど,勉強しておいてよかったと思っている.
(大電流系の研究をしているが,そこでプラズマも扱うことになったから)
詳細は 卒研をする研究室が決まった話 を参照.
一応電子系に分類したけれど,電気工学分野でも扱う可能性がある.
光エレクトロニクス
彭嘉傑 – 投稿者自身による作品, CC 表示 2.5, リンクによる
高校では詳細に学べない「光」にかんするさまざまな知識を学ぶ.
光ファイバや各種計測機器や医療系の器具など,応用はかなり広い.
学科の講義では,光そのものの性質や変調,応用の基本となるレーザー(LASER)の原理などを勉強した.
複雑な数式を解ける力を身に着ける,というよりは,さまざまな知識を取り入れるというイメージ.
情報通信工学分野
大学によっては,電気電子工学科とは独立していることもある情報通信分野.
これは名前の通り,情報をやりとりする通信技術について学び研究できる.
電子工学と同様,現代の情報化社会を前に押し進めている分野.
自動運転や人工知能,画像処理,高速なコンピュータの構造,最近普及してきた5Gに代表される高速通信などなど.
「IT系」というとイメージしやすいだろうか.うちの大学では,プログラミングに代表されるソフト・言語面は,別の学科となっている.電気電子情報工学科で学ぶのは,コンピュータそのものなど,ややハード寄りの分野だ.
ここも電子系と同様,とっても賢い人が多いイメージ(これも個人的な印象).
この分野に関連する専門科目をいくつか紹介する.
制御工学
Morio – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる
ロボットや自動車を思い通りに操る制御技術の基礎を学ぶ.
なにかしらの「システム」に対して,一定の「制御」を加えて,所望の動作「目的」に達するようにする,これが制御工学の目標.
たとえば自動運転を考えると,目の前に十字路がある,この道を右折したい,そのためにハンドルを切る,今どれくらい回ったか,あとどれくらいハンドルを切ればいいか,…右折という目的が完了したかを観測しながら,ハンドル操作という「制御」を加えていく.このようなシステムに対する制御は,身の回りにもさまざま使われている.
実世界の制御のためには,結局数学が必要になってくる.この科目では,制御に必要な数学や信号処理など,基礎の部分がメインになってくる.
信号処理論
ラプラス・フーリエ変換など,信号を変換して処理する理論を学ぶ.
電流や電磁波など,情報をのせる「信号」を,ラプラス変換やフーリエ変換を用いて,解析できる形に分解する技術の基礎がメインになってくる.また,アナログ信号をデジタル信号に変換する「サンプリング」という手法も学ぶ.
高橋 宗史 – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる
身近なところでいうと,CDは,「音」というアナログ信号を,一定のサンプリング周波数(44.1kHz)でディジタル化してデータにしている.
正直,この科目は数学なので,フーリエ変換やラプラス変換がきちんとできなければ成績が出ない.
センシングシステム
赤外線センサーモジュール(Digital Infrared Motion Sensor): センサ一般 秋月電子通商-電子部品・ネット通販
温度や圧力など,信号処理や制御をする前に,そもそもの一次データをどのように計測(センシング)するかを学ぶ.
先に述べた信号処理や制御のためには,まず現状の計測が必要不可欠.
この科目では,その具体的な手法を勉強した.圧力計測に必要な素子の構造や,トイレなどに設置されている自動点灯用の赤外線センサの具体的な仕組みなど.
関連: 乾燥が気になる季節なのでArduinoとDHT11で簡易湿度計づくり
この学科の専門科目にしては珍しくオムニバス的ではあったけれど,さまざまな計測手法が学べて意外と有意義だった.研究にも役立ちそうな内容.
*
他にもいくつか講義がある.
- 情報ネットワーク
- 計算機アーキテクチャ
- 無線通信工学
が,筆者は電気工学の方に興味があり,これら情報系の科目についてはほとんど講義を受けなかった.したがって,詳細には述べることができない.いずれの科目も,情報系の研究をするにあたっては必要不可欠な科目であることは確かだ.
3分野共通で勉強すること
ここまでで,学科内における3分野について具体的に学ぶことを書いてきた.
ここからは,主に低学年時(学部1~2年)に勉強する内容についても書いていく.これらの科目は,選択制ではなくて必修.学科の全員が履修する科目となる.
専門科目を学ぶためには,どのような知識が必要になるのか,参考にしてほしい.
数学・物理(力学/電磁気学):工学部なら全員
まず大学に入って勉強するのは,線形代数学と微分積分学,複素関数論.それに,力学と電磁気学.
これは電気電子工学科のみならず,工学部なら全員が勉強するもの.
いわゆる「全学」科目.
これらの科目は,だいたい学部1年生の時に勉強する.大学によってはこの時期,文系の科目や教養科目の講義もあるので,数学や物理が疎かになってしまいがち.だが,疎かにすると,後々の専門数学や専門科目,そして院試で痛い目を見るので,手を抜かずに勉強しておきたいところ(逆にいえば,文系科目は多少手を抜いても単位があればOK.息抜き程度にやればいいと思う).うちの学科だと,複素関数論のみ必修ではなかった.しかし,電気系であれば回路論で複素数(数Ⅲで勉強する 虚数 i )がバンバン出てくるので,勉強しておいて損はない.
特に電磁気学については,電気電子情報工学科の場合,他学科に比べて深くじっくり3期(1年秋・2年春・2年秋)勉強する.じっくりやるのはもちろん必要性が高く,またあらゆる電気系の科目の基礎になる科目だから.理解度が浅いと簡単に単位が消えるので,頑張らないといけない.4期(2年秋)電磁気の試験は難しかったなあ・・・
専門数学:ベクトル解析,微分方程式
全学科目の微分積分・線形代数とは別に,専門科目として
- ベクトル解析
- フーリエ・ラプラス変換
- 微分方程式
という数学を勉強する.これらは一応学科の専門科目ということになっているが,工学部であればほかの学科でも3つとも勉強するものと思われる.
電気系の学科では,ベクトル解析は電磁気学で,微分方程式・ラプラス変換は回路解析(回路の電圧・電流が時間とともにどう変わるか)で,フーリエ変換は信号処理で必要となる.
数学という学問をするというよりは,数学という「道具」を勉強するといったイメージ.
ものごとを説明するためには言語が必要なのと同じで,電磁気学や電気回路で起こる現象を説明するためには,数学という道具が必要なのだ.微分積分や線形代数の応用になってくるので,これら全学科目の理解はもちろん必要.だから,全学科目は疎かにできないのだ(基本的に大学の勉強は,低学年時からの積み重ね).
大学によっては電磁気学よりもあとでベクトル解析を勉強したりする.先にベクトル解析をやってから電磁気学をやったほうがわかりやすいと思うのだが,,,こればっかりは大学が決めることなのでしょうがない.
回路論:はじめての電気電子工学科らしい講義
1年秋から2年秋までに,4つの「回路」を勉強する.
- 線形回路
- 電気回路
- 電子回路
- 論理回路
「回路」の講義は,電気電子情報工学科特有のもの.
線形回路論がはじめての学科らしい講義になる.
4つの回路論について,以下で簡単に説明しておく.
線形回路
高校で勉強した「抵抗・コイル・コンデンサ」の3素子を基礎とした回路を勉強する.これら3素子は「線形素子」であり,この素子に加える電圧をX倍にすれば,電流もX倍になる.たとえば抵抗素子に電圧を加えるときは,オームの法則V=IRに従って電流も線形に変化する.
非線形素子(たとえばダイオード)は,電圧をX倍にしても必ずしも電流がX倍にはならない.
線形素子を用いた回路について,「回路方程式」という微分方程式を立てて
その方程式を解くことで,回路の電圧・電流の時間変化(すなわち応答)を導き出せるようになるのが目標.
あるいは,「ベクトル図」というツールを用い,電圧電流をベクトルで表す手法も学ぶ.これはコンデンサやコイルをつなぐことで起こる,「電圧や電流の遅れ」を視覚的に表すという優れもの.ベクトル図と対応させて「虚数」も登場する.高校で勉強した虚数 i の使いどころだ.
この科目の履修を通して,電気学科における「常識」を体に叩き込まれる.
慣れないベクトルや微分方程式を駆使して回路応答を導くのは大変だが,これがわからないと電気系にいる資格がないようなものなので,きっちり勉強すべき.
電気回路
線形回路をクリアすると現れる科目.線形回路同様,抵抗・コイル・コンデンサを用いた回路についての勉強.
具体的には,抵抗(R),コイル(L),コンデンサ(C)をいろいろに繋ぎ変えた回路の応答を学ぶ.最初は,回路応答を表す回路方程式(=微分方程式)をそのまま解き,次にその回路方程式をラプラス変換という手法で,普通の代数方程式に変えて解くやり方を学ぶ.
ラプラス変換によって,「ステップ関数」や「インパルス関数」と呼ばれる電圧波形に対する回路の応答がわかるようになる.
後半は,ある程度の距離を持つ回路の応答について学ぶ.電源と素子の間に距離があることで,「時間の遅れ」が生じるようになる(このような回路を「分布定数回路」と呼ぶ).実際に電力を送る場合,発電所から市民の家まではかなりの距離がある.そのような距離がある電気回路において,どのような回路応答がみられるかを勉強する.
使う素子は単純,しかし,回路の応答はさまざま.それを「微分方程式」や「ラプラス変換」という道具を用いて導き出すというのが目標.
この科目はわりとパターンが決まっている.数学ができて,かつ,勉強量を増やせばだいたいいい成績がとれる科目.
電子回路
静特性から分かるトランジスタの特性 | CQ出版社 オンライン・サポート・サイト CQ connect
電気回路では,線形素子(=受動素子)を扱った.一方,電子回路では非線形の素子(=能動素子)を含んだ回路ついて勉強する.また,電気回路が線形回路同様に「微分方程式」から解を求められるのに対し,電子回路工学では主に「グラフ」から解を読み取らなければならない.
非線形素子とはつまり,素子それぞれによって時間応答が異なるもの.したがって,それぞれの素子の特性(電圧に対して電流はどのようになるか?を表す)によって電流が決まってくるのだ.
ダイオードやトランジスタ,オペアンプといった,電気系にいなければまず勉強しないような素子に触れることとなる.
これらの素子は,古くはラジオ,最近では各種電子デバイス(スマホやPC)に使われているものであり,動作を理解することは電気系にとって極めて重要なこととなる.自分は結構苦戦した記憶がある(回路を解くというよりも,覚える素子・パターンが多くてしんどかった).
論理回路
電気回路・電子回路を履修し終えると,少し毛色の違う回路論を勉強する.
それが論理回路.
S. Kaba – 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる
先ほど紹介した電子回路が「アナログ回路」であるのに対し,論理回路とはすなわち「ディジタル回路」.0と1の2つの値のみで,情報を表す回路のことだ.ディジタルとアナログの違いについて,イメージは以下の通り.
- アナログ=音量をポテンショメーター(つまみ)で調節する,任意の位置に合わせられる
- ディジタル=音量をリモコンで調節する,1,2・・・と決められた音量にしかできない(たとえば1.3くらいにはできない)
アナログ=多値,連続的であるのに対して,ディジタルは離散的.
特に論理回路では,0・1の組み合わせのみで情報を示す.
今の世の中にあふれるディジタル情報は,すべて0,1の組み合わせ.コンピュータはその2進数の世界だ(ぼくらが生きている世界は10進数(あるいは16進数,12進数がメイン)の世界).
そのコンピュータを構成しているのが論理回路.つまり,情報通信分野の基本の基本となる回路だ.
AND,OR,NOTを基本として,それらを組み合わていくことで出力を自由に変えることができる.
この科目は,パズル要素が強いイメージ.うちの大学では,実機のロジックICを用いた実習もあり,結構面白かった.情報系はもちろん,電気系においても重要な科目なので,ちゃんと勉強しておくとあとあと役に立つ.
自分で勉強するときに,ネット上に公開されている回路シミュレータなどを使って遊ぶこともできる.
プログラミング:C言語
1年秋から2年春の2期にわたって勉強するプログラミング.
最初は計算機の基本概念やプログラミングとは何か?というところから勉強して,次にC言語の基本を学んでいく.
今は大学でなくてもプログラミングを手軽に学ぶことができ,かつ,C言語以外の高級言語も発達している.
わざわざ「大学で」「C言語を」1年かけて勉強する意義はあるのか?とも思うが,
最近の新しい言語に比べて低級なC言語を勉強することで,コンピュータのなかでどのように言語が動いて,所望の動作をしているのかを,理解しやすくなる.これにより,シミュレーションなどでプログラムを組む機会において,多少はスムーズにプログラムが組めるようになる.
情報系でない電気電子系でもやっておいて損はない科目.
毎週の課題がきつかったが,成績に占める課題のウェイトも大きいので,復習しつつ課題をきっちり出せば割といい成績がもらえる.
関連記事: 大学院生になったけど未だにプログラムが組めない
量子力学:新しい物理の概念
高校までの古典力学とはまったく異なる概念の,新しい物理学.
光を電子銃から放出し,スクリーンに投影すると
電子の量が少ない時は「粒」としてスクリーンに映されるが,電子の量が多くなると「縞模様」が映されることになる.これが電子の二重性.
Dr. Tonomura, CC 表示-継承 3.0, リンクによる
原子核のまわりなどに存在している電子は,実は「波動性(波としての性質)」と「粒子性(粒としての性質)」の二重性をもっているというところから出発して
シュレーディンガー方程式という基礎方程式から,電子の動きを「波動関数」として示すことを目標にする.
古典力学のように答えがひとつになるのではなく,領域内における「確率」として電子の位置があらわされる.これが量子力学特有の概念.
確率なので,観測することができない.その新しい概念をいかに受け入れられるかが,大事.
解析的に解けるのはごく単純なモデルのみ,少し複雑になるとすぐに難しい関数が出てきてしまう.したがって,学部の授業ではあくまでも新しい概念と基礎のモデルのみを勉強する.
先に述べた半導体工学の基礎となっている.
固体電子物性:電子工学の基礎
固体の結晶中を,電子がどのように動くかを勉強する.
量子力学と半導体工学の橋渡しとなる科目.
最初の方は,結晶工学を勉強して,そのあとエネルギーバンド図と呼ばれる半導体工学の基本を勉強する.
結晶工学のところは,高校で勉強した「六方最密構造」とか「面心・体心立方格子」とか,あのあたりのもう少し発展したところ.結晶工学のところは,正直,あまり面白くない.
そのあとのエネルギーバンド図は,半導体の基本となるところで,量子力学の知識を活用していく.
バンド図が理解できると,絶縁体・半導体・導体の違いや,ダイオードの動作原理,さらにはトランジスタなどの動作原理が理解できるようになる.
逆に,この科目がわからないと電子工学における半導体工学や電子デバイス工学の講義についていけなくなる.
新しい単語や複雑で面倒な数式も多いが,数式とはほどほどに付き合いつつ,「バンド図」という図を頭の中でイメージできる力が重要.
電気エネルギー概論:電気工学の基礎
電気工学の基礎となる科目で,主に「電力」に関する基本事項を勉強する.
- 日本の送電方式のメインである三相交流
- 電力供給割合の現状と今後の課題
- エネルギーの基本となる熱力学
エネルギーと電力について,最低限知っておくべき事項が上記3つ.
「これを知らないなんて,電気系じゃないよね~」という科目.
内容自体はそんなに難しくなく,三相交流や熱力学は演習問題などを解いているとすぐにできるようになる.
三相交流や熱力学は,ここでしか勉強しないわりに,専門科目(電気・電子分野)では当たり前のように出てくるのでしっかり勉強しておくと◎.
熱力学については,もう少し深く勉強したかったなあと,今ふりかえってみて思う.
関連記事: 【永遠の疑問】勉強って何のためにするの?に対する答えのようなもの
情報理論・離散数学:情報通信工学の基礎
プログラミングとならんで,情報通信工学の基礎となる2科目.
離散数学では,集合論や整数論などを勉強する.
情報理論では,符号論や確率統計の基礎を勉強する.
情報系の人にとってみれば「常識」となる内容.
自分はあまり好みではなかった・・・やっぱり数学が嫌いなのかも.
数値解析・確率論
プログラミングの講義がおわったあとに勉強する科目.
1期を半分にわけて,数値解析と確率論を学ぶ.
確率論は情報理論や量子力学でも用いられている,意外と重要な概念.
高校で勉強した統計の発展がメインだが,もちろん新しい概念もたくさん登場する.高校ではあくまでも「事象」を1つずつ取り扱ってきたが,大学の確率論では各事象に「実数」を割り当てて,確率を「関数」として考える.これにより確率密度関数という関数が使えるようになり,平均や分散・分布を解析的に扱えるようになる.
数値解析は,これまで勉強してきた微分方程式や線形代数を,コンピュータで解くにはどうすればよいか?ということを勉強する.
数値解析技術 | 基礎的・基盤的技術の研究(Science & Basic Tech.) | JAXA航空技術部門
紙とペンでは解けないような,大きな行列を含む計算や,
コンピュータで計算するとき特有の「誤差と近似」の考え方が学べる.
うちの大学では「scilab」というフリーの数値計算ソフトウェアを使って,プログラムを組んで計算を解いたが,元となる数値解析の考え方についてはほかのプログラム言語でも役に立つ.たとえば数値積分のやり方や,微分方程式,連立方程式の解き方など.
自分は今,研究室でとあるシミュレーション(Fortran)を使っているが,その計算において連立方程式をコンピュータで解く手法が使われている.その手法は,まさにこの数値解析の講義で取り扱った内容.結局のところ,さまざまな物理シミュレーションは,行列計算(=連立方程式)や微分方程式の近似計算なので,それらをコンピュータにどう解かせるかを学ぶのは,電気系に限らずどの分野でも重要.
ここで概念をある程度学んでおくことで,研究室に配属されたときや就職先でシミュ―レーションをつくったり使ったりするときラクになる.
関連記事: 大学院生の授業ってどんな感じなの?【M1前期・電気系】
将来の進路は?
ここまで,電気電子情報工学科にいるときに勉強した内容について書いてきた.
ここからは,学科を卒業したあとの進路について書いていく.
大学院進学がほとんど
電気電子情報工学科に限らず,工学部に所属する学生の大半は大学院に進学する.
うちの大学では9割以上が大学院へ進む.
大学院は,博士前期課程(修士課程)が2年間,そのあと博士後期課程(博士課程)が3年間あり,多くの学生が修士課程2年間で研究をして,修士号を取って会社へ就職する.
修士課程における2年間では,学部4年生で行った卒業研究より突っ込んだ研究をする.
学部4年間で学んだ知識を総動員しつつ,論文や専門書を読んだりして研究を進めていく.電気電子情報工学科の場合,
- 電気工学専攻
- 電子工学専攻
- 情報工学専攻
3つの専攻へわかれてゆき,それぞれに所属することとなる.各専攻には研究室が複数あり,専門分野によって自分がしたい研究を行っている研究室へ進む.自分は電気工学専攻の中でも,電力分野の研究室に所属して研究を行っており,大学院でも同じ研究室で研究を続ける予定だ.
大学(特に工学系)の本分は研究であり,学部の講義はあくまでもその準備にすぎない.大学が面白いのは研究室に配属されてからだと思う.自分は今,その面白さをじかに体験している.学部時代にはまず触れない,何百万円もする機器を使わせていただいたり,規模の大きな電圧電流を発生させる装置を使ったりする.そして何より,誰も答えのわからない課題に取り組んでいくワクワクを味わえる.中学,高校,そして大学の学部の「学問」とはまったく異なる,楽しい研究.それができるのが大学院という場所.
おすすめ: 結局いちばん面白いのは「つくって」「考える」こと
*
ごく少数ながら博士後期課程へ進む人もいる.後期課程まで進むと,プロの研究者を目指すこととなり,かなり険しい道ではある.しかしながら,後期課程を終えると「Ph.D」を取得することができる.これはつまり博士号であり,その道のプロとしての称号的なもの.
昔はPh.D→大学で研究を続ける,というルートがほとんどだったらしいが,最近ではPh.Dを持つ博士人材を採用する企業も増えてきている.したがって,博士課程まで進む人もじわじわと増加しているらしい.
就職は強い:メーカー,IT系,インフラなどなど
修士課程(ごく一部,学部卒,博士課程)を出ると会社に就職する人が大半.
どのような分野の企業に進むのかを見ることで,電気電子情報工学科で何を学べるかがよくわかる.
電気電子情報工学科卒,あるいは電気・電子・情報通信工学専攻を卒業した学生は,
- メーカー(○○電機,○○工業,○○電子,ものづくりをする会社)
- IT・通信系企業(情報通信分野の学生が進むことがほとんど)
- インフラ(電力会社,鉄道会社が多い)
などに進む.
やっぱり工学部なので,「エンジニア」という括りに入る会社が多い.
情報系の場合は,IT系の企業に進む人も多い.
機械系と電気系のいわゆる「機電系」を卒業した学生は
高度に情報化した現在において貴重な人材.
特に修士課程を修了した学生は,文系に比べると就活には苦労しないイメージ(その分研究は大変だが・・・).
なお,就職実績については,大学のHPで見ることができるので,そちらも参考にするといいと思う.
機械工学科との違いは何?
工学部で最初にイメージする学科といえば,電気電子系と機械工学系の2つだと思う.
世間では「機電系」と呼ばれることもある.
よく機械工学と電気電子工学の違いは何か?という問いに遭遇するので,それについても少し書いてみる.
機械工学科で学ぶこと
Morio – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる
機械工学科で勉強することは,ものすごくざっくり書くと「機械そのものを扱う学問」.たとえば動力機械(エンジンやモーター),工作機械(機械をつくる機械),精密機械(時計とかカメラとか)など,それらの特性(力学)や構造を勉強している.
また,機械を形作る「材料」そのものの特性,その材料を取り囲む「流体」の特性も学べる.
具体的な科目でいうと,熱工学・機械力学・流体力学・材料工学の4つが基礎.
流体力学や材料力学,機械力学などの「力学」を詳しく扱えるのが,機械工学の魅力.
また,電気系ではあまり詳しく学べない「熱力学」をちゃんと学ぶ.
「宇宙工学」が同じ学科に入っていることも多い.
JAXAとトヨタ、国際宇宙探査ミッションへの挑戦に合意 | コーポレート | グローバルニュースルーム | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト
逆に,電気系で勉強する回路論やコンピュータハードウェア,半導体や電子工学については深堀りしない.
最後に:電気電子情報工学科に入ってよかった
できるだけ具体的に書こうとしたら,ものすごい長文になってしまった.なるべく数式を使わず,イメージで説明しようとしたので,もしかしたら読みにくいところもあったかもしれない.
(最後まで読んでいただきありがとうございます)
自分は,大学入学前,「再生可能エネルギーを中心とした,環境にやさしい電力技術について勉強したいな~」と思っていた.ただそれだけの理由で,電力分野の勉強ができる電気電子情報工学科を選んだ.
この学科にいると,電力分野はもちろん,電子系や情報系の講義も受けなければ卒業はできない.
電力系を志す自分にとって,電子・情報系の科目が余分だったか?と言われると決してそのようなことはなかった.むしろ,電子情報系も含めて一体的に勉強することで,電気系の科目の理解も深まったと思っている.今,学部3年間で学んだことを振り返ってみると,非常に幅広い知識が身についてよかったと思っている.本当に幅広く学べて,こんなこと大学に入らなかったら学べなかったよな~と思うことが何度もある.
電気電子情報工学科にいると,世の中に出ている
- 様々な電気製品(電気・電子回路を含むすべてのもの)
- 輸送機器(鉄道・電気自動車)
- 電子機器(スマホ・PC)
- 情報通信機器(TV・ラジオ)
- インフラ(光ファイバ,電力送電・配電)
の,基礎のしくみを学ぶことができる.
いま,自分たちが便利な世の中を生きていられるのは,これらの機器のおかげだ.ただ機器やシステムの恩恵を受けるだけでなく,それらのしくみについて学び,さらに研究できると,より面白い人生が送れるのではないだろうか?
知識は力なり.
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