名鉄広見線は,名鉄路線図の一番上側にある路線だ。犬山から新可児を経由して,御嵩まで向かう。新可児から御嵩までの区間は,日中の大半の時間,ワンマン運転がなされている。また,運賃区分は「C」であり,名鉄では数少ない「ローカル線」だ。
この新可児~御嵩間は,名鉄から沿線自治体へ,存続について議論が必要であるとの提案されたらしい。現状では廃止を免れているが,そういう存廃議論が出るほど需要が少ない路線らしい。名鉄といえば,岐名豊の幹線を持ち,犬山や知多半島方面から名古屋市内へのアクセスをも引き受ける「大手私鉄」。それゆえ,廃止するような路線なんてないのでは?と思っていたが,現実にはそんなことはないようだ。
今回はそんな名鉄広見線の末端区間まで乗車してきた。都心の名鉄線では味わえない「のどかさ」を楽しめる,のんびりしたいい路線だった。
広見線乗車記|犬山→新可児→御嵩
さて,御嵩駅をめざすにあたって,まずは交通局の地下鉄駅で,広見線・御嵩までのきっぷを買った。交通局からは,名鉄へと直通する路線がいくつもある。したがってこのような形で,地下鉄の駅で名鉄直通区間までのきっぷを買うことができる。
広見線の起点・犬山駅までは,名城線(平安通)→上飯田線・名鉄小牧線を乗り継いでいった。こちらについては,前回の記事で紹介した。
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犬山→新可児
犬山からの第一走者は,新可児行き普通列車。3300系2両編成での運転だ。
犬山駅で,各方面(上飯田線・各務原線・犬山線・広見線)の接続がうまくなされているようで,乗り換え時間はわずかだった。300系電車の写真を撮って,ゆっくり歩いてのりかえに行き,3300系の写真を撮ろうとしていたら,出発のベルが鳴った。急いで乗り込むとすぐにドア閉め。というわけで犬山駅に停車する3300系の写真は撮れなかった。
残念だったが,気を取り直して転換クロスシートに落ち着く。犬山からゆっくりと左へカーブしていく列車の車内には,ぽつぽつ乗客がいた。この区間においてはまだ,ローカル線の雰囲気は(内外ともに)感じられない。
列車は富岡前,善師野と停まってゆく。このあたりは,いわゆる郊外の鉄道。車窓には緑が増えてきているが,まだまだ住宅も多い。そして,線路は複線のまま続いている。
善師野を出発すると,住宅よりも緑が増えてくる。その緑の中を3300系は快走。次の西可児までは駅間が長いらしく,車掌さんが車内を巡回していた。この区間(駅間3.7km)には,愛知県・岐阜県の県境をまたぐ愛岐トンネルがあった。このトンネルは,70mほど短いトンネルで,入口から出口が見える。だが,名鉄はそのほとんどが都心あるいは郊外を走る路線ばかり。ゆえに,こんな短いトンネルでも,「おっトンネルだ」とちょっとびっくりする。
愛岐トンネルを抜けると岐阜県に入る。西可児までの駅間は3.7km,昔は善師野-西可児間にいくつか駅があったようだが,すべて廃止されたようだ(参考:名鉄広見線- Wikipedia)。
緑が多かったのは,この両駅間のみ。西可児駅から先の車窓はふたたび市街地に戻った。
可児川駅の対面ホームでは,向かい側のホームで「特急の一般席はここより前です」という,白地に黒文字,縦書きの案内標識を見た。そういえば,新可児行きのミュースカイや特急列車を見かけたことがあった。「新可児」やら「須ヶ口」やら,名鉄についてはまだまだ勉強不足なところがあって,列車の行先と地図が頭の中でつながっていない状態。そういうわけだから,「広見線にも特急があるんだ~」と,このときに改めて実感した。新可児ゆきの特急は,こんなところも走っているのだ。
※新可児始発の特急列車は,2021年9月現在
平日朝:ミュースカイ×2本
土休日朝:特急豊橋ゆき×3本
が運行されている。
参考: 名鉄 駅時刻表|新可児駅
可児川の次は,日本ライン今渡駅。この駅は,駅名のとおり,広見線の中で木曽川にもっとも近い駅だ。
そのあと,数名の乗客を乗せて,終点の新可児駅に到着した。新可児駅に降りると,油臭い独特の匂いを感じられた。自分の地元・愛媛県の三島や川之江あたりで感じるのと同じ匂いだ。
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これ多分,近くに工場があるんだろうな~と思ってあたりを見回すと,大きな煙突が見えた。やはり,あの工場からの匂いだろうか。
新可児駅に到着した3300系は,すぐに折り返す模様。
新可児⇔広見間は,毎時4本の列車が運行されている。毎時4本といえば,15分に1本。少ないとはいえ特急列車も残っている。ここまでの区間は,まだまだ郊外を力強く走る路線だ。
そんなことを考えながら,折り返していった3300系を見送り,広見線末端区間の方へのりかえに向かった。
広見線末端区間|新可児→御嵩
広見線末端区間は,毎時2本の普通列車が走っている。新可児までは毎時4本,このうち2本は末端区間の列車と接続されている。しかし,この日はタイミング悪く,御嵩ゆきの列車に接続がない列車に乗ってきたようだった。
まあ,毎時2本あるだけいいか~と思って,御嵩方面のホームへ向かう。御嵩方面の列車が出発する1番ホームへの入口には,のりかえ改札口が設置されていた。地下鉄駅で買った紙のきっぷを通して,ホームへと入った。ちなみに,ICカードで乗車してきた場合,ここの窓口(有人)で精算が必要なようだ。
1番ホームは,2番・3番と比べると短い。この短いホームは,これから先の区間が「ローカル区間」であることを示唆しているようだった。
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ホームで10分と少々待っていたら,犬山方面の列車と同時に,御嵩方面からの6000系がゆっくりと入線してきた。前面の窓に「ワンマン」の標識を掲出している。広見線末端区間の普通列車は,日中の大半においてワンマン運転されている。
すべての列車が新可児⇔御嵩間のみで運行される。折り返し時間も短いようで,運転士の手間を省くため,行先表示器には「普通」のみ掲出されていた。行先表示は,前面の貫通扉に「新可児⇔御嵩」の白いサボのみ。これはこれで味があっていい。
到着した電車からは,数名の乗客が降りてきた。北海道や四国の超ローカル線とは異なり,沿線に住宅地がある。そのため,完全な空気輸送になることは,案外少ないのかもしれない(平日のようすはわからないが)。それでも存廃議論が出るのだから,鉄道って難しい。
これらの乗客と入れ替わるように,車内へと入る。自分のほかに,子どもとおばあちゃんの2人組,それに地元の利用客と思しき男性2名が乗り込んだ。この5名のみを乗せて,6000系(6013F)2両編成は御嵩方面へと出発。
新可児を出ると,6000系の唸るようなモータ音が響く。次の駅は明智駅だ。この駅は,末端区間で唯一,交換できる複線構造だった。明智といえば,同音同字の明智駅が,同じ岐阜県の明知鉄道にもある(たぶん関連はない)。
この明智駅で,男性客2人が降りて行った。車内は自分と,おばあちゃんと孫の2人連れだけになった。まさにガラガラ状態。
6000系は,そのあともゴトンゴトンと小気味いいジョイント音を立てて走ってゆく。車窓にはところどころ開けたところもあるが,おおむね住宅街やその付近が多かった。単線であることを除けば,どこにでもありそうな列車の車窓だった。ただ,車内に乗客がいないだけ。モータリゼーションのあおりを受けた典型例を,今まさに味わっているような,そんな気分だった。
列車はそのあと,顔戸,御嵩口と停まった。特に乗客はなく,終点の御嵩駅に入線。ここまでずっと単線で,御嵩駅も行き止まりの単線だった。停車した左側に寂しくホームがあるのみ。折り返しの列車には,そのホームで待っていた乗客数名が乗って来た。
そのあと6000系は,またすぐに新可児へと折り返していった。一瞬だけにぎやかになった御嵩駅は,静かな雰囲気に戻った。
広見線の終着駅・御嵩駅周辺を散策
御嵩駅の中には,無人だが自動の券売機(きっぷうりば)が設置されていた。利用客はそんなに多くない様子だが,名鉄は最低限の設備を整えているようだ。
写真に写っているように,駅の中には観光案内所があった。しかし,コロナの影響で対面での観光案内は休止中だった。ここのシャッターがオープンしていたら,もうちょっとだけ明るい雰囲気だっただろうな。
駅舎自体は立派なもの。多少の雨風ならしのげそうな造り。駅横には,駐車場,駐輪場,タクシーのりば・ふれあいバス乗り場が併設。地元客や観光客が不自由なく使えるようになっている。
次の電車までは時間もあったし,今日は特に用事もないので,駅周辺をぶらぶら歩いた。こうやって,知らない駅の周辺をぶらつくのが好きだ。
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御嵩駅は,中山道「御嶽宿」に近いところにある。駅前から西へと伸びる道路は,まさに中山道そのものだ。左側には,本陣や脇本陣がずらりと並んでいた。残念ながら,中山道関連の施設(中山道みたけ館)はコロナの影響で休館中だった。
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ちなみに「御嶽宿」の「嶽」の字は,町名の「御嵩町」の「嵩」の字とは違っている。宿場町は,御嶽山や御嶽海(力士)の「嶽」の字だ。”みたけ”と聞くと,こちらの字の方が先に思い浮かぶのではないだろうか。逆に,町名の「嵩」の字は,なかなか読むのが難しい(自分は,今日こちらに来るまで「みかさ?」かとも思っていた)。
御嵩駅は,ちょうどこの中山道の突き当りに位置している。この中山道御嶽宿の北側に,R21の旧道,南側にR21バイパスが走っている。御嶽宿から,R21旧道,R21バイパスの方へと足を伸ばしてみた。いずれも,交通量が多く,このあたりの移動手段は,その大半が自家用車であることが感じられた。
町役場や交番,消防署,学校などの公共施設は,旧道側の方へ集中していた。可児川を挟んで南側を走るバイパスは,どちらかといえば御嵩町を「通過」して,さらに先へと向かう役割を担っているようだった。
旧道から御嵩駅,さらにバイパスの方へは,「ふれあいバス」というバス路線があるようだった。日中,2時間に1本ほど運行されているらしい。また,複数の路線があり,デマンドバスもあるようだった。
名鉄御嵩駅バス停のようすを撮影。
バスが来る時間ではなかったためか,バス停の待ち客は猫数匹だった。
いろんな模様の猫ちゃんがくつろいでいた。かわいい。
バス停の隣には,タクシー乗り場もあるが,乗客は少ないみたい。運ちゃんは窓を全開にして,タクシーの中で昼寝をしていた。タクシー乗り場の裏にいた黒猫も,眠たそうだ。
せっかく来たので,御嵩町内で食事を食べて帰ることにした。が,コロナの影響で町内の飲食店は軒並み休業中。名古屋市内の飲食店はそれなりに開いているのに,こちらはほとんどが閉まっていた(個人の飲食店は,開けるより休業で補償金をもらう方が経営には良いのだろうか?)
残念だけど,バイパス横にあったファミリーマートまで足を運んで,ようやく昼メシにありつけた。新商品の豚キムチうどんを食べた。これじゃあ,研究室の昼メシと何ら変わらない。拍子抜けしたが,まあ,こんな状況だから仕方がない。次来たときは,町内(町役場近く)のレストランで昼メシを食べたい。
広見線→犬山線(上小田井)→鶴舞線で帰宅
帰りは,まず御嵩駅で地下鉄最寄り駅までのきっぷを買った。地下鉄線へ直通するきっぷを御嵩から買うと,上小田井経由のものが発券された。最初の方で紹介したように,御嵩へ来るときは上飯田線経由で来た。この辺,どういう設定になっているのかよくわからない。まあ,行きと帰りで違う路線を楽しめるのでよしとする。
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広見線|御嵩→新可児→犬山
御嵩駅に停車中の6000系。6013Fだった。行きも帰りも同じ編成。1日中同じ編成がこの末端区間を往復しているのだろう。
行きとは違って,新可児までに数名がポツポツ乗って来た。土休日なので,犬山・名古屋へと遊びに出かける人もいるだろう。
新可児からは,セントレアゆきの「普通」が接続する。セントレアまで「普通」で運転すると相当な時間がかかりそうだが,そこは名鉄。犬山から得意の種別変更で,「準急」に変わる。名古屋近辺でよく見る「準急 中部国際空港行き」となるわけだ。車両は6000系の後継である通勤型3500系。6000系とは異なり,VVVF車。
隣には,可児駅を出発するJR太多線キハ25系が写りこんでいる(あえて構図に入れた)。さっき新可児にやってきたときも,隣の可児駅からキハ75形が出発していった。おそらく,JR太多線は,この新可児から(へ)ののりかえを考慮したダイヤが組まれているのだろう。
ワンハンドルマスコンをさばく運転士によって,3500系は快調に走ってゆく。さっきまでの末端区間とは,スピード感が違う。
犬山で種別変更|普通→準急
3500系は,犬山に到着した。ここで,車内の乗客のほとんどが下車した。おそらく,犬山に用事があるか,岐阜・名古屋方面への優等列車に乗り換えるのだと思われる。
さて,犬山出発まで少し時間があるので,列車の前面まで移動してみた。すると,いつのまにか種別表示の幕が「準急」に変わっていた。3500系が準急の顔をしていた。普通の幕のときは普通の顔に見えるのだから,不思議だ(これはJR東海の373系とかでも起こる現象)。
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ちなみに広見線出発ホームには,最新型の9100系が停まっていた。普通 新可児ゆきの表示なので,これから広見線へと向かうのだろう。最新型の編成が投入されていることも,犬山⇔新可児間がそれなりの需要を抱えていることを示している。
準急に変わった3500系は,犬山線経由名古屋方面への特急の出発を待ってから,上小田井方面へと出発した。せっかくなので,運転席後ろのかぶりつき「ミニ」ロングシートに座って,前面展望を楽しんだ。
準急ということで,岩倉までは各駅に停まり,そのあと数駅飛ばしつつ上小田井まで向かった。といっても,上小田井までだと通過駅は2駅のみ(大山寺,徳重・名古屋芸大)。豚キムチうどんでお腹いっぱいの状態で,単調な犬山線を走る3500系の前面展望は,強い眠気を誘う。
上小田井からN3000形に乗車!
上小田井にて,名古屋市営地下鉄鶴舞線にのりかえ。犬山線から直接,鶴舞線(赤池,豊田市方面)へと乗り入れる列車もあるはずだけど,今回の3500系はセントレア(名古屋本線方面)へ行ってしまうので,いったん下車する必要があった。
上小田井駅の駅名標には,名古屋市交通局鶴舞線のマーク・ナンバリングと,名鉄犬山線のナンバリングが併記されている。
自宅までの最終走者は,犬山線内で準急を追いかけてきた豊田市ゆきの名市交N3000形電車。おそらく,岩倉か西春あたりからやってきたのだろう。
鶴舞線はあまり利用頻度が高くない。それゆえ,最新型のN3000形にも乗れずにいたが,今回ようやく乗車することができた。
車内はまだ新車の匂いがした。ロングシートは座り心地のいい座面形状だった。制御機器は,東洋IGBT。東洋のVVVFは,好きな音なので聴きごたえがある。スマホで走行音を2区間ほど録音してみた。いい音だなあ…
東洋のIGBTを積んだ車両といえば,JR四国の8600系,JR東日本のE129系などが思い浮かぶ。いずれも好きな音を奏でる電車だから,また乗りに行きたい。
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まとめ:乗って残そう広見線
以上,名鉄広見線の乗車記。
ネット上での評判通り,広見線は車内ガラガラのローカル線だった。存廃議論の行く末が案じられるが,今のところ毎時2本は運転されている。地元の乗降客も,少ないがいらっしゃるようだった。平日なら,地元の学生の利用もあるだろう。
利用客が減る→運行会社が本数を減らす→利便性が低下してますます利用客が減る→・・・という悪循環に陥らないためには,地元客あるいは観光客が「乗って残す」しかない。乗客が横ばい程度で維持できれば,名鉄がすぐに「廃止」を突き付けることはないだろう。
広見線は,とてものどかで,そしてあまり長くない。ぶらっと乗りに行くのにでちょうどいい路線だった。今度もまた,名古屋から日帰りで乗りに行って,そして御嵩町内のレストランで昼飯リベンジを果たしに行こう。あと,駅前の猫ちゃんたちにも挨拶をしに行かないと…!