博士進学のためにやることといえば,基本的には「研究」なんですが
それ以外に,生きていくために必要な手続きや申請もあります。
そこで本記事では,修士学生(M1)が博士課程進学を決めてから,取り組んでいることについてまとめておきます。
そもそもの進学を決めた理由などについては
>>【D進】研究職に憧れと適性を感じて博士進学を決めた話
博士課程進学を決めてからやっていること
M1の学生が,博士課程進学を考え始めて,あるいは決めてから,主にやっていることは以下の5つです。
- 進学後の支援プログラムへの申請
- 研究
- 見劣りしない実績作り
- 個人ホームページの作成
- 民間奨学金・助成金の調査
順番に説明していきます。
経済支援プログラムへの申請
修士課程までの私は,金銭的援助として,実家にいる両親に下宿の家賃を払ってもらっていました。また,親の扶養にも入っており,保険料・税金を支払う必要がありませんでした。
一方,博士課程からは,実家からの援助は受けずにやっていくことにしました(これは,修士課程に進む前から決めていました)。理由はいろいろありますが,1) そもそも両親も経済的に厳しいこと,2) 博士課程は「学生」ではなく「半・社会人」であり,金銭的に自立すべきだと考えていること,などが主なところです(実際,Web上で博士学生の体験談を読んでみると,修士→博士と直接進学する学生の多くが,独立生計でやっていることがわかります)。
したがって,博士課程が生きていくためには何よりもまず,何らかの形で,生計を立てるための金銭援助を受ける必要があるわけです。博士学生は,基本的に学位をとるための活動に忙しいので,バイトする時間はほとんどありません。そうするとJASSOなど,奨学金の受給が必要ですが,すでに学部1-3年で返還が必要なJASSOの貸与型奨学金を借りたため,これに加えて博士課程の3年間でまた借金をするのは,将来に相当な負担となります。
それゆえ,独立生計のための金銭を獲得する第1選択は,学振をはじめとした「給料(あるいは雑所得)として支給される返還不要の奨学金・研究奨励金」を受け取れるプログラムへの応募となります。
学振DC1への申請(予定)
こういうプログラムとしてもっとも有名なのが,日本学術振興会(Japan Society for the Promotion of Science: JSPS)の特別研究員(DC1・DC2)です。いわゆる「学振」ってやつです。
詳しいことはWeb上で検索すればいろいろ出てくるのでそちらへ譲りますが,ザックリ書くと,本プログラムに研究員として採用されれば,博士課程にいる間,月額20万円(給与相当)+年間150万円以内の研究費を,国から受け取ることができます。
参考:募集要項(PD・DC2・DC1)|特別研究員|日本学術振興会
ちなみに,本制度が始まった数十年前から,この月額20万円というのは変わっていないようです。月額の多寡については,
- 20万円もあれば十分生きていける(ただし,東京をはじめとする首都圏では,家賃が高いので必ずしも生きていけるわけではなさそう)
- 修士卒の初任給(だいたい20数万)より少ないのはおかしい(しかも,授業料が免除にならないケースも・・・)
といった具合で,賛否両論あるようです。ここについては,個々人でかなり変わってくるかと思うので,また別の記事で考えてみようと思います。
(2020年までは,本制度が,博士課程進学時の金銭受給としての第1選択であったので,「国からの博士支援は月額20万円」が”標準”になっているような気がします。)
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この学振のうち,修士学生が進学前に申請するのが「DC1」という区分です。私も,もちろん,この区分での採用を目指して応募する予定ですが,これが第1選択ではありません。
次世代研究者挑戦的研究プログラムへの申請
なぜなら,博士学生を支援する国のプログラムが,学振以外にも拡充されたからです。具体的には,
という,2つのプログラム(事業)が新たに始まりました。これは,2021年から始まったもので,学振一択だった博士支援に,実質的に2つの選択肢が加わった形となります。
ちなみに前者は,文部科学省の,後者は科学技術振興機構(Japan Science and Technology Agency:JST)のプログラムです。なお,JSTは文科省所管の競争的資金配分機関であるので,いずれのプログラムも,実質的に文科省(すなわち国)の博士支援プログラムだといえます。
これらのプログラムは,学振とは異なり,「国の認めた大学が学生を審査・採用し,奨励金を支給する」プログラムです(国の認めた,という点が本プログラムの肝で,大学によって採用人数に大きな偏りが生じています。残酷ですが,大学[院]の実力が,採用枠という数値として如実に反映されているのです。。)
幸いなことに,私の所属する大学は,これら2つのプログラムのいずれにも採用され,相当な人数の支援枠が設けられていました。おかげで,第1回募集における倍率は2倍未満(1.5倍くらい?)と,学振の倍率(5倍)に比べると相当低い水準に落ち着いていました。
支援額も,月額18万円+α+研究費であり,学振にこそ見劣れど,生きていくのにはなんとか足りそうな額です。
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そこで私は,まず,募集分野と研究分野が近かった,JSTの「次世代研究者挑戦的プログラム」に相当する学内のプログラムへ申請することにしました。
申請書類は,基本的に「学振」のものと同じで,締め切りは「学振」より3カ月早い2月中旬でした。国際学会の準備と並行して,この書類をつくり,なんとか締め切りまでに提出しました。書類の作成にあたっては,助教の先生が学生時代に作成・採用された申請書や,学振本として有名な大上先生の以下の書籍などを参考にしました。
現在は,応募書類の提出を終えて,4月中旬の結果発表を待っているところです。採用されれば,「学振への応募」という義務が発生するようなので,この申請書をベースとして学振用の申請書をつくり,応募しようと考えています。
【2022.4.15追記】「JST次世代」1回目の募集では,採用から漏れてしまいました….
民間奨学金・研究助成の調査
上のプログラム群のいずれかに採用されれば,月額20万円(あるいは18万円)の生活費が確保できます。
自分は,これに加えて,博士課程の3年間のうち単年でもいいので,受給できる民間奨学金・研究助成を調査しています。やっぱり,お金は少しでも多くあった方が安心できるからです。あと,実験の機材を自分で買っていきたいというのもあります。
民間奨学金については,大学のポータルサイトにおいて,エクセル形式でわかりやすくまとめられており,随時更新されています。これを定期的にチェックして,いつの時期に・どういう書類をもって・どういう応募形式で・併給可不可 をそれぞれの奨学金ごとに,OneNoteにまとめていっています。
研究助成については,電気系だとパワーアカデミーや東電記念財団あたりが,学生でも応募しやすいと考え,このあたりの調査も進めています。
研究
次いでやっていることは,研究です。
これは次項(実績作り)にも関わってくるところですが,
私は,博士課程進学後も,今の研究室において,修士の研究テーマに引き続き取り組む予定です。そのため,「博士課程」の実績として,修士課程(博士前期課程)における実績を含めてもよいことになります。
したがって,修士課程の間から,コツコツと研究業績を積み上げていくことが,博士課程の年限内修了(博士号取得)に重要だと考えられます。この考えの下,今のうちからコツコツと研究を進めています。
現在の研究テーマにおいて,おおまかに2つのテーマがありますが,それら2つとも順調に進んでいます。
見劣りしない実績作り
博士号をとるためには,研究成果を外部へと発表することが求められます。具体的な博士号取得のための明確な要件は,学術論文の本数によって定められていることが多いようです。たとえば弊研究科では,「学術論文2本以上+博士論文」が,博士号取得の最低条件となっています。
なお,学術論文は英語での執筆が基本なので,それのベースとして,学生の間に国際会議へと登壇し,ProceedingsやConference paperを投稿することが慣例となっているようです。
この「Proceedings投稿→国際会議登壇→学術論文執筆」という一連の流れを数サイクル繰り返して,見劣りしない実績を作り,博士論文執筆に耐えうるロジックをもった研究成果を数個まとめあげるのが博士号取得のためには必要だと思われます。
先に述べたように,修士の研究成果を博士へと引き継げることがわかっているので,博士進学を決めた段階で,修士の間に国際会議で発表し,学術論文を1報以上書き上げ,実績の一端をつくっていくことにしました。
国際会議への登壇(オンライン)
まず,国際会議ですが,これは,D進を決める前に助教の先生と(ざっくりとですが)M1の終わりあたりに発表しようみたいなことを話しあっていました。これは,B4の終わりからM1のはじめにかけての研究において,ある程度まとまりのいい成果が上がったためです。
関連記事①: GW明けの先生との雑談~M1の終わりに国際会議?~
国際会議へのProceedings投稿および当日までのようすについては,以下の記事にまとめました。国際会議は3月中旬に行われ,これに参加することができたので,M1の間に1件の国際会議口頭発表の実績を得ることができました。
関連記事②: 修士で初めて国際学会に参加してきた|オーラル発表と質疑の感想など
査読付き論文誌へ投稿する論文の執筆
そんなふうにして国際会議へと投稿するProceedingsをつくったわけですが,
11月ごろのミーティングにおいて,教授から「この成果を学術論文としてまとめていきましょう。」と提案されました。
たしかに,成果としてはよくまとまっていたし,Proceedingsとしてまとめたことで,英語でのロジックもざっくりと成立していました。ただ,いきなり言われたので少々面喰った自分は「いつごろまでに投稿すべきでしょうか…?」と伺いました。そしたら「年内には書き上げて,投稿したい」とのこと。
年内,というと,あと1か月少々しかない。これまたびっくり。このとき教授は,自分が博士課程へ進学したいということを念頭に置かれていたのでは,と推測しています。少しでも早く書き上げ,査読プロセスに載せることで,Accept時期を学振の申請前に収めようとしていたのではないでしょうか。。。
これに対して,返答はあいまいなまま終了しましたが,とりあえず助教の先生と相談して,ゆっくりと論文をまとめ始めました。ただし,まとめ始めたのは,修士の中間発表が終わった12月中旬ごろでした。これでは,教授の提案された12月(年内)には到底間に合いません。。。が,とりあえず書き上げることを目標に,ボツボツ進めました。
年末年始に実家へ帰省しているときにも,リモートで研究室のPCにつないで執筆を進めていました。帰省中に論文を書くのは悪魔的な所業でしたが,あまりにも暇だったのでまあよしとして,やりました。
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結局,論文の第1稿は1月中旬ごろに完成しました。それから助教の先生と何度か原稿をやりとりしました。このままのペースでいけば,2月には論文が完成できそうでしたが・・・2月にはJST次世代の申請書作成と国際会議のスライド作成が入り,とても論文には手が回せませんでした(助教の先生も,私のあまりの過密スケジュールを憂慮したうえで,論文のやりとりをストップしてくれました)。
関連記事: 1月が行っても,2月が逃げても,僕は論文から逃げない
3月に入ってから論文の仕上げをし,そのあとなんやかんやで3月下旬に教授に完成版を手渡しました。納期から3カ月近く遅れましたが,まあM1の間に完成させたのでいいかなと。。。
今は教授のチェック待ちですが,終われば査読プロセスに載せて,結果を待ちます(Acceptされて欲しいなあ)。
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以上のようにして,修士のうちから,学振の申請時・博士進学後に見劣りしない実績作りに取り組んでいます。
個人ホームページの作成
本項は,前項までとは毛色が異なりますが…
業績や研究分野をまとめる「個人ページ」を作成しました。
個人ページ作成の目的は,JST次世代あるいは学振の申請において,業績一覧に容易にアクセスできるようにすること,そして「研究成果のアウトリーチ活動」のベースとしてアピールするためです。個人ページの作成は,先に紹介した学振本においても,推奨事項として紹介されていました。
博士課程およびその後の,個人ページの目標は,自分の「研究者」としての業績を網羅的にまとめておき,このページを「名刺代わり」にして,仕事で関わるひとにアクセスしてもらうことです。
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立ち上げにあたって,サーバはロリポップ(ライトプラン 詳細はこちら)にてレンタルし,独自ドメインはムームードメイン にて取得しました。
コンテンツ本体は,HTML/CSS/JavaScriptを勉強し直して,イチから作成するか迷いましたが,
これらを勉強することが目的ではなく,2月のJST次世代申請・5月の学振申請において,業績をアピールすることが当面の目的だったので,このブログの更新で使い慣れているWordpressに,有料テーマをインストールしてページを作成することにしました。
有料テーマとしては,できるだけシンプルなページがいいと考え,ふだんから愛読しているブログである「オニマガ(onimaga.jp)」のオニマガさんが作成された,Flora deuxを採用しました。
WordPressをサーバ上へインストールし,有料テーマを有効化したら,各種設定を済ませ
とりあえずは,
- Top page
- Profile
- Contact
- Link
の4ページをつくりました。まだコンテンツ量は少ないですが,とりあえず見栄えのするページが完成しました。学部時代からブログを始めておいてよかったな…と今頃になって思います。何事もやっておいて損はないですね。
今後,業績がまとまってきたら,教授に許可を得たのち,この個人ページにおいて,成果を紹介していこうと思います。
まとめ:情報収集をする・早めに動く
以上が,修士学生が博士進学を決めてからやっていることです。
一連の行動にあたっては,情報収集を怠らず,早め早めの行動を心掛けることが,変なミスをしたり損をしたりしないために大事だと考えます。
特に博士学生は,母数が少ないため,情報量も多くありません。自分から積極的に動いていきたいですね。
(おわり)
関連記事①:研究を2年やってわかったこと
「研究はこんなに面白いのに,どうしてみんな就職したがるんだろう…?」と思うのは,意外と少数派であることがわかりました。