383系には,前面展望を楽しめるパノラマグリーンが付いている。
名古屋に来て,383系が好きになって,いつかこのグリーン車に乗りたい!とずっと思ってきた。そして,大学院生になってようやく,その機会をつくることができた。社会人になる前に,名古屋にいる間に乗っておきたい!今乗らなかったら後悔するに違いにない!そう思ったのがきっかけだった。
さて,今回はこのグリーン車を,名古屋から長野まで全区間乗りとおした。先頭(1D)の座席は,期待通り,いや期待以上に楽しかった。もちろんグリーン券は高かった(4,190円)けれど,これだけ良いことづくめなら,全然支払っていい金額だ。
- 振り子動作を楽しめる
- 運転士の動作を間近で見られる
- 圧倒的なスピード感を味わえる
- グリーン車ならではの「静けさ」の中でくつろげる
今回はそんな「人生初」の特急列車グリーン車乗車記を綴っていく。
特急「しなの」パノラマグリーン車
特急しなの号は,名古屋と松本・長野間をむすぶ中央西線の特急列車だ。
2021年現在,JR東海の383系特急型電車で運行されている。この車両には振り子装置が搭載されていて,カーブの多い中央西線を,車体を傾けながら高速通過できる。
編成は6-10両編成で,先頭車はパノラマグリーンとなっている。
名古屋駅から出発
全区間乗車のはじまりは,JR東海・中央線名古屋駅。
特急「しなの」号の多くは,10番・11番線で発着する。また,長野方面の下り列車は,日中では毎正時発となっている。今回は,16時ちょうどに発車する「しなの」に乗車する。座席は,普通車ではなく・・・憧れだった「パノラマグリーン」!この土日はヒマだったので,券売機でパノラマグリーンの先頭座席(1A~1D)のうち2列とも空いている下り「しなの」を探した。そしたら,16時ちょうど発の列車に,先頭座席の空きがあったのだ。
1019M
特急(ワイドビュー)しなの19号長野行
名古屋1600=長野1858
クロ383-3
実は,今回が人生初の特急グリーン車乗車となる。首都圏を走る普通列車グリーン車には乗ったことがあるけれど,特急列車の(本格的な)グリーン車ははじめて。
名古屋=長野間のグリーン料金4,190円は,3時間弱の乗車には,正直いうと高額だ(いざお金を払うとき,だれも並んでいない券売機で大いに逡巡した)。これが普通のグリーン車だったら払わないだろう。
でも,「しなの」のパノラマグリーン,しかも先頭車の景色が料金に含まれていると考えれば,決して割高ではない。あと,名古屋にいる間に,大好きな383系の一番いい座席に乗っておきたかった,という気持ちがあった。社会人になったら,もしかしたら名古屋にいないかもしれない。乗れるものには乗れるうちに乗っておく主義だ。
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真夏の熱風がダラダラと吹いてくる名古屋駅在来線ホーム。ベルマートにて,アイスコーヒーとお菓子を買って,まずは写真を撮影。グリーン車は,もちろん先頭1号車。このデカいグリーン車のマークを目の前にすると,なんだか背筋が伸びる。
車両形式名は「クロ383-3」。いよいよ「ロ」に乗るんだな~と,気持ちが昂る。
383系グリーン車の座席
1号車デッキに入ると,グリーン車マークのついた扉が出迎えてくれる。奥の方に,先頭の窓ガラスから差し込む光と,名古屋駅構内の複雑な配線が見える。これから,一番前の席に行くんだ!そう思うと興奮する。
さて,車内に入るとこんな感じ・・・といいたいところだが
出発前に座席の写真を撮っていなかったので,中津川駅停車中に撮った写真を載せる。
383のグリーン車は,2×2の座席配置。普通車と明確に差別化されているのは,床がカーペットであることと,座席が少々分厚い造りになっていること,シートピッチにゆとりがあること。加えて,この車両に限らないが,普通車よりも静粛性が高い。これは,乗客定員が少ないことと,床下にモータを積んでいないことによる。あとは,客層が(それなりに)お金を払ってもいい客層であることも理由として挙げられるかな。
座席の座り心地はもちろん普通車よりはいい。しかし・・・383系の場合は,先頭座席以外だったら,普通車でもそんなに変わらないのかなという気もした。この理由として,383系自体の製造年が古く,車内設備の陳腐化が進んでいること,2×2の座席配置であることが挙げられる。先頭の座席でないならば,4000円以上支払って乗る意義は・・・正直いうと見いだせない。
しかし,今回は先頭座席。ここからの眺めは,この列車のどの座席よりも良い。特に,先頭右側の1Cおよび1D席は,運転士による視界の遮りもない(今回は1D席)。これなら,4000円以上支払ってもお釣りが来るくらいだ。
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というわけで,以下にその様子を紹介してゆく。
大迫力の振り子動作を最前面で楽しむ
名古屋駅を出発すると,すぐにワイドビューチャイムが鳴動する。自動放送につづいて,男性車掌による車内放送。その放送を聴きながら,大都会名古屋の足元をじっくり眺める。
金山駅を過ぎ,千種を発車すると,堀割区間に入る。
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堀割を過ぎると今度は高架区間になり,矢田川を渡り,続いて庄内川へ向かう。
ここは庄内川橋梁の少し手前。ときどき,ここを走る列車を,左岸堤防から撮影しに行く。外から見るとこんな感じ。結構な上り坂のカーブを走って行くわけだが・・・・この走りを車内から見るとものすごかった。「陳腐化」しているとはいっても,足回りはまだまだ健在だ。
この庄内川橋梁を過ぎると,つづいて勝川駅手前の高速コーナーを通過する。ここでの「しなの」のコーナーリングは,国内を走る特急列車の中でも指折りだ。これを車内から味わうためだけに,多治見あたりまで乗るのもアリ。
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多治見駅から中津川駅の間は,徐々に緑の景色が増えてくる。このあたりはカーブも多いが,「しなの」は直線区間で胸のすくような走りを披露する。
運転士さんのハキハキとした指差喚呼も素晴らしい。
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中津川を出発すると,木曽谷の間を走るようになる。
このあたりはカーブの連続。前面展望に占める緑の割合が高い。
普通の列車だったら,このカーブをえっちらおっちら走るのだろうけど,383系は違う。振り子全開で軽快に走り抜けてゆく。かぶりつきのこの座席からは,振り子動作のようすがよくわかる。普通車の車内で座っているときよりも,その振り子動作を明確に感じられる。傾斜角度は数度だけれど,前の景色を見ているとそれはまるでジェットコースターのよう。でも,走りは安定していて,乗り心地は良い。
右側座席なので,左側に現れる「寝覚の床」はチラッとしか見られない。が,それでも山のなかの景色をじっくり味わえたのでよかった。
塩尻で運転士交代|JR東海・東日本の運転動作の違い
木曽地域を駆け抜けた「しなの」は,2時間ほどで塩尻駅に到着する。
塩尻駅では,JR東海の運転士からJR東日本の運転士に交代した。これより先は,JR東日本の区間。ということで,長野総合運輸区の担当となる。
さて,先頭車の一番前では,景色以外にもうひとつ楽しみがある。それは,運転士の動作を真後ろからじっくり見られるということだ。特に,この特急「しなの」号は,会社境をまたいで運転される。そのため,異なる2つの会社の運転士が,それぞれどういった動作で指差喚呼したり運転したりしているかという違いがよくわかるのだ。
自分は東海地方に住んでいて,JR東海の運転士動作はよくよく見ている。大きな喚呼とともにダイナミックな指差が特徴だ。車内放送も,車掌による個性がなく,文の揺れがすくないように思う。これに対して,今回乗車したJR東日本区間では,以下の3点がJR東海とは異なっていると感じた。
- 塩尻出発時の流しノッチ
- 軽い指差のみ(喚呼なし)
- 車内放送において運転士の苗字が放送されない
まず,1.について。JR東日本の運転士は,塩尻出発時に必ず流しノッチを行う。これは,今回の乗車に限らず,だいたいいつもやっている。たしか,上り列車の長野駅出発時もやっていた。一方,上り列車に塩尻から乗務するJR東海の運転士は,ノッチを入れたらそのまま加速してゆく。この辺は会社によって異なるポイントだ。
次に,2.について。これは最も大きな違いだ。JR東日本の運転士は,指差喚呼の動作が小さい。そもそも喚呼の声がないことが多い。安全のためには大きな声・動作の方がいいのだろうけど,「効率化」「合理化」「省力化」の観点からすると,負荷の小さいJR東日本のような指差喚呼がいいのかもしれない。これは会社によってカラーが出るポイントだ(自分はJR東海の方が好き)。
最後に,車内放送については,その放送を行う車掌の運輸区によって異なるかもしれない。JR東日本の車内放送についてはあまり詳しくないので・・・・あくまでも「今回の乗車では」ということにしておく。
篠ノ井線・姨捨の絶景,長野駅到着
松本を過ぎ,篠ノ井線に入る。一番の見どころは,進行方向右側,日本三大車窓の1つである「姨捨駅付近の車窓」だ。「しなの」にはもう何度も乗ったが,この景色だけは何度みても飽きない。山に囲まれた平野に,バランスよく広がるまち。この大俯瞰こそ,「しなの」号の一番の車窓ではないだろうか。
姨捨の大俯瞰だけは,前面展望だけでなく,側面展望をじっくりと味わった。今回は夕暮れ時の通過だったので,ちょうど空のグラデーションが綺麗だった。
その後篠ノ井線を順調に下り,長野駅には定刻通り到着。名古屋からちょうど3時間。
グリーン車先頭座席での3時間は,あっという間だった。もっと乗車して前面展望を眺めていたかったけど,終点に着いたのだから降りるより仕方がない。
今までいろいろな列車の前面展望をYouTubeで見てきたけれど,やっぱり生の前面展望は素晴らしい。高いお金を払って乗るだけの価値は十分にあったと思う。
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さて,今回は「しなののグリーンに乗ること」が目的だった。移動「手段」であるはずの鉄道それ自体が「目的」になっている!これぞまさに手段と目的のすりかわり,これこそが趣味というものだ。
というわけで,長野に着いたらさっさとホテルにチェックイン。ぶらぶらしていい状況ではないのでね。。。(立派な善光寺口の写真だけは撮っておいた)
ホテルでは,持ってきたノートPCで,講義の課題をやっていた。基礎科目の課題は大変(こんな旅先のホテルでぱぱっとやった課題でも,単位は出たのでOK!)
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帰路は普通車|爆音を満喫
翌朝。ホテルで目覚めた。
特に用事もないし,まちなかをぶらぶらするような状況ではない。なので,始発2本目の「しなの」で名古屋に帰ることにした。みどりの窓口に行って,学割乗車券と特急券を購入。
しなのは7:45に長野駅を出発する。朝ごはんをどうするか迷ったけど,駅に入っているスターバックスがすでに開店していたので,そこでテイクアウトして車内で食べることにした。
なんかよくわからない名前のおいしそうなパン(石窯…なんとか)と,淹れたてアイスコーヒーが入った紙袋を提げて長野駅ホームへ。たしか,ホームへ降りた時点でしなの号が入線していた。
今回は6両編成の先頭6号車自由席に乗車した。
コロナの影響が長期化しており,自由席もガラガラだった。
1004M
特急(ワイドビュー)しなの4号名古屋行
長野0745=千種1044
[クモハ383-8]
パノラマグリーンの景色はバツグンだったけれど,外から見る分には,名古屋側貫通顔の方がいい。シュッとしていてかっこいい。
行きは奮発したけれど,帰りは自由席で十分。【音鉄】的にはむしろ,モータ音が聴けるという点でグリーンよりもモハ車の方がよかったりする。
実際,帰りはこのモハ車で,爆音モータ音を満喫して帰った。
千種駅で下車して,名古屋⇔長野の弾丸鉄道旅は終了。
JR東日本区間における「しなの」の振子動作
そういえば,長野駅(篠ノ井線)ホームの出発方向のとある注意標識が印象に残ったので,ここに貼っておく。
写真左下,小さいプレハブ小屋,運転士から見える位置に「「制御振子」確認」とある。これは,運転士に対して「制御振子」に関して確認を促す標識であることは間違いない。問題は,「制御振子」の機能を「使う」のか「使わない」のか,どちらの確認を促しているのかということだが・・・
昨日パノラマグリーンに乗った感じだと,塩尻から先(すなわち,JR東日本の区間)においても振り子は動作していたようだった。先の動画でも,「姨捨」付近の映像で車窓が上下に浮き沈みしている様子が見て取れる。
ということで,この標識は「制御振子装置が入っているか,出発前に確認してください」と運転士に促す標識だと考えた。おそらく,以前までは振り子を使っていなかったのが,あるタイミングで使うように変更されたのだと思われる。振り子を常に使う(JR東海区間)場合は,こんな標識は見かけない。
しかし,Wikipediaには以下のような記述もある。完全な真相は,素人にはわからない。。。
パンタグラフはシングルアーム式で車体の屋根に直接搭載され[9]、制御付き振子機能の使用は架線の対策がなされた名古屋 – 松本間[注 3]に限られる[10]。
JR東海383系電車 – Wikipedia
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まとめ:グリーン乗るなら1C・1D席がオススメ
以上,特急「しなの」グリーン車乗車記。
今回は人生初の特急列車グリーン車乗車だった。383系のパノラマグリーン(クロ383)は,先頭座席に座ることで前面展望をじっくりと味わうことができる。この前面展望は,鉄道ファンはもちろん,鉄道にあまり興味が無くても面白く,刺激的な景色に違いない。
グリーン車の座席については,普通車とそこまで大きな違いは感じられなかった。パノラマグリーンに乗車するなら,やっぱり先頭の座席,特に進行方向右側の1Cあるいは1D席がいい(進行方向左側の1A・1Bだと,運転士が前に来てしまうので,完全な前面展望は楽しめない)。
ただ,これらの座席は人気も高い。今はコロナ禍ということで手軽に乗ることができるが,旅行需要が戻ると,予約が取りにくくなるだろう。乗車日が決まったらすぐに特急券を座席指定で買っておくことがオススメだ。
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「パノラマ」といえば,名鉄も思い浮かぶ。名鉄の方は数百円払うことで手軽に乗ることができる。
夜の名鉄パノラマsuper展望席に乗車|金山→豊橋【秋の現実逃避旅①】
しかし,やはり何時間もかけて,会社境をまたいで走る「しなの」のパノラマは良かった。名鉄のパノラマカーの10倍くらいのお金は必要だけれど,そのくらいの乗車価値は十分にあった。
今度は,同じJR東海でも新幹線のグリーン車にも乗ってみたい。
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