東海道新幹線(こだま)グリーン車 乗車記|東京→名古屋|夏の東北鉄道旅(番外編)

その実力,如何ほどか。

正規運賃でグリーン車を買って東京へ向かう

「青春18きっぷ」をつかった東北鉄道旅は,5日目をもって終了。翌日は,福島から名古屋まで帰るだけとなった。新幹線をのりついで帰ることはすでに決めていた。ただ,ふつうに帰るのもおもしろくなかった。それに,旅を1日はやく切り上げたことで,予算が余っていた。

そこで,東京から名古屋まで,東海道新幹線のグリーン車にのってみることにした。

まずは,「みどりの窓口」にて,きっぷを買った。福島から名古屋までの学割乗車券,福島から東京までの自由席特急券,そして,東京から名古屋までのグリーン車指定席特急券の3枚だ。

東北新幹線に関しては,「やまびこ」の指定席を買うことを考えたが,土曜日午前中の上り列車ということもあってか,窓側の座席は満席だった。おそらく,福島・大宮・宇都宮あたりから,東京へと遊びにいく需要が高いのだろう。東海道新幹線は,「のぞみ」ではなく「こだま」にした。「こだま」だと,時間は余分にかかるが,グリーン車をじっくり堪能できる。

無事にきっぷを買えたので,福島駅の新幹線ホームへとむかった。11番線に入って来たのは,E5系10両編成「やまびこ132号」だ。ここでしばらく停車し,続行の山形新幹線を待つ。

福島駅で併合相手のE3系を待つE5系「やまびこ132号」。

この間に車両へのりこんだ。1号車自由席はまだ空席があり,3列掛けの窓側へすわれた。

まもなく,後続のE3系「つばさ」が,奥羽本線からのアプローチ線をわたり,「やまびこ」の後ろへ連結した。これで,列車は17両編成となり,「やまびこ・つばさ132号」となった。

E5系+E3系17両編成は,「つばさ」の客扱いを済ませると,すぐに福島駅を出発した。上り列車である当列車が,下り本線をまたいで,上り線へと移る。この間,福島駅下り本線を,列車が通過できない。このようにして,福島駅における山形新幹線と東北新幹線の併結・解決作業は,東北・山形・秋田新幹線のダイヤ作成におけるボトルネックとなっている。ただ,この一連の連結の流れは,現在,福島駅で進行中の山形新幹線上り列車アプローチ線の建設1完了によって解消される見込みだ。

E5系は東北新幹線をぐんぐんと南下し,郡山駅に到着した。福島時点で,自由席には窓側にも空席があったが,この郡山にて,ほぼすべての窓側座席に乗客がすわった。

次いで,宇都宮に到着すると,窓の外には各乗車口で10人以上がならんでいた。これらの乗客が乗車することで,1号車通路側にも多くの乗客が座り,ほとんど満席の状態となった。

当然,私が座っている3人掛けも,すべて埋まった。隣に座っているのは,作業着の男性2人組だった。これから,首都圏で用事があるのだろう。1号車は,E5系ロングノーズの部分にあたるので,車室が小さい。そこがほとんど満席になっている状態だから,かなり混雑感があった。

このように混雑している車内は好きではない。一刻も早く下りたいと思う。ましてや新幹線だ。高いお金を払っているのになぜつらい思いをしなければいけないのか…云々。

しかし,この日は,心の余裕があった。なぜなら,東京からグリーン車に乗って帰ることになっているからだ。このような混雑した車内は,むしろ,典型的な普通車の空間として,グリーン車の比較対象に好適とさえ思えた。

N700S グリーン座席の質の良さ

東京には定刻で到着した。降りたホームで少しばかり写真を撮った。それから東海道新幹線のホームへ向かった。

Most Favorite Shinkansen train (Tokyo sta., 2024 – summer)

キオスクにて,昼食としてサンドウィッチとゼリーを買って,乗車口の前にならんだ。

いつもの自由席であれば,列車到着後にホームの端まで歩いていった先で行列に並び,いい席をとりに車内へ駆けこむところだが,今日はそうではない。すでに座席は確保されている。それに,並んでいるのは8号車の前,人生初のグリーン車だ。

これから乗車する「こだま」には,N700Sが充当されていた。つまり,現時点で最新型の東海道新幹線グリーン車に乗車できるわけだ。

車内清掃が終わると,まもなくドアが開いた。前の乗客につづいて車内に入ると,まだほんのりと新車のにおいがした。

座席にかけて車内をみまわした。「こだま」だから閑散としているのかと思いきや,そうでもなかった。私の窓側の座席の周りには,前,後ろ,左,そして,斜め前にも乗客がいた。ほかのグリーン車の混雑具合を見てはいないが,この列車の8号車に限って言えば,まずまずの乗車率だった。

グリーン車の座席に掛けると,やはり,というか,予想した通り,普通車とは根本的にちがっていた。グリーン車の座席が占める横幅と,背もたれの部分の厚みは,普通車より格段に大きい。それゆえ,座っていて非常にゆとりがある。

それから,床はカーペット敷になっていて,フットレストもついていた。靴を脱いでリラックスできるようにできていた。ひじ掛けは革張りで,触り心地がいい。窓も普通車より大きかった。前後に広い。

このあたりを一通り見終わったところで,列車は東京駅を滑るように出発していった。大きな窓には,大都会の車窓が,普通車よりダイナミックに流れていった。

座席背面のテーブルは,前後にスライドさせて調整できた。テーブルに,キオスクで買ってきた昼食を載せ,これを手前にスライドさせると,食べやすい。

そして,座席背面の網ポケットには,「時代の先端を行く雑誌 Wedge」が入っていた。車内放送でおなじみだが,新幹線で実物をみたのは初めてだった(書店ではみたことがあるし,立ち読みしたこともある)。座席には読書灯も装備されているので,こういった雑誌もずいぶん読みやすい。

以上書いてきたように,グリーン車の座席はやっぱり素晴らしい。これなら,名古屋まで各駅に停まって余分に時間のかかる「こだま」でも,まったく苦にならないだろう。むしろ,もっと座っていたいと思うに違いない。それくらいよくできている座席だった。

ただし,以上書いてきたようなことは,すでに知識として知ってもいた。それゆえ,感心こそすれ,格別の感動というのはなかった。

グリーン車に乗っていちばん味わいたかったのは,座席の質の良さではない。車内の環境と客層だ。

東海道新幹線グリーン車の客層と車内環境

グリーン車に乗っている乗客は,基本的に,普通車より高額の座席券を支払って乗車している。東海道新幹線では,各駅停車の「こだま」でさえ,グリーン車の割引切符のようなものは販売されていない。

すなわち,今回乗車した「こだま」のグリーン車でさえも,普通車とは根本的に客層が異なるといえる。これによって,車内環境がどれくらい違ってくるのか,そのことを観察したかった。

「こだま」は,東京・品川・新横浜を経て,小田原に到着した。この小田原以西では,三河安城にいたるまで,「のぞみ」の停車しない駅に停車してゆく。

とりわけ小田原駅は,「のぞみ」が停まらない駅のなかでは乗客が多いと思われ,実際にグリーン車にも乗車があった。逆に,ここから先,静岡県内の中西部にまで進むと,需要こそあれ,グリーンへの乗客は少なくなると予想された。この列車は名古屋どまりで,静岡県中西部(静岡・浜松)の主要駅からは,終点までさほど時間はかからないからだ。したがって,この小田原出発後くらいからの車内をじっくり観察してみることとした。

まず客層について。8号車の車内にいる大半の乗客は,自身で自腹を切って乗車しているように見えた。なぜそれがわかるのかといえば,彼ら・彼女らは,皆一様に,余裕と落ち着きを持っているように見えたからだ。これは,グリーン車に3,600円近く追加で支払っても,懐に痛みを感じない経済的余裕から出てくるものだと推察された。あるいは,ふだんの生活で培われた,気品のようなものともいえるかもしれない。

こうした客層が中心の車内は,静粛性がとても高かった。始発から終点まで,静かで落ち着いていた。静粛性の要因として,当然,グリーン車の構造(ハード面)に依るところもあるだろう。グリーン車は,カーペット敷きに代表されるように,普通車より走行音や騒音が小さくなるよう造られているはずだ。座席自体も大きいから,周りのようすが気にならず,プライベート感も確保されている。

それでも,このように静かで落ち着いた環境が保たれている一番の要因は,やはり客層であると考えてよい。どれだけハード面がよくできていても(静粛性が保たれるようにつくられていても),がやがやと騒いだり,周りと大きな声で話したりする乗客がいれば,静粛性は保たれないからだ。普通車,特に,混雑した車内だと,どうしても周囲の雑音,さらには気配や動きが気になることがある。グリーン車には,そのようなものがほとんどなかった。

以上のような環境だから,雑誌を読むのも,ボーっとするのも,飲食するのも,落ち着いてできた。退屈するのにも退屈しない,まじめに退屈できる,移動しているのに疲れない,そんな環境だった。

グリーン車がこれだけ快適で落ち着いた環境を保っているのはなぜか。いいかえれば,このような客層を保てているのはなぜか。主たる要因は,グリーン券を安売りしないことにあると考察できる。

東海道新幹線のグリーン券は,東京⇔名古屋間では,特急料金の2倍弱のお金を払わないと買えない(正規運賃の場合)。いっぽうで,この値段より割安になるきっぷは,基本的に設定されていない2。このように,東海道新幹線のグリーン券は,安易に投げ売りされない。このことが,グリーン車の客層,ひいては,静粛で落ち着いた環境を保っているのだろう。

あとがき

N700S「こだま」は名古屋駅に定刻で到着した。名古屋までの2時間半は,非常に有意義で勉強になった時間だった。自腹でグリーン車に乗るために,東京名古屋間で4000円近く追加で支払った。これが高いか安いかだが,まず勉強代として,いいかえれば,グリーン車がどんなものかを知るためのお金としては,じゅうぶん意義のある投資だったと考えられた。

さらに,価格相応の車内環境が提供されているとも思った。こんかいの東北旅の途中,盛岡で気晴らしに行った居酒屋では,日本酒と2品のアテ(+〆)で3600円支払った。滞在は2時間くらいだったから,だいたい,今回乗車したグリーン車と同じくらいの身銭を切って,同じだけ時間を過ごした。

グリーン車と居酒屋,どちらが有意義だったかといえば,自分にとっては,居酒屋を我慢してグリーン車に乗る方が有意義だった。

もちろん,人によっては(おそらく大半のひとにとっては)おいしいものをたべて,世間話に花を咲かせることの方がたのしいのだろう。そのことも大切だし,価値を見出すこともできる。ただ,私にとっては,「静けさ」と「落ち着き」の方に,より大きな価値を見いだせた。

(おわり)

  1. JR東日本,「福島アプローチ線プロジェクト|仕事を知る|電気システムインテグレーションオフィス」,URL: https://www.jreast.co.jp/esio/our-works/fukushima-project/ [Access: 2024/11/18] ↩︎
  2. 例外はあるかもしれないが,基本的にはそのような認識で正しいと思う。最近では,EX予約による特典も廃止された。 ↩︎