2023年の冬は,鉄道の「音」を録ることにハマっていた。今回の記事では,そのなかで,たまたま出会った,ちょっとめずらしい音を紹介している。
偶然立ち会えたEF64-1000の並走
収録日は2023年12月9日。「録り」鉄の一環として,名古屋駅へ赴き,HC85系のエンジン起動・停止音の収録を敢行した。
HD PENTAX-DA55-300mmで撮るHC85系(名古屋駅, 2023冬)
このときのメインターゲットはHC85系だったが,それ以外にも収録練習として,いくつもの車両の通過・出発音を収録した。
その際に,たまたま録れたのが,EF64-1000牽引の貨物列車2つが相次いで通過したときの「音」だった。
2つの貨物列車の正体
①中央西線 8084レ
最初にやってきたのは,中央西線から来た貨物列車(8084レ)だ。
8084レは,南松本駅を出発すると,名古屋駅まで中央西線を南下する。名古屋駅からは,東海道線の複々線区間(通称:稲沢線)を走り,稲沢駅へとむかい,ここで機関車を付け替える1。それからまた,稲沢線を名古屋まで戻り,こんどは関西本線経由で塩浜駅へとむかう列車だ。
直流電気機関車「EF64-1000」が,タキ1000と呼ばれる石油運搬用のタンカー車両を連ね,重連総括(機関車を2両つらねて,1人の運転士が制御して走ること)運転で走る。いまでは全国でここだけしか見られない,国鉄型機関車の重連運転だ。
中央西線を走るタンカー列車については,以下の記事にもうすこし詳しく書いてある。
▶▶ 中央西線の堀割線区間をゆくEF64重連と313系・211系
▶▶【ド迫力の重連】名古屋近郊で中央西線EF64貨物列車を撮る!
ただ,同じ線区を走る日に数往復の列車も,そのほとんどがあたらしい機関車による牽引に変わっており,収録当時でも,EF64牽引の列車は日中に1往復程度にまで減少していた。つまり,EF64-1000牽引の列車自体がレアなのだ。
このとき,8084レは,8番線をゆっくりとした速度で通過していったが,きこえてくるジョイント音(線路の継ぎ目を車輪がたたく音)は特徴的だ。
まず最初に「ゴトゴトゴト」という,台車3つ分の音が聞こえる。EF64-1000には,1つの機関車で3つの台車がついているからだ2。
さらに重連なので,この音がもういちど聞こえる。つまり,「ゴトゴトゴト…ゴトゴトゴトン」と聞こえる。
そのあとで,こんどはタンカーが通過する音が聞こえてくる。タキ1000からは,ジョイント音より,「ガシャガシャン….」という,金属音が聞こえ続ける。これは,タンカーの構造によるものだろう。
②東海道線「赤ホキ」8785レ
タンカーが数両通過したと思うまもなく,あとから追いかけてきた列車の音が聞こえてくる。
この列車は,東海道線を下る貨物列車(8785レ)だ。この列車も,EF64-1000牽引で,「ホッパ車」(「ホキ」)という,石灰石などを輸送する貨車を連ねていた。赤い車体から,通称「赤ホキ」ともよばれる。
8785レは,笠寺駅から東海道本線を下って,稲沢で小休止したのち,大垣駅まで下り,そこから美濃赤坂線経由で美濃赤坂駅まで走る列車だ。赤ホキの中身は空で,つまりこの列車は「赤ホキ」を美濃赤坂まで返す「返却列車」だ3。
平坦な東海道線を短区間下るだけの列車なので,EF64-1000が1両で牽引する(逆に言えば,8084レが重連運転なのは,中央西線の勾配がきつい区間を走るからだ)。
8785レの通過時には,ちょうど収録していた6番線,目の前を走って行ったので,ジョイント音が大きい。それに,8084レとは異なり,高速で通過していくように聞こえる。「赤ホキ」のジョイント音が「ガタガタン」とリズムよく聴こえてくるのが楽しい。
並走がみられたワケ
こんかい収録したEF64-1000牽引の貨物列車同士の「追いかけっこ」は,じつはいくつかの偶然が重なったことで,たまたま収録できたレアケースだったことを付言しておきたい。
まず,8785レ(追いかける方)の牽引機,所定ではEF510(富山機関区)という機関車のはずだった。それがこの日はたまたまEF64-1000が代走で入っていたのだった。
加えて,当時のダイヤグラム上では,8785レ(つまり追いかける方)が,8084レより4分早く稲沢に着くはずだった。したがって,いずれの列車も定刻で走っていれば,2つの列車が名古屋駅で並走することはなかったのだ。
収録時には,ダイヤとは異なり,8084レが8075レを先行している。つまり,8785レ(追いかける方)が所定より4~5分程度遅れて走っていたものと推測される。動画中で,8785レが,ゆっくり通過する8084レと比べて,やたらと急いで走っているのも,これが理由と思われる。
このような偶然が重なり,1日に数本しか走らなくなったEF64-1000の貨物列車が相次いでやってくるシーンを収録できたのだった。
おわりに
「録り」鉄は,「撮り」鉄以上に,精度よく録るのに苦労する。そんななかにあって,偶然とはいえ,このような「面白い音」や「イイ音」が録れると,非常にうれしい。とりわけ貨物列車は,通過時刻を分単位で把握できないから,収録もむずかしいのだ。
このときには,ほかにもいくつかの貨物列車の音を録ったので,またの機会に動画にまとめるつもりだ。
(おわり)
※本記事内の列車番号および時刻などは,鉄道貨物協会「貨物時刻表2023」を参照した。なお,最新の貨物列車ダイヤ情報は,同雑誌の最新版で確認できる。