JR四国8000系が機器更新されるらしい~現役続行とGTO-VVVF消滅~

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買い物ついでに,最寄りのスーパー隣接の書店で立ち読み。いつもの鉄道雑誌コーナーへ。

「鉄道ファン」2023年4月号に,JR四国の車両にかかわるインタビュー記事が掲載されていた。

そこに気になる記述があった。

JR四国8000系の制御装置更新

JR四国8000系は2023年度から大規模更新

高松駅に停車中の8000系(2019.9撮影)

JR四国8000系は,平成16年(2004年)秋から,一度リニューアルされている。このときは,以下に示されるように,主に車内リニューアルが行われ,指定席に「S-シート」と銘打たれたゆとりあるシートが導入された。デッキ周辺設備も改装され,外装も,落ち着きのある色に変わった。

平成16年秋から指定席を中心とした大規模な車内リニューアルを行い、砥部焼きの手鉢と藍染めの暖簾を使用した洗面所に改装し、ゆとりあるシート幅に木材や木目地を採用したシートを使用しています。また、車体の外装も明るく落ち着いた印象のカラーリングへの変更を行いました。

車両情報<8000系特急電車>:JR四国

そんな8000系,前回のリニューアルから19年の時を経て,2023年度に,ふたたび大規模更新に入るらしい。機器・設備の更新が入るようなことが書いてあったように記憶している。

高松駅に停車中の8000系(2019.9撮影)。現在でも予讃線の主力車両だ。

そこでもうちょっと調べてみると,国土交通省鉄道局に対して提出された運賃改定申請にて,以下のような記載があった。

・電子機器等の老朽更新及び客室設備の改良(バリアフリーへの対応、座席の更新、コンセント増設等)を行う
・工期は5年程度(2023年度着手)、2023~2025の計画額は約22億円

国土交通省鉄道局「四国旅客鉄道株式会社における運賃改定申請について(運輸審議会ご説明資料)」,p. 20, 令和4年9月 6 日 [Access: 2023.3.14]

これは,「平年度の設備投資」の「車両」区分の一環として掲げられており,ほかに,

  • ローカル気動車のエンジン換装
  • 新型ローカル気動車の開発・導入

が挙げられていた。

8000系の更新に着目すると,「客室設備の改良」については,8600系と設備の統一化を図るということを目的にしていると考えられる。8600系にはコンセントやバリアフリー設備がすでに設置されている。工期についても,編成数(40弱)を考えるとこれくらいが妥当だろう。

松山駅地上ホームに停車する8600系(2020.4撮影)。現在,予讃線特急形電車の最新車両。

気になるのは,「電子機器等の老朽更新」の項だ。専門家でないので,電子機器等が何をさすのかよくわからない。

「電子機器等の老朽更新」に関する過去の事例

で,これについて気になったので調べてみた。すると,同様の表現がみつかった。たとえば文献[3]では,

3.通勤電車の機器更新(投資規模:約 190 億円)
総武線快速・横須賀線車両(E217系)などにおいて、制御装置などの電子機器を更新することで、信頼性の向上を図ります。

・主回路装置やブレーキ制御装置等などの電子機器を一体更新

という表現があった。上記は,横須賀線E217系の機器更新についての記述だ。ここでは,図解付きで,更新対象の機器として

  • モニタ装置
  • 保安装置
  • ブレーキ制御装置
  • 戸閉装置
  • VVVF装置
  • 補助電源装置

の6つが挙げられていた。ここには,VVVF装置が含まれていることに注目すべきだ。

今回発表された8000系特急電車における「電子機器等の老朽更新」が,JR東日本のE217系の事例と同様の更新であると考えられる。つまり,「電子機器等」とは,おもに床下の制御装置類を指していること,そして,そこにVVVF装置もふくまれているということだ。

主制御器(VVVF)のイメージ(2020.5撮影)。写真はJR東海「383系」。

VVVF装置更新→GTO-VVVFの置き換えか

VVVFが更新されるということは,ほぼ間違いなく,8000系の走行音が変わる(静かになる)ということだ(VVVFが走行音に与える影響・原理については,この記事で書いた)。

先に挙げたJR東日本E217系は,かつては,GTO-VVVF装置を積んだ電車として活躍したが,上記の機器更新によって,IGBT-VVVFへと置き換えられて,走行音が静かになった。

おそらく,JR四国8000系にも,機器更新として,8600系と同等(つまりIGBT-VVVF),もしくはSiC系のパワー半導体が適用されるだろう。同社の前例として,7000系直流近郊形電車の制御装置が,日立製GTOサイリスタから日立製SiCへと変更されていることから,SiC適用の可能性も十分ある。

日立製GTO-VVVF時代のJR四国7000系(未更新車)

制御装置を置き換えることのメリットの1つは,半導体素子におけるスイッチング損失の低減による省電力化だ。これまで,鉄道車両における制御素子は,GTOサイリスタからはじまって,Si-IGBT,ハイブリッドSiC,そしてフルSiC(MOSFET)へと進化を遂げてきた。フルSiCはIGBTより数十パーセント近くも高効率で,高周波スイッチングが可能となり,その結果,時代が下るにしたがって走行音はどんどん静かになった。

※SiCパワー半導体の鉄道車両への適用については,NEDOの実用化ドキュメントが面白くてわかりやすい。

次世代の電力社会を担う「SiCパワー半導体」が、鉄道車両用インバーターで実用化 | NEDO | 実用化ドキュメント
電気はその使用目的や動かす機器に合わせて、交流を直流にまたはその逆に変換したり、さらには電圧を変えたりなど、さまざまな状態に変換して利用されます。NEDOではより高性能で省エネルギーにもなるパワー半導体の実現に向けて「SiC」(炭化ケイ素)...

GTO-VVVF装置が置き換えられ,省エネになるとともに,走行音が静かになることは,鉄道会社だけでなく,一般の利用者にも歓迎されることだ。しかし,鉄道マニア,特に,自分のように,平成初期~中期にGTO-VVVFの走行音に出会って,音鉄になったような人間にとっては,悲しいことなのだ。

松山駅に入線してくる8000系(2019.9撮影)。このあと「しおかぜ」と連結する「いしづち」。

このJR四国8000系は,あと数年でVVVFが置き換えられ,GTO-VVVFの走行音も聞き納めになるだろう。ここ最近は,全国的にGTO-VVVF装置を積んだ電車が急減し,絶滅の危機に瀕している。

自分を音鉄の世界へいざなってくれたGTO-VVVFが消えてしまうことは悲しい。聴けなくなるまえに,実車への乗車(とできれば収録)をやっておきたい。

嬉しくもあり,ちょっと寂しくもある

今回の発表を受けて,8000系はまだまだ現役であり続ける可能性が極めて高いことがわかった。これは,8000系から鉄道ファンになった私としては嬉しい限りだ。

一方,これも,私を鉄のみちへといざなってくれたものだが,GTO-VVVFの奏でる走行音が消滅するかもしれないのは,音鉄として悲しい限りだ。

(おわり)

参考文献

[1] 四国旅客鉄道株式会社:「JR四国グループ事業計画2022 Good Challenge」[Access: 2023.3.14]

[2] 国土交通省鉄道局「四国旅客鉄道株式会社における運賃改定申請について(運輸審議会ご説明資料)」令和4年9月 6 日 [Access: 2023.3.14]

[3] 東日本旅客鉄道株式会社:「首都圏輸送障害低減に向けた対策の強化について」,2006年12月5日 [Access: 2023.3.14]

[4] 鉄道ファン編集部:「鉄道ファン2023年4月号」,交友社,URL: https://railf.jp/japan_railfan_magazine/

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