「激チャ,ほ~なん,ほやけんよ~...」
こんなことばを聞かなくなって早4年.
コロナの影響で帰省しなかったら,無性に恋しくなるのが松山というふるさとだ.
そのなかでも,ふるさとの方言である「伊予弁」は,特に恋しくなる.
この記事では,松山で生まれ育った私が,松山の方言である「伊予弁」について書いていく.
この記事を読めば,あなたも伊予弁遣いになれるかも?
中予(松山)の方言:現代でも話されることば
「伊予弁」と聞くと,愛媛県の方言をイメージする.大まかにはそれで正しい.
しかし実際は,地域によって結構違った方言が使われている.これは各地域が結びついている地方や,地域を隔てる地形などに原因があると考えられる.
愛媛県は,ざっくり3つの地域に分けられることが多い.
- 東予(今治,西条,新居浜など:愛媛県東部)
- 中予(県都松山:愛媛県中部)
- 南予(大洲・八幡浜・宇和島など:愛媛県南西部)
kwakkun – user:Lincunによるja:Image:ja:Image:包括自治体区画図_38000.svgを基に改変, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2264949による
自分が見聞きした分だと,方言も上記3地域で結構異なるらしい.今回紹介するのは,自分が生まれ育った松山の方言である.インターネットで「伊予弁」と検索してヒットするページでは,今治や宇和島の人が使うような方言が,「伊予弁」として紹介されている.
あるいは,ものすごい古い方言が紹介されていることもある
(「~ぞなもし」なんて夏目漱石や正岡子規の時代!)
しかし松山育ちの現代っ子は,「そんな言葉使わないな~」という違和感感じることが多い.
*
松山で生まれ育った現代っ子が,どんな方言を使ってきたのか,他県民に誤解されがちで,かつ,愛媛県民(特に松山市民)が外に出てカルチャーショックを受ける方言たちを書いていく.
まずは,現役バリバリで使われている方言から.
「~けん」:~だから,「~よる」「よんよ」:~している(肯定)
愛媛県に限らず,西日本ではよく聞かれる.愛媛の方言と言ったら,まっさきにこれが思いつく.けんけん星人,愛媛県民.
地元の友達と話していると,「~けん」と「~よる」「~よんよ」という語尾が自然と出る.意味としては,「けん」は「~だから」,「~よる」「~よんよ」は「している」が最も近い.
見ている,食べている,聴いているなど,現在進行形の動詞はすべて,「みよる」「たべよる」「ききよる」という風になる.
伊予弁が柔らかいといわれるのはこのあたりの表現からだと感じる.
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用例)
- 「今日は雨やけん(だから),傘持って行きよ~(行きなさいよ)」
- 「テストの点がよかったけん(よかったから),こうてもろたんよ(買ってもらったんだ)」
- 「そんなことしよるけん(しているから),いつまで経ってもできるようにならんのよ(ならないんだよ)」
- 「市駅(松山市駅,後述)にいきよるんやけど(行っているけど),どこにおる(いる,後述)?」
動詞+「~よん」:~しているの?(疑問)
「〜している」を意味する「~よんよ」の「よ」が抜けると,「~よん」になる.これで疑問・質問を意味する.
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用例)
- 「なんしよん」:何をしているの?
- 「どこ行きよん」:どこに行っているの?
- 「なん食べよん」:何を食べているの?
「ほ~なん」「ほ~よ」:そうなんだ,そうだよ
ほかに使用頻度が高いことばとして,「ほ〜よ」「ほーなん」がある.これらは,会話において「そうなんだ」とか「そうだよ」というあいづちの意味でよく使われる.
ちなみに,「ほ〜よ」と「~けん」をつなげると,「ほやけん」という語尾が出来上がる.これは,「〜だから」という接続詞に対応する.
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用例)
「ほ~よ!ほ~なんよ!,あそこの○○さんはほんとに…ほやけんよ!びっくりしよーほんとに…」
「かまん」「かまんよ」:いいよ,大丈夫だよ
質問,提案に対して,肯定の答えをするときに使う.
「かまんよ」は,標準語における「~してかまいません」「~してもかまわない」が元となっていると思われる.
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用例)「○○行ってきてかまん?(行ってきてもいい?)」「かまんよ~(いいよ~)」
「激チャ」:自転車による全力疾走
激しく自転車(=チャリ)を漕ぐことに由来すると思われる.自転車通学の学生が多い田舎ならではの方言.全国共通だと思っていた.松山市だと,平日朝8時前後に市役所・県庁・城山公園あたりで見られる.
ちなみに数年前から,自転車通学の県立高校生はヘルメット着用が義務化されている.ヘルメットで「激チャ」はもはや松山の名物.
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用例)
「激チャしてギリ間に合ったんよ~!」: 急いで自転車を漕いで,ギリギリ間に合った!
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「市駅」:伊予鉄松山市駅およびその周辺
四国最大の乗降客数を誇る伊予鉄道のターミナル駅.実質的な松山市の中心駅.
ちなみに「松山駅」はJRの松山駅のこと.松山駅→松山市駅は伊予鉄の路面電車で移動することができる.松山駅は市内西側にあり,存在感が薄い.最初は伊予鉄道が「松山駅」を名乗っていたけど,国鉄に譲ったとか?それで伊予鉄の方がターミナルになっているのはなんとも皮肉な話...
市駅上にある伊予鉄高島屋の頂上には,建物を沈下させていると噂の「くるりん」(観覧車)がある.夜中になるとライトアップされて,NHKのニュース開始・終了時等の映像に流れる
ちなみに,青看板にも「Shieki」と表記されていた(最近はMatsuyama-shi Sta.とか Matsuyama-city Sta.に直されているのかな?).
関連記事:松山駅と松山市駅の違い?~JRより民鉄駅が栄えた県庁所在地~
そのほか:標準語と思ってました…
ここまで上げてきたもの以外にも,たくさんの特徴的な方言がある.
思いつく限り+ネット上で上がっているものでよく使うものをたっぷり紹介.
このうちのいくつか,標準語と思ってるの恐ろしい...(笑)
「行ってくる」「行ってこーわい」:ただ単に「行く」の意.行って,来るではない.後述の帰ってくるの方が有名だけど,こちらも他県民に誤解されそう.たとえば「トイレ行ってくる」の場合は,トイレに行く→戻ってくるの意味.しかし,松山市民だと「行ってくる」はふつうに「行く」の意味でも取られる.
語尾の「~れん」:「~してはダメ」
用例)「食べながらしゃべられん(しゃべったらダメ,しゃべらない)!」
「おらぶ」:叫ぶ(自分はつい最近まで標準語だと思っていた).
「おる」「おらん」:居る,居ない.折るではない.
「いかん」:ダメ,よくない.「ええよ」の対義語.don’t goではない.
「めんどい」:面倒くさい.これも標準語だと思っていた.
「かやる」「かやす」:こぼれる,こぼす.料理を運ぶ時,母によく「かやされんよ~」と言われた.
「机をかく」:机を運ぶ.かなり有名.秋祭りの喧嘩神輿・鉢合わせは松山の誇りだ.愛媛県民は普段おだやかだけど,お祭りは好きな県民だ.
「いがむ」:ゆがむ
「もぐ」「もげる」:とる,とれる・外れる.もぎたてテレビは,南海放送(日本テレビ系)の長寿番組.
用例)「思いっきり引っ張ったら,取っ手がもげたわい(取れたよ)」
「いろう」:触る,否定の命令形は「いろわれん」=触らない(ケガをしたときに母に言われた).
「いきし,かえりし」:行く途中で,帰る途中で(これも標準語だと思っていた).
用例)「学校のいきしにセブンイレブンで買っていくけん,かまんよ~」=「学校へ行く途中にセブンイレブンで帰っていくから,必要ないよ~(いらないよ~)」: ちなみに,愛媛県にセブンイレブンが上陸したのは,僕が高校生になってからだった.
「さら」:新品.「さらピン」もよく使われる.
用例)「このシューズ,さらよ(新品だよ)~」
「つい」:同じ,似ている.1対2対から来ている?
「まっつい」:「つい」よりも強い表現.「うりふたつ」の意味.
用例)「あそこの兄弟は,ほんとにまっついよ~」
(※現代っ子はあんまりつかわないかもしれない)
「ラーフル」:黒板消し.これを綺麗にするものは「ラーフルクリーナー」.
「しょって」「しょう」:背負って,背負う.「かるう」はもう少し古い表現だ.
用例)「ランドセルしょった(背負った)新1年生が歩きよらい(=歩きよる+~しよらい:歩いているよ~)」
「むつこい」:脂っこくてしつこい.
用例)「あげもん(揚げ物)ばっかりでむつこい(しつこい)」
「しゃぐ」「しゃがれる」:車等で轢く,轢かれるの意.
用例)「しゃがれるけん(轢かれるから),飛び出されんよ(飛び出さないように)!」
「のける」「のく」:除ける,取る,取れる.
用例)「シミついとったけど,洗濯機で洗ったらシミのいた(落ちた)わい」.
「うさす」:失くすの意.消え失せるの「失せる」が近い.
「とう」「とわん」:届く,届かない.
用例)「あそこの棚やとギリギリとわんわ(届かないよ)~」
「たべさし」:食べ残し.
「ぬくい」「ぬくめる」:温かい,温める.
用例)「冷蔵庫にカレーあるけん(あるから),電子レンジでぬくめて(温めて)お食べ~」
「ひやい」:冷たい.「ぬくい」の対義語.
「ようけ」:多く,たくさん.
用例)「今日は”まち”にようけ人がおったよ~」
=「今日は大街道(市中心部にあるアーケード街)にたくさん人がいたよ」.
「はよ」「はよせい」「はよして」:早く,早くしろ,早くして.急いで.
用例)「バス来るけん(来るから),はよ(早く)行かな(行かないと)」
中予(松山)の方言:ちょっと古い?ことば
次に,自分よりも上の世代(祖父母,両親)が遣っていた方言たち.自分の世代ではほとんど話さないけど,なんとか意味は汲み取れる.
「もんた」「もんてきた,もんてくる」:戻った,帰った・帰る
ファイナルアンサーやらケンミンショーやらの司会者ではない.じいちゃんがよく言ってたのを覚えている.
今でも,名古屋から帰ってじいちゃんの家にいくと,
「おー!(タケ),もんてきたんか(帰って来たか)!」
と言われる.
でも,親より下の世代の人がいうのは,あまり聞いたことがない.
「帰ってくる」:若い人はあまり使わない…?
「行ってくる」よりは頻度が低い.
使うことはあるかもしれないけど,若い人は普通に「帰るわー」くらいだったかな.
自分もあんまり使わなかった記憶がある?
他県民にうっかり話すと誤解を招くのは,有名な話.
帰ってくる=かえってからまた来る,と誤解されていつまでも待ってたみたいな話は,よく年上の人から聞いたことがある.
動詞+「~わい」:~する,します
先の「帰ってくる」「もんてくる」とあわせた
「かえってこーわい」「もんてこーわい」は,
じいちゃんが帰るときの決め台詞だった.
そのほか:よく母に言われました
「はぶてる」:拗ねる,機嫌が悪い.子供に対して使うことが多いのかな?
「びんだれ」:だらしない.うちの母は,下着がだらっとでている状態のことをよくこうやって言っていた.
「おせらしい」:大人びる,大人っぽくなる.子供のときの友達の母親とかに,久しぶりに会うといわれる.
用例)「どしたん!おせらしなって~」
「つばえる」:(遊びで楽しげに)暴れる,騒ぐ.よく母に「つばえられん!ケガするよ!」と叱られた.頭に「ど」がつくと「どつばえる」=激しく暴れるになる.
「こまい」:小さい,細かい.
「はみご」:仲間外れ
「どうならい」:(先を案じて)もうどうにもならないぞ(と心配する)の意.
用例)「あんなになってしもて,どうならい」
ほとんど使われないけど有名なことば
「だんだん」:ありがとうの意.じいちゃんも使っていないくらいだし,現代の愛媛県民はほとんど使わない?
「~ぞなもし」:小説「坊ちゃん」で一躍有名に?現代人はまず使わない.
「じゅるたんぼ」:水たまりの意.田舎の人は使っているかもしれない.
まとめ:柔らかくて優しい方言です
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中予地方の伊予弁は,京阪神寄りのことばらしい.実際,関西弁の中には,愛媛県民に通じる言葉が多い.たしかに,僕が名古屋に来てから,他県民と話していると,「イントネーションがちょっと関西っぽい」と言われることもあった.
伊予弁の雰囲気は,非常に柔らかい.温暖な気候でのんびりした性格,保守派で長いものに巻かれる松山市民の特徴が方言にも丸出しなのだ...
ベビースターはチキン、アイスはバニラ味な保守王国だが、仕事より趣味に生きる傾向がある。のんきな半面、一度決めたら人の話もそこそこに目的地まで突っ走る傾向があるが、それゆえ、自分がどこに向かっているか分からなくなって立ち往生する(伊予の駆け出し)。
ちなみに,瀬戸内海を挟んだ広島の広島弁を柔らかくしたのが伊予弁,とも感じる(広島だと,語尾が「~やけん」ではなく「~じゃけん」となる).
こうやって方言を想像しながら書いていると,ますます帰省したくなってきた.12月末が待ち遠しい.
↑県民性擬人化マンガ「うちのトコでは」作者のもぐらさんは,われらが愛媛県出身です.
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