【松山“通”の観光】伊予鉄路面電車最古参「モハ50形」の旅

松山を観光するにあたって,まず第一に候補にあがるのが「坊っちゃん列車」だ。坊ちゃん列車は,伊予鉄道の市内線を走る,かつてのSLを模擬したレトロさがウリの機関車だ。

坊ちゃん列車に乗れば,そのレトロさを十分に堪能できるだろう。ただ,坊っちゃん列車は乗車賃が高く運行本数も多くない。しかも,コロナの影響で,2022年1月現在,運転中止している。これでは,せっかくの松山観光を十分に楽しめない,そう思われる方も多いのではないか?

そこでおすすめなのが,伊予鉄道路面電車「モハ50形」を利用した市内観光だ。この車両は,名前だけだと普通の路面電車だが…実は坊っちゃん列車と同じか,あるいはそれ以上に「レトロ」な車両なのだ。

今回の記事では,松山市内を走るモハ50形と,その乗車のようすについて紹介する。松山市内を路面電車を利用して観光したい!という方は,参考にしてほしい。

エモすぎる「モハ50形」の旅

モハ50形 52号

今回乗車したのは,モハ50形グループの1つである52号だ。

モハ50形は,伊予鉄道市内電車の中でも最古参の車両グループで,現在15両が所属している。

なかでも,51号および52号は,1951年製造の車両だ。戦後すぐうまれた車両が,昭和・平成・令和の3時代の70年を走りぬいてきているわけだ。左側に見切れている最新型の車両と並ぶと,なるほど時代を感じるレトロなデザインだ。1つだけのヘッドライトや,無骨なボディ,四角いガラス窓はいかにも昔風。

驚くことに,モハ50形は現在も「現役バリバリ」で走っている。どういうことかというと,モハ50形は,他の新型車両とまったく同じように,車両のやりくりをされているということだ。御年70歳でも関係なし,若いモノには負けず,老体に鞭打って?走っているのだ。

現在,伊予鉄道市内電車の最新車両は,2017年に投入されたモハ5000形だ。モハ50形との年の差はおよそ50-70年。同じ仕事場で,祖父と孫がいっしょに働いているようなものだ。

しかも,これらのモハ50形のうち,51号の行先表示器は,幕式からLED式に変更された。これはすなわち,モハ50形がまだまだ現役で走るということを示唆している…!「まだまだ若いもんには負けんぞ...」といったところだ。

モハ50形が走っている路線

以下に,市内電車の路線図を示す。

モハ50形は,基本的にすべての線区で走っている。もちろん,観光での利用が多そうな以下の4駅からも乗車できる。

  • JR松山駅前
  • 松山市駅前
  • 大街道
  • 道後温泉
引用元:伊予鉄道:「路線図・時刻表」,URL: https://www.iyotetsu.co.jp/rosen/,[Access: 2022.1.9]

日中はいずれの路線も,10-12分間隔で電車がやってくる。車両は完全にランダムだが,モハ50形は,市内線を走る車両の中でもっとも数が多い(15両)。以下に,市内線(路面電車)における形式毎の両数を示す。新しい車両の方が運用が多いことは十分考えられるが,モハ50形は他形式と共通の運用についている(分け隔てなく!)。したがって,駅で待っていればモハ50形がやってくる確率は高いといえる。

2020年7月現在,データはWikipediaを参照。

確実にモハ50形に乗りたいのであれば,車両が方向転換する以下の駅において乗車を待つのがいいだろう。この駅では,数両の車両が順番待ちをしていることが多いからだ。

  • 道後温泉
  • 松山市駅前

モハ50形への乗り方

市内電車は,坊ちゃん列車と異なり,ワンマンでの運転だ。

バスと同じく,「後ろ乗り・前降り」。

運賃は「後払い」だ。

1回の乗車賃は,大人1回180円(小人90円)均一運賃だ [2022年1月現在]。

(精算機はおつりがでないので,車内そなえつけの両替機で両替しておく必要がある)

全国共通の交通系ICカードは使用できない。伊予鉄道のICカード「ICい~カード」のみ使用できる。

いちいち180円の運賃を支払うのは面倒!市内観光で何度も乗るなら,市内電車乗り放題のフリー乗車券がオススメだ。「市内電車1Day・2Day・3Day・4Dayチケット」という名前で発売されており,日数に応じて以下の通りの価格で買うことができる。

  1. 1Dayチケット 大人800円 小児400円
  2. 2Dayチケット 大人1,100円 小児550円
  3. 3Dayチケット 大人1,400円 小児700円(伊予鉄MaaSのみ発売)
  4. 4Dayチケット 大人1,700円 小児850円(伊予鉄MaaSのみ発売)

参考: お得なチケット・乗車券|伊予鉄道

チケットは,市内電車の主要駅(松山市駅,道後温泉)や市内電車内でも買える。

いずれも,連続する1・2・3・4日間使用できる。

なお,3Dayおよび4Dayチケットは,スマートフォンの電子チケット(伊予鉄MaaS)のみの販売となっている(購入については,伊予鉄MaaSについてを参照のこと)。

このほか,郊外電車・市内電車・バス全線が乗り放題となる,「ALL IYOTETSU 1Day・2Day・3Day・4Day Pass」も発売されている。観光範囲が松山市内中心部以外へおよぶ場合は,こちらも購入するとお得だ。

昔の趣残るモハ50形の車内

さて,モハ50形と市内電車の紹介はここまでとして,以下では乗車したようすを簡単に紹介する。

今回乗車する区間は,伊予鉄道市内電車「①環状線」の古町こまち駅から松山市駅前駅まで。

おすすめ: みかん色の車両がズラリ!伊予鉄道古町車両工場を見に行ってきた

先頭は,丸みを帯びたガラス張りになっていて,前が良く見える。せっかくなので前の方に座って,前面展望を楽しむ。

運転席は,電車というよりはバスのような感じで,丸いハンドルと木造の台が,いかにも戦後すぐに造られた雰囲気を醸し出している。

古町から平和通一丁目までは,「城北線じょうほくせん」と呼ばれる区間だ。名前の通り,松山城の北部をぐるりと時計回りに走る。路面電車といえば,クルマの通る道路のまんなかに線路があるようなイメージが思い浮かぶだろう(「併用軌道へいようきどう」と呼ばれる)。しかし,城北線は,普通の線路を走る一般鉄道の区間だ(「専用軌道」と呼ばれる)。同じ市内電車でも,併用軌道と専用軌道の両方があるのは珍しい。

モハ50形52号の車内はこのような内装になっている。写真のとおり,床や壁面の一部は木造となっている。車体自体は鋼製だが,車体の一部でも木造となっているのは,アルミや鉄製の車両があたりまえとなった昨今では希少だ。

また,座席も古めのモケットで,すわるとキシッと沈み込むような感覚がする。座面や出入り口は少し高め,時代は「バリアフリー」,路面電車は低床ていしょう式(乗車口と車内の床の高さが同程度)が一般的となったが,この車両はあてはまらない。

向かう合うロングシートの間隔は,意外と広い。モハ2100形とモハ5000形(いずれも平成以降に登場)は,低床式である一方,車内の座席数が少なく,狭くなっている。乗り心地の点からは,モハ50形は最新車両に負けていない(むしろ広々していて乗りやすい!)

モハ50形の走行音~吊掛駆動

このように車内もレトロなのだが,もっとレトロなところがある。それは「走行音」だ。これはちょっとディープな愉しみ方になるかもしれないが,モハ50形に乗るならここは外せない

以下に,今回の乗車で録音した走行音を貼っておく。再生しながら読めるので,再生ボタンを押してから読んでいってほしい。

聴きどころは3つだ。

  1. 唸るような走行音(加速時に聞こえる「モォォォォォ~…」という音)
  2. コンプレッサの音(停車中などに聞こえる「ドコドコドコ…」という音)
  3. 重厚なジョイント音(惰行中に聞こえる「ゴトン,ゴトン」という音)

1.は,車外からも聞くことができる。加速していくときの音だ(筆者は,松山市の名物でもあると思っている)。松山市のマチナカにいれば,どこからともなく「モォオォォォ」と聞こえてくるはず。

この音の正体は,モハ50形が発する加速音だ。

現代の電気車ではほとんど聞くことができないこの音の発生源は,「吊り掛け駆動方式」と呼ばれるモータから輪軸に動力を伝える方式だ。詳しいしくみは他にゆずるが,この方式によって,走行時の独特な音が生み出されているのだ。

2.は,コンプレッサと呼ばれる,ブレーキやドア開閉に必要な「圧縮空気(高い圧力の空気)」をつくるための装置から聞こえてくる音だ。コンプレッサは,路面電車に限らずどの電車にも搭載されている。しかし,モハ50のそれは,とても重々しい音を発する。今の電車だと「グルルルルルル」と,そんなに大きくない,小気味な音しかしないが,モハ50は「ドコドコドコドコドコ…」とのんびりした大きな音が聞こえてくる。いかにも,「空気を圧縮してるんだな~」と思えるような音だ。

3.は,特に併用軌道(路面を車と一緒に走る)区間において楽しめる。この車両は,最新型の車両と比べると重たく,それゆえ重々しい走行音を楽しめる。レールに響く音も「ゴツンゴツン」といった感じなのだ。

最近の電車は,みな一様に静かになっている。同じ路面電車でも,最新型のモハ5000形は,VVVFインバータ駆動で非常に静かに走る。乗り心地はたしかにいいのだが・・・なにか物足りない気持ちもする。

そこへきてモハ50は,いで湯のまち・松山に爆音をまきちらしながら走る!これに乗ると,その存在感に頼もしさとレトロさを感じながら,松山市内観光を楽しめるというわけだ。

松山市駅にて~52号写真集

52号は,市内をぐるっと走って,終点の松山市駅前に到着した。

最後に,市駅前に停車中の車両をぐるっと撮影。

四角い窓と1つ目のライトが特徴。車体は最近みかん色に塗り直された。
車両番号は,前後の中央下部に付けられている。鋼鉄製で,いかにも重々しい感じのボディは,ところどころ傷も見られるが,まだまだ走れそう。
松山市駅前には,坊っちゃん列車のりばもある。車体側面には,松山銘菓の広告が貼ってある。
先輩車両とともに(奥側左がモハ5000形,右がモハ2100形)

まとめ:坊っちゃん列車より楽しい?「モハ50形」の旅

松山市駅前駅に停車中のモハ50形

以上,伊予鉄道モハ50形とその乗車のようすを紹介してきた。

松山市内の観光といえば,「坊っちゃん列車」が有名だが,今回紹介したモハ50形もぜひ乗ってほしい車両だ。最古参の車両でありながら,現在でも市内電車の最大派閥で,最新型車両と同じ運用についている。それゆえ,坊っちゃん列車より手軽に,しかも安く乗車できる。

それでいて,車内の内装は登場からさほど変わっていない。走行音は,現代の車両よりいくぶん迫力があって,昔の雰囲気を存分に味わえるものとなっている。

松山に来て,1日2日市内を観光するなら,モハ50形を選んで市内を観光してみて欲しい。きっとこの車両のレトロさを楽しめるはずだ。

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