【ディジタルミニマリズム】iPadを手放してみて,わかったこと

スポンサーリンク

iPadを買ったきっかけ

2020年にiPad Airを買った。

ちょうど学部4年生になる年で,研究室へ配属されたことがきっかけだった。

当初私は,iPadに対して「人並み」に期待していた。過去の講義資料を見返したり,先行研究・関連研究の論文を読んだり,写真の編集をしたり。研究に,趣味に,大活躍することを想像していた。もちろん,デバイス自体のもつ外観やデザインにも惹かれていた。

2020.2.3 下宿のデスクにて

iPadは閲覧・消費デバイスにすぎなかった

それから3年以上経ったとき,ふと,気づいたのだ。iPadが,ネットサーフィン・動画視聴をつうじて,時間を吸い取っていくことに。

ちょうどそのころは,iPadで1日に2時間以上,休日でなにもすることがないときは,それ以上消費していた。単純計算で,1ヶ月に60時間,1年で720時間!これが何日分かというと,(24時間/日で割ればいいから)30日!ちょうど1ヶ月分に相当する。すなわち,1年のうち1か月以上をiPadで消費している計算となる。

結局iPadは,閲覧・消費デバイスに過ぎなかったのだ。

このことは私個人にかぎらず,開発当初の目的もそうだったと推察される。iPadには,当初,ペンシルやキーボードはついていなかった1。iPad第1世代の初期搭載OSがiPhoneOSであった2。そして,iPhone開発当初の目的は,常時Webに接続したり,便利なAppを使ったりすることではなかった。スティーブ・ジョブズは,iPhoneを「携帯電話とiPodを一緒に持ち歩ける」デバイスとして開発した3

したがって,当初のiPadの使途も,せいぜい,「雑誌や電子書籍を読むくらいのデバイスにしよう」くらいに過ぎなかったと推察される。それが今や「iPadパソコン化」なる見出しがテック雑誌に踊る。誰がiPadを生産性を高めるデバイスにしたのだろう。

iPadでできることは,iPadでなくてもできることに気づいた

このような状況を冷静に考え,このままではいけない,と思うようになった。ちょうど,大学書籍で「デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方 (ハヤカワ文庫 NF 573) (カル・ニューポート著)」を立ち読みし,購入して読みこんだことも,その要因となった。

いきなりiPadを手放すのはむずかしいので,まずは1カ月間,電源を切って本棚に置いておいておくことにした。上記の本を参考にして,「1カ月」という期間を区切って実行した。

その結果,当初考えていた使途はすべてiPad以外で代替できたし,なにより余計な誘惑が激減することがわかった。以下に,いくつかの使途について詳述する。

論文をよむ

iPadで論文をよむには

まず,論文をiPadで「読む」4のは,意外と手間がかかる。ここで「論文を読む」とは,書きながら読むことを想定している。手順5としては,以下のとおり。

  1. Google Scholarから,PDFへアクセス。
  2. 拡張機能をつかって,PDFを論文管理サービス(MendeleyなどiPadと同期できるもの)へアップロード。
  3. iPadに持ち変える。
  4. iPadで上記のアプリを開き,当該論文を開く。
  5. (充電が切れていなければ)Apple pencilをもって,ようやく書き込めるようになる。

しかも,この状態で快適に読めるかというと,そうでもない。たとえば,X1ページのFigure Zを見ながら,X3ページの文章を読む,というような複数ページ間の移動が非常にめんどうだ。PDFでの論文閲覧において,これは致命的な弱点と考えている。

そして,他のアプリやネットへ容易にアクセスできる環境から,誘惑も多い。不明な単語を調べているうちに,論文からすっかりはなれてしまうこともしばしばあった。

紙のスピード感と「立体感」

これに対して研究室では,白黒にかぎってはA4でもA3でも,好きなだけ印刷してよいことから,気になるものは,さっさと紙へ印刷して読んでしまえる環境にある。つまり,手順としては,

  1. Google Scholarで,PDFへアクセス。
  2. プリンタで印刷。
  3. ペンをもって読む。

これだけだ。

しかも,アナログ(紙)の場合,上記のようなページ間をまたいだ読み方も,指を挟み手繰るだけでできる。そのうえ,読んだあとも,「あのあたりに書いてあったな」と,位置・視覚的に記憶に残りやすい。立体的に記憶できるのだ。

それゆえ,見返す頻度が高く,思い返すに必要な労力は低くすんだ。

そしてなにより,幼少期からなじみの「紙とペン」が,自動的にスイッチを入れてくれ,集中して読める。

以上のことから,iPadで論文をよむことはなくなった6

ディジタル化した資料の閲覧

過去にスキャナでディジタル化した資料は,ほとんど見返さなかった。たとえば,学部時代の講義資料や上述の論文などが,これにあたる。

どうしてもじっくり見返さなければならないものは,もういちどプリントアウトすればよかった。あるいは,簡単な閲覧(スクロールでざっと読むだけ)だったら,PCに外付けしたディスプレイで事足りた。要するに,iPadで,資料を見返すことはほとんどなかった。

それよりも,研究室居室の本棚にしまってある適当な紙資料,あるいは下宿の本棚にある本の方が,ふとしたときに手に取って読み返す機会が多かった。紙資料は,どこに何があるのか,が,あたまのなかで立体的に把握されているからだと考えている。

外出先(出張)での資料の閲覧

「iPadの機動性を生かして,外出先で資料をみよう」

…というのも考えられる。

しかし,自分にとって,そもそもどうしても外で,ネットをつないでみなければいけない資料はほとんどなかった。クリアファイルに入る以上の資料を,出張や研修先でいることはなかった。

宿泊先や出張先で作業することもあったが,これはノートPCをつかえばよい。ノートPCの携帯性が十分高まっており,すくなくとも学会での出張には,これで事足りた。

ネットサーフィンと動画視聴

最後までiPadの主たる用途であり続けた,ネットサーフィン・動画視聴についても,PCのブラウザ経由にすれば効率がいいし,没頭せずに済むことがわかった。

ネットサーフィン

まず,ネットサーフィンに関して。

いままでは,ふと気になったことは,すぐにiPadあるいはiPhoneのSafariで調べていた。この習慣を断ち切る方法として取り入れたのは,夜の19時~21時を,あらかじめ「ネットの時間」としてブロックしておくことだ。ネット時間をつくるのは逆説的に思えるが,これが意外とうまく機能した。

気になることは,頭にうかんだとき,手帳にメモしておく。帰宅して,まだどうしても気になるようだったら,上記の時間にPCで調べる。もっとも,この時点まで気になっていることは稀で,逆に気になり続けていることは,自分がかなり興味をもっていることが多く,これをネットサーフィンすることで,得られるものが多かった。しかも,ネットサーフィンにおいて,PCのほうがスクロールやタイプ・ページ間の遷移の観点から効率がよかった。

動画視聴

次に動画視聴だが,PCだと,椅子に座って行うこととなる。それに,(Windowsの場合)ブラウザ経由でアクセスすることになるので,巧妙に設計された「アプリ」の罠7から逃れられる。結果として,余計な消費をふせげた。

以上のことから,1カ月の「休眠期間」を経て,iPadがなくても,じゅうぶんやっていけることがわかった。当初,iPadでやろうとしていたことは,アナログもしくはPCで十分事足りたのだ8

このことから,最終的にはiPadを売却した。購入からちょうど4年だった。型落ちだが,それでもラクウルで2万円以上で売れた。Apple pencilも同時に売った。カバーを付けずに使っており,傷がついていたとかの影響で,これでも査定額は下がっている。2万円もの値がついたのは,高い需要とブランド力のおかげだ。

「ひりひりする現実」に向き合い,大事なことにきづく

iPadの使用をやめ,手放すプロセスを通じて,想像以上の時間を手に入れた。1日,2時間ちかく空いた。ほんとうに,ぽっかりと空いたのだ。特に,研究室から帰って,ごはんをたべてからの時間,そして,週末の午前中,まったくすることがないことにきづいた。

この時間で,上記のような気づきを得ると同時に,「ひりひりする現実」に向き合うこととなった。

最初は,ひたすら自分と向き合う羽目になり,つらかった。このことをつうじて,じぶんが,夜の時間,ネットに依存して過ごしていたことに,はじめて気づいた。じぶんはネットに依存せず生きているとおもっていたが,時間の多少こそあれ,One of themにすぎなかったのだ。

空き時間の大半は,あれこれ考え込むことにつかった。本を読んだ。いろいろな問題について,本を読み,あれこれ考える。答えを見出せないので,また本を読んで考える。このプロセスに,どっぷりはまっていった。

考えることには,考えても答を見出せないことも当然あった。それでも,すぐ答えを見出そうとしていた。どこかに,自分が考え込んでいることの答えがあるのではないか。とか,最適解はどこにあるだろうとか。こういう思考プロセスのクセは,あまりにも手軽だったネットサーフィンの弊害だったと考えている9。この状態を1カ月近くつづけたのだが,結構きつかった。

こうして本を読み,考えていった先で,あらゆる著作では,各々の著者が各々の主張を繰り返し展開しているだけと気づいた10。そして,人生でいきあたる大半の難題は,そう簡単に答えが見いだせるものでもないと,ごくあたりまえのことを,身をもって実感した11。結局,自分の哲学(気持ちよく過ごせる思考の方法・生き方)を見出し,位置づけることが,最善の方法だったのだ。そのためには,とにかくやってみる,そして,距離感をつかむしかないのだ12

ここに至ってからは,自分がやりたいこと・楽しいこと・気持ちいいことを,内省と実践のサイクルから見出すよう努力した。やりたいことをやり,それで,リアリティある実世界の感触と,理想とのギャップをつかんでいけるようになった。考えることにつかれたところに,光明がさした感じだった。

まとめと今後の課題

最後の方は,抽象的な話になってしまったが,iPadを手放してわかったことは,「iPadは,じぶんにとって,閲覧・消費デバイスにすぎず,つかわないことで自分と向き合う時間がふえる13」ことだ。

もちろん,例外はあるだろう。最近では,小学生からタブレット学習が導入されており,勉学に紙とペンがイレギュラーで,タブレットネイティブなひとがふえてくると予想される。彼らにとっては,ここに書いてあることが例外になるかもしれない。ただ,じぶんはあくまでも,学生時代の大半において,勉学に紙とペンをつかってきた。したがって,特に勉学(現在は研究)において,その慣習,つまりアナログな「入出力」から離れることはできなかった。

今後の課題は,自分の心耳を澄ませ,疲れたらやすむことだ。現実と向き合いすぎて疲れないように。いいことがあったり,あるいは,ダメなことがあったら,自分のゴキゲンをとってあげるつもりだ。

自分のゴキゲンをとる方法として,普段自炊をがんばっているので,おいしいものを食べに行くこと,それから,小旅行に出ること。今年度は,それ用に予算を組んだ。じょうずに自分の機嫌を高めてあげようと思う。

以上書いたことは,あくまでも一個人の体験談と,それに基づく考えであり,かならずしも普遍的な事実ではありません。ただ,iPad(あるいはほかのディジタルデバイスもふくめて)のつかいみちを見直したことで,自分とむきあう時間がふえたことは事実です。

じぶんもやってみようかな,と思った方は,「デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方 (ハヤカワ文庫 NF 573) (カル・ニューポート著)」を一読されることを勧めます。ただ単にディジタルデトックスをするだけでは,ディジタルデバイスからは離れられない理由が書いてあります。個人的には,この観点がいちばんたいせつだと思っています。

(おわり)

最後まで読んで頂きありがとうございました。

今後も定期的に更新していこうと思います。

検索からたどり着いた方で,他の記事も読みたいと思った方は,「購読登録」をどうぞ。
(毎週月曜9時に,メールで更新通知をお届けします。)

脚注・参考文献

  1. iPad(第1世代)の発売は2010年,これに対して,Apple Pencilが最初に発売されたのは2015年だそうだ(参考:iPad (第1世代) – WikipediaApple Pencil – Wikipedia↩︎
  2. iPad (第1世代) – Wikipediaにそのような記載がある。 ↩︎
  3. カル・ニューポート(池田真紀子 訳):「デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方」,ハヤカワ文庫,NF573 (2021) [Amazon] ↩︎
  4. 論文を読む(あるいは管理する)のに,紙がいいかディジタルがいいかは,認知学的に奥深いところで,自分自身も試行錯誤中なので,また別の記事で書くことにする。 ↩︎
  5. たとえば,MendeleyやEndNoteをつかっていた(参考:【論文整理】Mendeleyからの移行先としてEndNoteを試す)。しかし現在は,文献のデータベースとしてのみ,利用している。 ↩︎
  6. 同様の理由から,研究ノート(思考の軌跡)をのこすことも,紙ノートベースに移行した。 ↩︎
  7. この辺のことは,ディジタル・ミニマリズムを実践するうえで,かならず理解しておくべきことで,カル・ニューポート(池田真紀子 訳):「デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方」,ハヤカワ文庫,NF573 (2021) [Amazon]に書いてある。 ↩︎
  8. ディジタルで受け身なコンテンツをダラダラと張り切って消費したい,イラスト・音楽制作をしたい,会社などで経費節減の観点から,印刷量を抑制する状況にある場合,iPadの使用は効率的と考えられる。 ↩︎
  9. あるいは,職業病(研究=考えればなんとかなる)かもしれない。 ↩︎
  10. 内田樹:「疲れすぎて眠れぬ夜のために」(角川文庫)[Amazon] が面白い。 ↩︎
  11. 最後のほうは,夏目漱石の小説を買って読んだりした。このひとの小説が名作である理由がわかった。 ↩︎
  12. 夏目漱石:「行人」(新潮文庫)[Amazon] を読もう。 ↩︎
  13. 欲望がクリアになる感じ。自身の欲望のほとんどが,インターネットを通じて生成されていることに気づける。この辺のはなしは,ミステリィ作家 森博嗣先生が,エッセイにおいてくりかえし主張されているので,ぜひ一読を。例として,森博嗣:「お金の減らし方 (SB新書) 」[Amazon] ↩︎
タイトルとURLをコピーしました