誰も教えてくれない資産運用と市場経済の真実|知的幸福の技術 – 橘玲

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ちょっと体調を崩して,下宿にこもっていた。

あまりにも暇だったので,本棚に入っていた本を読み返していた。

文庫本の段から手に取ったのは,「橘玲著:知的幸福の技術―自由な人生のための40の物語 (幻冬舎文庫)」。たしか,学部3年くらいのときに,名駅前のジュンク堂で買った本だったと思う。

著者の橘玲氏は,言ってはいけない・触れてはいけない真実(いわゆる”タブー”)に言及していくことで有名(だと思う)。最近では,無理ゲー社会(小学館新書)が出版されて話題になっているようだ。

あまりにも淡々と,残酷な事実を綴っていくゆえ,読者からの評価も二分されていそうだが・・・自分は,こういうスカっとするような言い回しの新書やエッセイが好きだ。たとえば森博嗣氏のエッセイも同じような雰囲気。自分ではこういう考え方・モノの言い方ができないからこそ,読んでいて面白い。

今回の読書においては特に,以下の2節が興味深かった。誰も(もちろん学校でも)教えてくれなかった真実について,おぼろげながら把握することができた。

  • Investment 資産運用
  • The rules of the Market 市場経済

人は,夢やロマンあふれる物語を追い求めがちなのだけれど,本当に大事なことは無味乾燥で科学的な知識(あるいは技術)なのだ。

投資会社を沈黙させるノーベル賞理論

Harry Markowitz is awarded the Prize for having developed the theory of portfolio choice;
William Sharpe, for his contributions to the theory of price formation for financial assets, the so-called, Capital Asset Pricing Model (CAPM); and
Merton Miller, for his fundamental contributions to the theory of corporate finance.

The Prize in Economics 1990 – Press release

「負けない」ためのモダンポートフォリオ理論

目先の損得にとらわれてはならない。…人類の経験は長期投資こそ素晴らしいと教えている。…たった一つ問題があるとすれば,ほとんどの投資家がこの教えに従わないことだ。

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人は皆,無味乾燥な科学より心躍るわかりやすい物語を求めている。

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ノーベル経済学賞を受賞した理論「モダンポートフォリオ理論」によると,アクティブ・ファンドよりパッシブ・ファンドの方が優位であることはほとんど間違いないそうだ。これは,この理論が数学(もしくは科学?)によって組み立てられているから。インデックスファンドこそ,シロートが「負けない」投資法なのだ。

無味乾燥な科学とは,すなわち科学的理論に裏打ちされたモダンポートフォリオ理論のこと。これに対して,わかりやすい物語とは,専門家による助言(甘いささやき)であるだろう。いかにして,この甘いささやきに乗らず,「稼ぎたい!大勝ちしたい!」という欲望を理性(理論)で抑え込むか。これが,シロートが負けないポイントなのだと思われる。

一見するとつまらない”科学”こそが,真実。これを土台(基盤)として,ささやかな居場所をつくりあげることが,人生の成功のコツなのだろう。でも,現実ばかり見ていては疲れてしまう。大きい夢でなくていいから,ささやかな幸せ(ごはんがうまいとか,今日もいい天気だなとか)を見出して,それを楽しめれば十分なのだ。

夢だけを見て生きていくわけにはいかない。真実だけを突き付けられる世界は息苦しい。社会を支える相反する二つのルールと上手に折り合いをつけるところに,人生の知恵は生まれるのだろう。

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若いうちに金融への資本投下は不要?

十分な元金のない投資は無意味だと決めつけるわけではない。…老後とは生活の糧を労働から得るのではなく,年金と資産運用のみに依存することだ。…老後は誰もが一人の投資家になる。

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老後は,人的資本の投下が難しい。この生活は,年金と資産運用(金融資産)によってのみ支えられることとなる。年金の階数にかかわらず,金融の知識がないことは,人生後半における収入減の1本を失うことと同義だ。老後の支えが,年金の1本足打法になってしまうことは,その生活のすべてを日本国の危うい制度に依存してしまうことになる。これは,今の年金制度(あるいは社会保障制度)のようすを見ていると,危ないことだということがわかる。

人生後半(リタイア後)を支える2本の柱

また,「老後は,人的資本の投下が難しい」と書いたが,そもそも少しでも長く働けば老後はそれだけ短くなる。平均寿命は延びているのに,定年の制度改革はあまり進んでいない現状において,その制度に寄りかかって易々と引退してしまったら老後が長くなるばかり。できるだけ長く働けるようにすることも,金融の知識を身に付けるのと同じくらい大切なことだと考えられる。

老後の短縮?アーリーリタイヤ?

この本に書いてあったことではないが,著者は以下のインタビュー記事(日経新聞)において,アーリーリタイヤについても言及している。

参考:豊かな老後を生きる3つの黄金律 作家・橘玲氏に聞く: 日本経済新聞

この中では,働かないことによる人脈の消滅を欠点としたうえで,アーリーリタイヤには否定的な立場をとっていた。あくまでも働きながら,長期投資の恩恵にあずかりつつ生きていくのが,著者の最近の考えのようだ。これはつまり,金融の知識を生かして経済的自由を得つつ,長く働いて老後を短縮するという考え方だ。

──30~40代の間では、投資で資産を築いてアーリーリタイア(早期退職)する「FIRE」を目指す動きが広がっています。

自由な人生の土台はお金です。十分な資産があれば意に沿わない仕事をする必要もないし、配偶者の理不尽な扱いに耐えることもありません。さっさと退職・離婚すればいいのですから。これが「経済的自由(ファイナンシャルインディペンデンス、FI)」で、そこに早く到達しようとするのは理解できます。

ただ、アーリーリタイアを「仕事をしないこと」とするならば、それは定着しないと思います。仕事は社会資本(評価)と分かち難く結びついているので、人的資本を失えば人間関係や生きがいもなくなってしまいます。

米国でもアーリーリタイアした人が、やることがなくなって数年で復職する例が多いと聞きます。だとしたら、「経済的に自立し、好きな仕事を続ける」のがこれからの目指すべき人生設計になるのではないでしょうか。

参考:豊かな老後を生きる3つの黄金律 作家・橘玲氏に聞く: 日本経済新聞

このインタビュー記事は,大変参考になった。折に触れて読み返したい。

個人のエッジ(刃)を研ぐ

個人の優位性を「エッジ(刃)」という。誰もが自分のエッジを持っている。人的資本への投資とは,…自分だけの刃を研ぎ澄ますことだ。

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さっきの「老後を短く」という考え方には,上記のような心構えが必要。自分のエッジを,できるだけ早い段階(20代?)で見抜き,研ぎ澄まし,Specialistとして身を立てることが重要だ。

高い専門性を有していれば,それだけで「余人を以て代え難い」人材になる可能性が出てくる。年を食っていっても,重宝される可能性が増加するのだ。これは老後を短くすることにつながる。

なお,大企業への就職は,この点においては必ずしものぞましくないことがわかる。なぜなら,大企業に入ると,大抵の場合SpecialistではなくGeneralistとして育成されると考えられるからだ。しかし,それでは会社という第三者に寄りかかってしか働けない。これは,老後を短くするという目標から遠ざかる一因となりうる。

まとめ:時間とお金,どちらが余っている?

時間とお金,どちらが余っているかで,リソースの振り分け方は変わってくると考えられる。例えば以下のような具合。

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(i) 時間 > お金のとき:
焦らなくてよい。じっくり勉強して,Specialistになる準備を整える。並行して金融の知識(リテラシ)を身に付ける。息抜きにちょうどいい。

(ii) 時間 < お金のとき:
a) 奨学金完済前:マイナス分を(できれば繰り上げて)返済していく。そして,「ゼロ」から生活資金を抑えられるまでになったら,b)へ移行する。
b) まとまったお金を投資へ回す。NISA等活用して長期投資をスタート。

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時間が関わってくるのは,「人的資本」が圧倒的に大きい資本になる可能性を秘めているからだと考えている。若い時には時間をかけてじっくり勉強する。これによって,人的資本のリターンを増す。そのあと,リターンが増えてきたところで,今度は余分のお金を長期投資に回す。

こんなにうまくいくかはわからないけれど,少なくとも考えることは大切だと思う。というわけで,このブログ記事に書き残してみた。

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もうちょっと橘氏の書籍や,関連する書籍を読んで勉強してみようと思った。というわけで,この本の内容に関係があるであろう書籍たちを,amazonでポチった。

臆病者のための株入門|橘 玲

臆病者のための億万長者入門|橘 玲

証券投資の思想革命―ウォール街を変えたノーベル賞経済学者たち|ピーター・L. バーンスタイン

貧乏人のデイトレ 金持ちのインベストメント―ノーベル賞学者とスイス人富豪に学ぶ智恵|北村 慶

気が向いたら,この本たちの感想とかも書いていく。

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