SKELLをつかって英語論文の表現をネイティブlikeに向上させる

英語論文の日本語的でつたない表現は,ネイティブの人からすれば「違和感のある」表現となる。

「SKELL」をつかえば,大学院生のとぼしい語彙力では,まず思いつかないような言い回しを見つけられる。

この言い回しで元の表現を書き直せば,ネイティブの人が読んでも違和感のない:ネイティブlikeな表現に向上させられる。

SKELL:典型的なフレーズを学べるツール

SKELLは,「コーパス」とよばれるツールで,非英語話者の勉強において使用される。SKELLのWebページ(About SKELL)においては,以下のような説明がなされている。

SKELL (Sketch Engine for Language Learning) is a simple tool for students and teachers of English to easily check whether or how a particular phrase or a word is used by real speakers of English.

(SKELLは,英語学習者および教師が,本物の英語話者によって使われる典型的な単語もしくはフレーズであるかどうか,それはどのようなものかを簡単にチェックできるシンプルなツールです)[筆者訳]

https://www.sketchengine.eu/skell/

SKELLでは,ある単語に対して,セットでよく使われている単語を調べられる。

また,それらのセットが,どれくらいの頻度で使われているかという指標を見られる。具体的には,100万回あたり(per million)の出現頻度を見られる。この指標の高いものを選べば,それがそのまま”native like”な表現になるわけだ。

“mechanism”に合う表現は?

今書いている英語論文に,”mechanism”という単語を使っている。

これは和訳すると「機構」という意味で,日本語だと「○○の機構」という言い回しでよく使われる。

たとえば,「電気抵抗上昇の機構」という言い回しをそのまま(日本語的に)英訳すると

mechanisms of the electrial resistance rise…

となるだろう。実際,私は,今書いている論文の第1ドラフトに,そのように書いていた。ofを使っているところが,なんとも日本人の英語らしくてかっこ悪い。

ここで,SKELLにおいて “mechanism” という単語を検索すると,「Word sketch」のverbs with mechanism as subjectの項目において以下のような表現がヒットする。

1.underliemechanisms underlying
2.regulatemechanisms regulating
3.mediatemechanisms mediating
4.controlmechanisms controlling
5.involvemechanism involves
6.existmechanism exists
7.ensuremechanisms ensure that
8.linkmechanisms linking
9.evolvemechanisms have evolved
10.allowmechanism allows
11.governmechanisms governing
12.enablemechanism enabling
13.drivemechanisms driving
14.preventmechanism prevents the
15.operatemechanism operates

“mechanism”のWord sketch検索結果:https://skell.sketchengine.eu/#result?f=wordsketch&lang=en&query=mechanism

いかがだろうか?これを見たとき,私は,思わず「う~ん!カッコいい表現だ…」と唸ってしまった。underlieとかmediate,それにgovernあたりは,相当English writingに精通した,あるいは熟練した日本人はともかくとして,ふつうの日本人にはまず思いつかないだろう。

これを見て,私は以下のように言い回しを変えた。

mechanisms enabling the electrical resistance to rise…

いかがだろうか?これだけでも相当英語っぽい言い回しに変わったのが,おわかりいただけるだろうか。

enable A to ~という表現は,中高の英語で勉強するが,実際に使う場面は多くないだろう。このようにして使うと,なかなかイケてる表現だということがわかる。

ほかにも,以下のような言い回しも考えられる。

mechanisms underlying the electrical resistance rise…

機構というのは,「なにか目に見えているものごとのしくみ」であって,そのしくみの根っこ,つまり目に見えないようなところにあるものだ。

そのような “mechanism”という単語をunderlie = (…の)基礎となる,(…の)下にあると使うのは,まさにピッタリくる,とても自然な表現だと思える。

ちなみに,mechanism + underlieの出現頻度は0.29 hits per million,mechanism + enableの出現頻度は0.03 hits per millionであるので,mechanismにはunderlieが,enableよりも10倍多く,一緒に使われているということになる。(論文には,mechanism+underlieを採用しました)

SKELLでは,こういう出現頻度もわかるので,ネイティブにとってより自然な表現を選べる。

SKELLの便利な機能

このほかにも,SKELLには便利な機能がある。

Examplesのタブでは,検索した単語が使われている例文が見られる。比較的堅い,フォーマルな”書き言葉”の例文が多いので,論文を書くときには役立つ。

“mechanism”の例文集

Similar wordsタブでは,検索した単語の類義語が見られる。ただ単に類義語を調べるだけなら,WeblioなどWebで適当に検索してもヒットする。このSKELLで類義語を見ると,その類義語と検索した語が,ネイティブ的に「近い」か「遠い」かが一目でわかるようになっている。

たとえば,”mechanism”であれば,methodやfunction,processなどが類義語としてヒットした。周囲には,structureやfactor,control,approachなど,「遠い」類義語も小さく表示されている。このようにして,一覧性の高い類義語検索ができる。

最初に例示したWord sketchのタブでは,先述のように,検索した単語とよく使われる「自然」なフレーズを見られる。先ほどは名詞[noun]を調べたが,今度は動詞[verb]として “indicate”を調べてみた。

Word sketchの結果は以下の通り。indicateを高頻度で述語にとる主語 [subject]は,reportやstudy,evidence,resultなど…いずれも学術論文で使うような堅い単語が多い。たしかに,indicateは「~を示唆する」という意をもち,学術論文では非常によく使われる表現だ。

目的語[object]も眺めてみると,presenceやdirection,lack,willingness,importanceなどが並んでいる。いずれもやや抽象度が高い表現だ。このように,頻出するobjectをみれば,どういったニュアンスの語を目的語にとるのかを考えられる。類義語のobjectと比較すれば,検索した語句の使い分けも適切になるはずだ。

indicateのWord sketch。subjectには堅い語が,objectには抽象度の高い語が並んでいる。

まとめ:「違和感のない表現」を選ぶ難しさ

非英語話者が,英語話者(ネイティブ)にとって「違和感のない表現」を選び取ることは難しい。

なぜなら,日本語話者は生まれたときから日本語が使われている空間で育っており,言語のベースが日本語になっているからだ。

そこで,SKELLをはじめとした「コーパス」を活用すれば,ネイティブにとって違和感のない表現に少しでも近づけられる。

これは,正確かつ論理的な表現を要求される学術論文の執筆において,特に有効だと考えられる。英語という言語自体が,日本語よりはるかに論理的なので,ネイティブlikeな表現を使っていけば,おのずと論理的な論文に近づいていくと思う。

今後,英語論文を書いていくときは,推敲の段階で積極的に使っていきたい。

参考文献:今井むつみ「英語独習法」

ほかのコーパスや,より詳しいSKELLの使い方は,以下の書籍にて紹介されている。この書籍では,「書くことよりはじめよ」というスタイルの英語独習法を紹介している。大学院生にはちょうどいいレベルの本だったので,英語論文を書き始める院生は,一度読んでおくといいと思う。

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