今月読んだ本(2023年6月)

今月読んだのは以下の3冊。

  • 読んでいない本について堂々と語る方法(ちくま学芸文庫)
  • 「複雑系」入門(ブルーバックス)
  • ロングテール(ハヤカワNF文庫)
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2023年6月に読んだ本

読んでいない本について堂々と語る方法 (ちくま学芸文庫)

ピエール バイヤール(大浦 康介 訳):『読んでいない本について堂々と語る方法 (ちくま学芸文庫)

久しぶりに「読書記録」をポストしたのは,この本に影響を受けたからだ。読書感想文のハードルを下げてくれる本だった。というわけで,以下では,本書に習い,本の内容をでっち上げ,自分語りをはさみつつ,覚えていること(いないこと)を,つらつらと書いていく。

教養をみにつける一般的な手段は,読書(よむこと)だと考えられている。これに対して本書は,教養とは,結局のところ,創造あるいは創発(クリエイティブ)のためのタネにすぎず,1冊の本をじっくり読むよりも,1冊の本と別の本あるいはさらにほかの本の「関係性」を把握することが重要であると主張していた。

読書の本質とは,その本に書いてあることを一から十まで把握することではない。そうではなくて,この本が,いままで読んできた本(あるいは,読んでいない本)と,どういう関係(位置)にあるのか,社会問題や自分の仕事と,どう結びついてくるのか。それを知ることが本質だといっていた。

この,ある本と別の本との関係性のネットワークは,個々人が心の中に拡げている。いわば,<内なる図書館>であり,これを把握することが大切だということだ。インターネットでなんでもすぐに調べられる今の時代,本の内容をいちいち覚えておく必要性はない。それよりも,「どこに」「何が」あるのか,そういう「位置的」「相関的」な情報を知っておくことの方が,大切だといえる。

読んだ内容を忘れる,ということについては,以下の本でも主張されていた。そのものずばりのタイトル。

落合陽一:忘れる読書 (PHP新書)

以上のことは,本屋に行って立ち読みするだけ,あるいは,ぎっしりつまった本棚の背表紙を眺めているだけでも「本を読んだ気になる」ことから,確かめられる。家で頑張って読むよりも,書店をぐるぐるめぐる方が楽しい理由がわかった。

「複雑系」入門 (ブルーバックス)

金 重明:『「複雑系」入門 カオス、フラクタルから生命の謎まで (ブルーバックス)

カオスやフラクタルについては,金融関係の教養書を何冊か読んで,ことばだけは知っていた。「バタフライエフェクト」なんかも最近では有名。

そういえば,大学1年生の教養課程で,微分積分学の先生が,カオスの専門だったと思う(講義はカオスどころか,数学の先生にしては珍しく丁寧で,試験問題も易しかった)。大学の講義に関連して思い出すのが,数値解析の講義。ここでは,フラクタル図形を描画するプログラムを,C言語で書くなんて課題があったように記憶している。当時は,Javaで動くソフトが,図形を描画していくようすをぼんやり眺めていただけで,それがいかにすごいことなのかを理解していなかった。

カオスやフラクタルといったものが「複雑系」と呼ばれているもので,本書は,それが生まれてくる過程をわかりやすく解説した本。複雑系は,古典力学から量子力学へと連なる物理学上のブレイクスルーに続くもので,この本では,その主たる例が紹介されていた。数学を中心とした,理論に近いところの例が載っていた。本書に形成されていたグラフィカルな図で,どこまで拡大していっても同じ形状が現れることが示されており心底驚いた。これは「自己相似」と呼ばれる,複雑系の特徴の1つ。

「複雑系」は,従来の科学の枠組みでは説明できない現象を,ボトムアップ的に説明できるかもしれない。科学の常とう手段として,ある現象の要因を,これ以上分解できないところまで分解して考える,というものがあるが,「複雑系」ではそれが通用しない。そもそも,そういった手段が通じるのは,ごく狭い範囲で,実は社会のほとんどの問題は,複雑系として考え,アプローチする必要があるのかもしれない。

著者は,あとがきにおいて,そういった社会・歴史・経済への応用についても,書きたいと,意欲をにじませていたのが印象的だった。続編が出たら,ぜひ読みたい。

ロングテール (ハヤカワNF)

クリス・アンダーソン(篠森 ゆりこ 訳):『ロングテール‐「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

「ロングテール」については,過去に一度このブログで紹介した。

関連記事:ブログのアクセス数分布でも「べき乗則」が成立していた話

「ロングテール」をはじめて知ったのは,「ファンベース ──支持され、愛され、長く売れ続けるために (ちくま新書)」を読んだときだ。上記の記事では,今回読んだアンダーソン氏の「ロングテール」をリンクしていた。潜在的に,「いずれ読もう」と思っていたのかもしれない。

ハヤカワNFということで,原著は日本語でない。こういうアメリカのビジネス書は,説明したい1つの概念について,とにかく多くの事例を異なる視点から取り上げることで,読者に対して刷り込んでいく手法がとられる。この本も例外ではなく,「ロングテール」にかかわる数多くの事例が挙げられていた。

この本が刊行されたのは,たしか2014年とかだったはず。もう9年も前になるが,内容としてはまだまだ通用するものだった。現在は,ここに書いてあることが,大衆の裾野まで広がって来たと見える。

インターネットは,在庫という概念をなくして,あらゆるものがデータ化する時代をつくった。IoT(Internet Of Things)ということばは,もうすっかりおなじみ。

少数のプロバイダ(提供者)が,少数の製品(Product)やサービス(Service)を,多数の消費者(Mass)へ供給する時代は終わりつつある。

現代は「潤沢の時代」。細部にまでこだわったモノやサービスを,1つから作れるようになった。これによって,供給者が消費者の「こだわり」に応えられるようになった。

そして,そういったモノやサービスに対する評価は,「口コミ」(これは現代最強の評判拡散ツール)で,ほとんどわずかな時間で拡散するようになった。消費者の「こだわり」や「好み」に,少しでもフィットしないものは,その「ズレ」が,すぐさま,ネット上に湧きだしてくる。

対応の遅い,従来のプロバイダでは,こういった声にこたえられなくなってくる。かくして,ボトムアップ,あるいは,草の根的な社会がやってくると考えられる。

(以上)

今回紹介した本のリンク

この記事で紹介した書籍は,以下のリンクから購入できます。

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